第2話 近づく恐怖

 目覚ましの音がなり、奈菜は止めると大きいあくびをした。窓を見ると、微かに日の出が出ていた。


 ベットから降り、洗面台に行って冷たい水で顔を洗った。


 服に着替え終わると、扉を叩く音が聞こえた。


「おはようございます奈菜さん。お着換えは済みましたか?」

「はい、済みました。どうぞお入りください」


 奈菜は声を掛けると、扉からティーカートに食事を乗せて執事が出てきた。


「おはようございます執事さん」

「はい、あと今日は午前午後どちらとも晴れでございますが、今日は少し強く寒いですので、風邪を引かないように」

「わかりました。ありがとうございます」


 奈菜はお礼を言うと、執事はそのまま部屋を出た。


 椅子に座り、手をあわせて「いただきます」と言うと、食べ始めた。


 食べ終え、歯磨きをしてから駆け足で書斎に向かった。


 書斎に着き、ドアを軽く叩くと扉から債務の声がし、中に入って行った。


「おはようございます勇さん。今日のお仕事は」

「おはよう。えーとね、昨日はお掃除してくれたから、外の掃除とあと水やり。ゴミは倉庫の後ろに焼却炉あるんだ。それに枯葉を入れて、火で燃やしてくれ。マッチは私から渡す。終わったら返すこと。ジャグがあったからそれに水を入れてね。あとはここの屋敷内の窓を雑巾で吹いてね。昨日行った部屋に真新しいのがあるからそれを使ってね。それから、そこからは私が声を掛け次第だけど、あっ、そうだ。森を探索してきて良いよ。ここ、私の敷地だから凶暴な動物はいないよ。いるとしても小鳥ぐらいだからさ。裏から行けば通り道があるからそこを通ればいいから、帰り道は通った道を引き返せばいいだけだから。わかった?」

「はい、分かりました」


 奈菜は「失礼します」と言い、書斎を出た。


 外に出ると、寒い風が横から流れて来た。思わず身震いをし、手に息を吹き掛けると白い煙が出てきた。


「寒い」奈菜は一言言うと、そのまま駆け足で倉庫に向かった。


 倉庫から箒とちり、ジャグを持って行った。


 周りを見てみると、風のせいか近くにある木の枯葉が昨日より散らばっていた。


(昨日あれだけ掃除したのに)


 奈菜は頬を膨らませながらも、ジャグとちりを扉の横に置いて、枯葉を箒で集め始めた。


 掃除しながらも、微かに風が吹いて枯葉を動かしているせいでせっかく集めたのがまた散らばってしまうことに腹を立ったが、すぐに終わらせてしまえばいいことなため、箒を少し早く振った。


 枯葉を集めるのを終え、そのまま焼却炉で焼き、ちりと箒を倉庫に戻してからジャグに水を入れに行った。


 綺麗に花に水を入れていると、先ほどのイラつきがドンドン薄くなっていった。


「やっぱりお花は綺麗だなぁ。それにしてもこのお花、あまり見たことないな」


 見たことない花を見て思い、奈菜は楽しい気持ちになりながら水やりを続けた。


 勇に言われた仕事を終え、ジャグを片付けた後、奈菜はポストの中を確認しようと思いながら鉄の扉に行き、蓋を開けると新聞が入っていたため、取り出すとまたすぐに屋敷の中に入って行った。


 書斎に行き、再びドアを三階叩いた。


「どうぞー」


 勇の声がし、「失礼します」と言いながら書斎の中に入って行った。


「新聞が入っていたため、お届けに参りました」

「あぁ、ありがとう。机の上に置いといてくれ」


 勇は何か資料を見ながら机に指を指した。


 新聞を置き、奈菜は書斎を出ていった。掃除道具置き場の部屋に息、中を見わたすと新しい雑巾が詰められた箱があった。


 一枚取り、バケツを持って部屋を出た。


 水を入れ、廊下の窓を脚立などを使って綺麗に吹いた。


 一階全部の窓を吹き終え、水が入った重いバケツを持って二階に目指した。


 階段を上っていると、気配を感じて後ろを振り返ったが、そこにはただ濃い赤い色の絨毯が広がっているだけだった。


(何かしら。まさか、虫じゃあないわよね)


