第26話 さて、そろそろ罪を贖ってもらおうか(1)
コルネリアが恋に自覚をして想いを伝えた少し前、ルセック家では大変な騒動が起こっていた。
ルセック伯爵の不貞によって、伯爵夫人は怒り狂って実家に帰ったあと、自分の夫の不倫を父親に訴えた。
娘の訴えを聞き、義理の息子に対して大きな怒りを覚えた彼は、ルセック邸に乗り込んだのだ。
「どういうことだね、ビストくんっ!!」
「お、お義父さんっ!!」
「娘から聞いたよ、不倫して娘を悲しませるとはどういう領分なんだっ!!!!」
「いや、その、えっと……」
あまりの形相と彼の立場からして、恐ろしすぎてルセック伯爵はその場にへたり込む。
それも無理ない。
ルセック伯爵夫人の父親は、鬼のように恐ろしく筋肉隆々の体つきをしており、さらに気性も荒くて有名だった。
巷では彼の赤い目の色と性格から、『鉄血伯爵』と呼ばれているほどで、彼の怒りを買ったものは等しく生気を失うほどになる。
そんな彼の娘と結婚したわけだが、同じ伯爵家格であっても彼女の家のほうが上であった。
特に夫人と結婚してからは、ルセック伯爵は多額の支援金を彼女の実家、つまりこの『鉄血伯爵』と呼ばれるチャール伯爵から受け取っており、頭が上がらなかった。
そんな状況下での不倫発覚。
もうルセック伯爵にとって最大のピンチと言っても過言ではない。
その場にへたり込んだ彼は、チャール伯爵の形相に恐れをなしてがくがくと震えながら何も言い返せずにいた。
チャール伯爵のすぐ後ろには、ルセック伯爵夫人がふん、といった様子で腕組みしながら夫を見ている。
「君を信用して多額の支援をしたんだよっ!! まさか恩を仇で返すとはなっ!!」
「違うんですっ!! これにはわけが……!!!」
「不倫にわけも何もあるかっ!! うちの娘を悲しませた罪は重いぞ?!」
「ひいいっ!!!!!!!!」
鬼のように憤慨して真っ赤にした顔がルセック伯爵の顔に近づけられ、彼はもう虫の息。
その様子を見てルセック伯爵夫人は、いい気味ね、といった感じでにやりとその赤い紅で彩られた形のいい唇を動かして笑う。
そして、少し収まったかに思えたチャール伯爵が、ルセック伯爵に目をやったまま笑って、そして一気に怖い顔に変化して低い声で言う。
「さて、次はお前の番だな。ミレット」
「……え?」
チャール伯爵はルセック伯爵へ向けた目をそのまま少し後ろにいた娘であり、ルセック伯爵夫人である彼女へと向けた。
なぜ自分がそのような目を向けられるのかわからず、戸惑いを隠せない。
すると、チャール伯爵は冷たい表情を娘のミレット、そしてもう生気を失っているルセック伯爵に告げた。
「お前たちは子供ができないからと聖女の子供を引き取ったといっていたな」
「──っ!!」
「その子にどんな仕打ちをした? お前たちは愛情を向けず、道具のように扱い、そして力が尽きた彼女を地下牢で何年も閉じ込めたそうだな」
「なぜ、それを、お父様が……」
その答えにすぐさま答えることはせずに、代わりにミレットに言う。
「ミレット、お前がいくらうちに戻りたいと言ってきても、もううちの敷居を跨がせはしない」
「お父様っ!! それはっ!!」
「そんな非情で人間の温かみの欠片もない仕打ちしかできないお前は、不倫をされても自業自得だ。勝手にしなさい」
「そんな……!」
ミレットはよほど驚いたのか、まさか自分に矛先が向けられると思っていなかったのか、泣いて叫ぶもチャール伯爵は取り合わない。
そして最後に、といった様子でチャール伯爵は懐から封筒を取り出すと、ルセック伯爵の前に置く。
「さあ、私から言いたいことはこれで終わった。あとはその招待状を持って王宮に向かうといい」
呆然とするルセック伯爵の代わりに、その封筒を乱暴に開けると、中に書いてある文章をみてミレットは血の気が引く。
「ヴァイス公爵からの、招集命令……」
彼の呼び出し……つまりは王族からの呼び出しを受けて、二人ともその場に座って動けなくなった。
裁きの時が近づいていた──
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