第5話 はちみつ紅茶が映す真実

「で、それで許しちゃったの?」

「は、はい……」

「甘い!! 甘いわよ、コルネリアっ!!!」

「──っ!!」


 紅茶が零れるほど強くソーサーにコップが置かれた。

 よく晴れた日の午後、コルネリアとクリスティーナは仲良くお茶会を開いている。

 クリスティーナの執務が忙しくなった影響もあり、近頃は隔週に一度程度のお茶会と言う名の女子会が開催されていた。


 コルネリアから先日のレオンハルトとの約束の一件を聞いた彼女は、思わず立ち上がってこの場にいない彼に抗議する。

 口をぷくりと膨らませて腰に手を当てながら、大きなため息を吐く。


「あ~やだわ、ちょ~っと見た目がいいからってそんな色仕掛けみたいな」

「い、色仕掛け……」

「そうよっ! コルネリアを弄んで許せないわっ!!」


 自分以上に自分を心配して怒ってくれる可愛らしい王女様に、コルネリアは心があたたかくなり嬉しくなった。


(クリスティーナ様はなんて素敵な方なんでしょう……)


 シルクのような艶めかしい金色の髪に太陽の光があたり、キラキラと輝いている。

 感情を露わにしながらも品よく紅茶を飲む様は、美しく絵画のよう。


「そういえば、最近はリュディーのカフェに行ってる?」

「あ、はいっ! つい一昨日もレオンハルト様と一緒に伺いました。今度はレモンケーキが新発売されていて、ついいただいてしまいました」

「あら、それは美味しそうね! 今度リュディーに言って分けてもらおうかしら」


 そう言いながら、シフォンケーキを口にする。

 クリスティーナは顔を綻ばせて、目の前に座るコルネリアに「食べて」と勧める。

 二人は好みのものが合うようで、何かと意気投合してはこうして共有し合って楽しんでいた。


「そういえば、リュディーさんがクリスティーナ様のご様子を気にされてました」

「えっ?!」


 ものすごく高い声で驚いた返事をすると、瞬きの回数を多くしては少し落ち着きのない表情を浮かべる。

 コルネリアはその変化を感じ取り、首を傾げた。

 すると、こほん、と咳払いをしたあとでゆっくりとコルネリアに問いかける。


「──リュディーはなんて?」

「え?」

「なんか私のこと言ってた?」

「えっと、最近ご公務が多くて睡眠時間が少なくなってそうだから心配だと」

「…………」

「クリスティーナ様?」


 クリスティーナは少し伏し目がちになり、目の前にいる情報提供者に礼を言う。


「ありがとう。まさか、彼にバレてるとは思わなかったわ」

「リュディーさんはクリスティーナ様の話をよくしますよ」

「まったく、世話焼きなんだから」


 そう言いながら紅茶をゆっくり飲み干す。

 その顔はほんのりと赤くなっていた──



 アフタヌーティーが終わりに差し掛かった頃、コルネリアはクリスティーナに一つの相談をした。


「クリスティーナ様、レオンハルト様の呪いのことは……」

「ええ、聞いたわ。ありがとう、彼を救ってくれて」

「いいえ、私は慌てふためいて何もできませんでした。なにも……」


 そう言いながら伏し目がちになるコルネリアの手を掬いあげると、柔らかい笑顔で告げる。


「あなたがいなかったら、そのままレオンハルトは死んでしまっていたかもしれない。あなたがいたから一命を取り留めたの」

「クリスティーナ様……」

「大丈夫、彼とあなたのことは必ず私達が守ってみせるわ」

「……?」


 『守る』という意味がわからず、コルネリアは瞬きをして言葉を咀嚼しようとする。

 彼女の戸惑いがわかったのか、「ごめんなさい」と呟きながら目を閉じた。


 そして、クリスティーナは覚悟を決めた表情で顔をあげて言う。


「あなたには言わなければならないわね。レオンハルトの過去を、それから……彼の秘密を……」


 そう言いながら、クリスティーナは語り始めた──

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