 奈菜は心の中で虫が出ないでくださいと願いながら二階に目指した。


 バケツを置き、下に置いてあった脚立を二階にってきて再び仕事を再開した。


 部屋と廊下にある窓を全部吹き終え、奈菜は大きく息をはいた。


「ふぅ、よし。仕事終わりっと」


 奈菜はバケツに入っている水を捨て、脚立を倉庫の部屋に置いた。


「どうしよっかなー。あっ、そうだ」


 奈菜は先ほど勇が言った森の探索と言う言葉を思い出し、そうしようと思った。


 エプロンを部屋に置き、上着を来てから書斎に向かった。


 ドアを3回叩くと、勇の声が聞こえてきた。


「はーい」


 奈菜はいつも通り声を掛けながら部屋に入った。


「あの、森に出掛けてきます」

「あぁ、気よ付けて行ってらっしゃい」

「はい、それでは行ってきます」


 奈菜は「失礼しました」と声を掛けて書斎を出ていった。


 上着とマフラーを着ると、屋敷を出て玄関に向かった。


 冷たい扉を開けると、鉄の軋む音が響きわたる。左の道に進んでいる間、横からキンモクセイの甘い香りが匂ってきて、心が落ち着いてくる。


 進んでいると、森のトンネルのような所に来た。周りには緑色の木の他枯葉が交じっている。


「なんか不思議な感じ」


 奈菜は周りを見ながら言うと、足を歩めた。


 歩いている間、とても寒い風が吹いていたが自然の香りがしてきて心が落ち着いている。


 聞こえるとしたら、カサカサと落ち葉を自分が踏む音と風の音が聞こえてくる。


(んー! 休みの時間にここを歩くのもいいね。心地いいし、何よりも空気が綺麗だしね)


 奈菜は背伸びをして思った。


 長い道のりを歩いていると、トンネルが抜ける場所が見えてきた。


(おっ、あそこが終点か)


 奈菜はどんな風景が見えるか想像しながらも、足早に森の出口に向かった。


 抜けると、そこには村や町の風景が見えた。


「うわぁ、綺麗」


 奈菜は目の前の風景に感動し、人が落ちないように補助してある柵まで行った。


 普段あまりこのような綺麗な夜景はあまり見たことが無かったので、奈菜はとても良い所を見つけたなっと感じた。


 これが夜だったらどんな風景になるか見たくはなるが、なにせ禁止されているため少し残念だなと思った。


 街と空の風景を眺めていると、後ろから無数の視線を感じ、反射的に振り返ったが誰もいなかった。


(何、今の)


 奈菜は疑問に思いながらも、再び顔を前に向けた。


 しばらく風景を眺めた奈菜は、そろそろ戻ったほうが良いだろうと思い、来た道を引き返した。


 引き返している途中、何かが着いてきているような音がした。けれどそれは足音ではなく、ずずずっと音が聞こえた。


 奈菜は振り返ろうとしたが、怖くて振り向けずにいた。後ろを見ないまま、森の入り口まで走った。


 入り口に着き、奈菜は息を整えてようやく振り返った。あるのは森の道と落ち葉と木だけだ。


「なんなのよ、一体」


 奈菜は怖がりながらも、屋敷に向かった。


 屋敷に入り、奈菜は「ただいま戻りました」と大きい声で言うと、階段の方から本を抱えた勇がいた。


「あぁお帰り奈菜さん。どうだった。森は」

「とてもよかったです。町の風景が見えて、わたしあまり見たことがなかったので中々刺激的な雰囲気でした。でも、帰りがちょっと」

「帰り? 真っ直ぐな道のはずだし、引き返すのも簡単な道のりのはずなんだが」


 勇は不思議がって言うと、奈菜は帰りの出来事を詳しく勇に説明した。


 説明し終えると、勇は顔を暗くした。


「そうか。大蛇みたいな音か」

「えぇ、でも今十月ですから流石にいないと思いますし、それに大きい大蛇なんかここにいませんし、いるとしてもアフリカのどこかでしかありませんからね」


 奈菜は変に心配をされないように笑顔で答えた。勇も同じく笑顔になった。


「そうか、まぁ良い。着替えてきたら仕事を頼むよ」

「はい」


 奈菜は勇に頭を下げると、駆け足で自分の部屋に向かった。


 部屋に着き、エプロン姿に戻って何をしようかと思ったが、箒で廊下のゴミを集めるぐらいの方にしようと掃除置き場の部屋に行き、道具を取ろうとすると呼び鈴の音が鳴り出した。


「あっ、奈菜さんごめんなさい。出てくれるかな? ちょっと離せられないから。ちょっと食材だからそのままキッチンの方に運んでね。印鑑は下駄箱の左側にあるからそこから取り出してね」


 勇は扉か顔を取り出し、叫びながら奈菜に伝えた。


「わかりました」


 奈菜は武の声に返事をしてから駆け足で下駄箱に行き、言われた通り開けて左側を見ると小さい箱が置かれていた。


 手に取り、外に出ると玄関には仕事服を着ていた男性が立っていた。


「あっ、こんにちわ」


 男性は奈菜を見ると笑顔で頭を下げた。


 奈菜は「こんにちわ」と返しながら近づき、玄関を開けた。男性の横には台車の上に大きい箱が二個置かれていた。


 奈菜はハンコを押し、男性に「お疲れ様です」と言いながら鉄の扉をしめた。


 台車を屋敷内に入れ、そのままキッチンまで行くと昨日の明が笑顔でいた。


「あっ」

「やぁ奈菜さん。ありがとうね。運んでくれて」


 明は笑顔で言いながら一つの箱に目を付け、ポケットの中に入れていたカッターで切り、蓋を開けた。箱の中には野菜と片栗粉、牛乳と駄菓子が入っていた。


「さぁてと、箱の中身は僕が入れておくから奈菜さんは掃除しと居て頂戴」

「えっ? お手伝いしますよ」

「いやいいよ。奈菜さんは掃除でもしといて。それだと旦那様に怒られるかね」


 コックはそういうと、台車を持ってそのままキッチンの方へ消えて行った。


 奈菜は少し申し訳なさそうにしながらも、先ほどの箒を抱えて掃除をし始めた。


 軽くはき、2階の廊下もはいてから残りのゴミを捨てて、道具を元の場所に戻した。


 書斎を叩こうとすると、扉の向こうから勇の声が聞こえている。きっと会社からだろうと思い、奈菜は叩くのをやめた。


 すると、横から執事が奈菜の肩を軽く叩いた。


「奈菜さん」


 急なことに奈菜は小さい声で悲鳴をた。


「きゃっ、はい。なんでしょうか」

「驚かせて申し訳ありません。あの、ちょっとお手伝いをして欲しいことがあるのですが、良いですか」

「えぇ、かまいません。丁度暇をしていたので」

「そうですか。すいませんが、私は少し遠出をします。町の方に古本屋があるんです。そこで少し買い物をしますので、出来れば3階を掃除してくれませんでしょうか。あっ、このことは旦那様には内緒でお願いします」

「内緒? なぜですか?」


 奈菜は疑問に思っていると、執事は耳打ち程度の声で言った。


「なぜなのかは旦那様は言わなくて、おまけに私たちもあまり知りません。なので、できれば3階は行かせたくないのですが、早く買わなければならない本があるので、どうか内緒にしてくださいますか?」

「別に構いませんよ。もちろん。内緒にもします」


 なぜ3階に行かせたくないのかはどうか分からないが、きっと奈菜が車で1人だったためかこのような休みはあまり取っていないのだろうと思い、「わかりました」とだけを言い、掃除置き場の場所に行き、掃除機を抱えて三階に向かった。


 2階に行き、3階に向かう階段を見上げた。


(ちょっとぐらいなら、良いよね)


 奈菜は心の中で勇に「すみません、失礼します」と言い、三階に向かった。


 3階に向かっていると、1階から2階とは違いとても肌寒いのを感じた。徐々に近づいていく中、なぜか執事が掃除しているはずなのにホコリの匂いがし、奈菜は咳き込んだ。


「げほっ、なにこれ」


 3階に着くと、そこには1階と2階と同じのように部屋が7つあったが、周りに蜘蛛の巣とホコリで充満していた。


 奈菜は口を押さえながら窓を開けて空気を吸った。


「はぁ、はぁ、執事さん。掃除しているって言っといてなんで掃除してないのよ」


 奈菜は呆れながら先ほどの自分に後悔したが、このままほっといていたら虫や蜘蛛が増えるかもしれないと思いながら掃除をし始めた。

 

一つ目の部屋は廊下と同じぐらいの匂いで思わす咳き込んだ。周りには古びたソファに椅子、タンスが五つ置かれていた。コンセントを刺そうと思ったがここにもホコリが溜まっていた。これではコードさすとホコリのせいで火事になりかねない可能性だってあるのに、奈菜はため息をはいてからティッシュでほこりを綺麗にふき取り、指し込んでから掃除を始めた。


 一部屋だけで掃除機の中身はパンパンになり、奈菜は大きくため息を出した。


「はぁ、帰ってきたら文句言わなきゃ。それと、確認ね。掃除したかどうかもたしかめなくちゃ」


 奈菜は帰ってきたら思いっきり文句を言うおうと思いながら2つ目の部屋に入ってきた。


 2つ目の部屋はホコリの匂いはなく、ベットと椅子の部屋だけが置いてあったが、なぜかここの部屋は窓以外は黒く塗りつぶされていた。


(ベットとかあるというのは、執事さんの部屋かな。けどなんで自分の部屋は綺麗で他の所は掃除していないのよ)


 頬を膨らませたが、一応ホコリとかはあまりないため掃除しなくて良いだろうと、奈菜は部屋を出た。


 3つ目の部屋は昔のアルバムが沢山積まれていた。奈菜は窓を開けて、本棚に積っているホコリをはらって、掃除機を掛けた。


 四つ目のお部屋を開けようとすると。


(あれ? 開かない。ここ鍵付いているのかしら)


 奈菜はそう思い、最後の部屋を掃除することにした。部屋は一面何もなく、ただ脚立と引っ掛け棒があるだけだった。


 箒を振ると、すぐに床に散らばっていたがごみが積み上げてきた。


(どれだけ掃除してないのかしら?)


 奈菜は箒を振りながら、積み上げてくるゴミを見て思った。


「はぁ、やっと終わった」


 奈菜は大きくため息をはくと、部屋を出て、掃除機を抱えたまま下に向かおうとした。


 何かが背中にトンと触れた。


「!」


 奈菜はすぐに後ろを振り返ったが、何もいない。


 怖くなった奈菜は駆け足で1階に向かった。


 掃除置き場の部屋に掃除機を置き、扉を閉めると奈菜は「はぁ」と大きくため息をはいた。


「奈菜さん」


 声を掛けられ、見てみるとそこには明がいた。


「あっ、明さん。なんですか?」

「そろそろお菓子のお時間ですので、自分の部屋にお戻りください」

「えっ」


 お菓子の時間、奈菜は思わず腕時計を見ると既に3時となっていた。


(時間過ぎるの早くない? そんなに掃除していたかしら)

「でも、旦那様は」

「あぁ、安心してください。3時ぐらいなると大体私達はお茶をするんですよ。旦那様は今はお忙しいので私が伝えにきました。お菓子はお部屋に置いときましたので、では」


 明は奈菜に頭を下げると、そのままキッチンの方へと消えていった。


 奈菜はそのまま自分の部屋に行き、扉を開けるとティーカートに乗せられたお菓子が窓のそばに置かれていた。


 ティーカートにはミルクティとケーキと駄菓子が綺麗に置かれていた。


「これはまた、凄い」


 奈菜はエプロンを外し、手をあわせて「いただきます」と言った。


 お菓子を食べながら窓を見た。外には先ほどの森の木が見えている。


 枯葉がまた風で舞い、他の所に落ちるのを繰り返していた。


(明日も絶対花畑に枯葉が落ちていると思うと、気が沈むな。あれを一人だけでやるとしたら尚更なぁ)


 奈菜はミルクティーを一口飲んでホッと一息を着いた。


 お菓子を食べ終え、奈菜はティーカーに元に戻して廊下に出そうと扉を開けると、目の前にはいつの間にか帰ってきた執事がいた。


「お皿を下げに来ました」


 執事はいつもの声のトーンで言ったが、奈菜は3階のことが思い出してすぐに文句を言った。


「執事さん。あの部屋は何ですか! 全く掃除をしていないじゃありませんか。埃だらけだし蜘蛛の巣だって貼ってある。一体全体3階で何をしているんですか。今度からは掃除したら私が確認しますから。良いですね!」


 奈菜は叱ると、執事は「申し訳ありません。あと、旦那様からの伝言で、私からの指示があるまで部屋、図書室に行っても構わないだそうです。では、失礼します」と言い、ティーカートを持ってその場を去った。


 少し不満がりながらも、奈菜は扉を閉めた。


 読みかけの本を持ち、図書館の部屋に行って呼んだ。


 時計の針の動く音が聞こえ、外からまた風の音と烏の声が聞こえてくる。


(本当にここは落ち着くなぁ)


 奈菜は本を読んでいると瞼が重くなるのを感じたが、あることが思い浮かんだ。


(あの音、執事が掃除していなかったら一体なんだろ)


 執事の部屋と奈菜が泊まっている部屋の位置は違うため、上から掃除しているが聞こえない。それならあのミシミシと音がするのは一体なんだろうか。奈菜は音の事を考えた。


 けたましい音が鳴り響き、奈菜はすぐに目を覚ました。

 

 窓を見ると、薄っすらと夜が浮かんでいる。


(やばい、どれくらい眠ったんだろう)


 奈菜はすぐに読みかけの本を本棚に戻し、書斎に向かった。


 書斎に行き、ドアを3回叩いて声を掛けながら中に入った。


「失礼します」

「あぁ、奈菜さん。おはよう。その焦りは寝ていたかな?」


 勇の言葉に奈菜はポッと顔を赤めた。


「それでは早速午後の仕事内容を言うね。お風呂掃除と今日はお皿を洗ってほしい。それからポストの確認ね。ポストに何か入っていたら持ってきて頂戴。それが終わったら食事を取って今日2日目も終了。そのあと10時以内までは3階と外以外は動いても構わないけど、十時近くになったら自分の部屋に行ってね」


 3階という言葉に一瞬ぎくりとしたが、バレないように普通通りの顔をした。


「わかりました。あの、勇さん」

「ん? なんだい?」

「なぜ10時以降部屋から出てはいけないのですか?」

 

 奈菜は咄嗟に質問をすると、勇は「あー」と頬を人差し指で掻いた。


「私が10時近くになったら寝るんだよ。それで物音とかうるさいから10時以降には部屋を出ない欲しいんだ。ただそれだけだよ」


 勇は本を本棚の中に入れた。奈菜は聞かなきゃよかったと心の中で後悔をした。


「そうでしたか、すいませんでした」

「いや良いよ。10時以降に部屋を出てはいけないっていう理由を説明しとけば良かったね。ごめんね」

「いえ、滅相も御座いません。すぐにポストの中見てきますね」

「うん。気よ付けてね」


 奈菜は書斎の扉を閉め、駆け足でポストの方まで向かった。外に行き、花畑の道を通って大きい鉄の玄関を開けた。


(ん、なんだこれ)


 ポストの下には黒い箱が一つだけ置かれていた。


(なんで、配達の人なら呼び鈴を鳴らすはずなのに)


 奈菜はポストの中身に入っている手紙を取り、下にある箱を持ちあげた。


 持ち上げてみると少し重かった。中には何が入っているのだろう。蓋には名前が書いていないため、誰が送ってきたのかを奈菜は手紙を脇に挟んで、箱の端らへんを見た。


「えっ。私宛?」


 箱の右端には、黒の箱だから分かりやすく赤い文字で奈菜の名前が書かれていた。


(一体だれが。というかなんで私の名前なんか知ってるの? 母さんが送ってきたのかな? でも、場所は山奥町だけしか教えなかったし、なんで)


 奈菜は不思議な箱に怖がりながらも、箱と手紙を抱えて屋敷の中に入って行った。


 このことは勇に相談しようと思い、扉を3回叩いて書斎の中に入った。


「失礼します、勇さん、お手紙を」

「あぁ、ありがとうって、奈菜さん。それ」


 勇は奈菜が持っている箱を見つめた。


「あっ、これですか? なんか勇さん宛てかと思ったのですが、どうにも私宛でなんか、少し怖いんです」


 奈菜は箱を勇に見せて言った。


「お母様からの贈り物ではないのかい?」

「いえ、場所は町名しか言ってなくて。だから送れないはずだし、おまけに配達の人だってこんな悪戯しないはずですから、よくわからなくて」


 勇は奈菜の話を聞くと箱をマジマジと見て、「見てみる?」と問いかけた。


「えっ。うーん、正直ちょっと気になります。中とかが」

「あぁ、じゃあ見てみるか」


 勇は箱を机の上に置くと、ガムテープを取り外してゆっくりと蓋を開けた。2人で覗いてみたが、何も無かった。


「えっ。そんなはずは、さっきは何か入っている程重かったのになんで」


 奈菜はあまりの出来事に驚いていたが、勇は箱の中身をみるなや静かに微笑んだ。


「でも、危険な物じゃあなくて良かったけど、なんでこの箱を置いた人物は奈菜さんの名前を知っているんだろう」

「さぁ、でも気味が悪いです。よくわからない人物から箱が来るなんて」

「そうだね。これは執事に頼んで処分してもらうよ。お風呂掃除お願い」

「はい、わかりました」


 奈菜はその箱に気にしながらも書斎を出ていき、お風呂場へ向かった。


 お風呂掃除を終え、キッチンの部屋に入った。


 入るが、明はいなかったため、何処かに言っているだろうと思いながら流しに近づいた。流しの中には4、6枚のお皿が入っていた。


 奈菜は蛇口の横にあるスポンジを取り、お皿を一枚一枚丁寧に洗った。


 全てのお皿をはらい終え、今日2日目の仕事を終えた奈菜は自分の部屋に向かった。


 部屋の中に入ると、机の近くにティーカーとの上の銀の蓋を置いたのがあった。エプロンを外し、椅子に座って開けてみるとハンバーグと銀のフォークとナイフ、サラダにデザートのゼリーが乗っていた。


 奈菜が手を合わせて「いただきます」と言い、ハンバーグを食べ始めた。


 とても美味しく、ソースと混じった肉汁が口の中に広がって笑顔になる。普段はコンビニや時々の自分の手作りを食べるが、明のは一段と違う味だなと思った。


 食べ終え、奈菜は元通りに戻すとが扉かたノックが3回鳴った。


 奈菜は扉を開けると、目の前に執事がいつも通り立っていた。


「お疲れ様です」


 奈菜はそう言ってティーカーを渡すと、執事は「あの」と言った。


「何でしょうか?」

 奈菜は言うと、執事は手に持っていた1冊の黒いノートを見せた。


「これは」

「私がお勧めしている本です。タイトルとか目次とか一切ないんで少し不思議な感じがするんですよ。でも、日記のような本ですが年の10から1の位だけ塗りつぶされています。ですけど少し癖になるお話なので読んでみてください」


 執事はそう言うと、その場を去って行った。


 奈菜は執事から受け取った本を見た。とても真っ黒で、題名や作者の名前などが書かれていない。読もうかと迷ったが、読み途中のが気になったので明日にでも読もうと思い、一旦段ボールの中に入れておいた。


 読みかけの本を持ち、ベットの上に乗ると読み始めた。


 読むこと数分、段々と眠くなっていったため奈菜は本にしおりを挟み、電気を決して就寝しようとしたが、森で聞いた這いずる音が聞こえてきた。


 上かと思ったが、実際に聞こえるのは自分の部屋だった。


(えっ、なんであの音が聞こえてくるの)


 奈菜は体を起こして辺りを見渡したがそう言った音の原因がない。


 ベットの下かもと思ったが怖くなった奈菜は、布団を被って強く目を瞑った。けれど耳からはあの引きずるような音が聞こえてくるのだった。

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