屋敷の謎

羊丸

第1話 噂の屋敷の主人

 寒い冬の朝、目覚ましの音がうるさく鳴り始め、あくびをしながらその音を止めた。


 ベットから降りると洗面台に行って顔を洗い。歯磨きをして服装を整え、ご飯を食べるとスキンケアをして、上着を来てからリュックを背負うと扉を開けて、鍵を掛けて、仕事場に向かったのだった。


 宮内奈菜は中学生の頃、父親を亡くしてから母親が1人で家計を支えていたが病気に関わってしまったために祖母と友人が住んでいる長野県に転校し、中学生の頃は母親の友人が入院費を半分援助をしてくれたが、高校生になってからは放課後アルバイトが出来る高校に入学し、出来る限り三つの店で働いていた。


 卒業したあと、本格的に働くためにどこで働くかを考えているときに母親の友人、尚子が働いている家政婦の仕事に誘われた。面接をするときはコネなどは一切使わずにし、面接をすると見事に合格をした。


 時給はそこそこだが仕事を貰うだけでもありがたい。最初は尚子と一緒で仕事をし、分からないことを聞きながらその家の掃除やご飯などを作っていた。


 4か月も働き続け、家政婦の仕事に慣れていったお陰で今度からは1人の仕事も増えてくるに違いないと思いながら仕事場に到着すると部長の阿部泉から声を掛けられた。


「奈菜さん、ちょっとお話があるんだけどいいかしら?」

「はい、わかりました」


 奈菜を目の前にあるソファに座らせ、その前に泉が座った。


「奈菜さんって5月に来て、今は10月だから四ヶ月経ったもんだから相当慣れたわよね? あなたに付き添ってくれた尚子ちゃんが結構褒めていたのよ。なんだって言われたことをしっかりと聞いてその後に忘れないようにメモをしているとか様々聞いているからね」


 泉は嬉しそうにしながら奈菜に言った。


「褒めてくださりありがとうございます。もちろん慣れました」

「それは良かったわ。それで、1人で泊まり込みの家政婦出来るかしら?」


 奈菜は早速仕事が来たと感じた。


「はい。大丈夫ですが、どんな所ですか」

「えーとね、ここんところ私先の仕事でも有名な屋敷で、その依頼人は森末勇さん。場所は山奥町っていうところなんだけど田舎だからちょっと遠いのよね。だから荷物は先にその屋敷の場所に送るようにしといて頂戴」

「わかりました。どのくらいですか?」

「2週間なんだけど、それでもいい? その間とかに用事とかあるかしら」

「はい。何も予定は入っていないので構いませんけど、有名ってなんですか。まさか悪い」


 奈菜は心配そうに聞くと、すぐに泉は笑顔で手を振った。


「違うわよ。悪い噂じゃあなくて、良い噂。そこの旦那さんと1人の執事だけいるのね。なのに結構な大きい屋敷に住んでるの。それでね、家政婦に時々休憩とかあと自由行動なんかもしていいって言うからとっても優しい人なのよ。とても優しいお方だから気にしないでね。2週間ですもの。あっ、明日からよ。だから今日は早めに帰って、荷物を準備して速達してね」


 泉はそう言うと、机の電話が鳴り出したために「お願いね、あと必要な物とかここにかいてあるから」と言うと、1枚の紙を置いてその場を去って行った。


 紙を見てみると、ご丁寧に必要なものが書かれていた。


 2週間分の私服。歯磨き。エプロンと動きやすそうな服。スマホ、2週間分のお金が入ったお財布、リラックス出来そうな物がまるで旅行のしおり内容だった。


(結構すごいな)


 奈菜は関心しながら、明日は頑張るぞと心の中で決心し、荷物を速達するために家に更衣室に向かっていると母の友人の尚子とすれ違った。


「あら、奈菜ちゃん。あなたもぉ帰るの? 珍しいわね」

「はい。そうです。初めての1人仕事のために」

「へぇ、ちなみに聞くけど、どこの人?」

「えっと、森末勇さんという方で、山奥町というところです」


 奈菜は住所が書かれている紙を見せて言うと、尚子は驚愕の顔をした。


「えっ! そこなの?」

「はい、やっぱり噂ですか?」

 

 奈菜は^話していたことを言うと、尚子は激しく頷いた。


「えぇ。結構、そこのご主人、優しくて有名よ。でも、奈菜ちゃんには丁度良かったんじゃない? 初心者にはうってつけよ。あっ、結構遠いからいろいろ準備とかあるから今日早めに帰るっていうところね」

「はい、そうです」


 奈菜は笑顔で答えると、尚子は「そうだ!」と手を叩いた。


「荷物全部速達したら久々にお母さん所に行ったらどう? ここんところ電話だけだったでしょ」

「あっ、良いですね。ありがとうございます。それでは」

「えぇ、何かあったら電話してね」



 奈菜は尚子と別れると、更衣室まで駆け足で行き、荷物をまとめると他の同社と部長にお先にと言いながら会社を出た。


 自宅のマンションに着くと、紙に書かれているのを段ボールの中に入れ、自分で持てるようなのはリュックに詰め込んでから速達の紙を書いた。

 

 速達の紙をカバンの中に入れ、箱などを運ぶ用のバンドックを使って近くの宅急便に向かった。送り終わり、奈菜はメールで母に今から病院に行くと返信をして、再び駆け足で向かった。

 

 久々に来たため、病室の場所を忘れてしまったために受付の人に母親の名前と自分の子を話すと、「207号の病室です」とにこやかに居場所を教えてくれた。


 お礼を言い、病室に向かった。


 病室に着くと、奈菜は軽く扉を叩いて声を掛けながら病室に入った。


「失礼しまーす」


 病室に入ると、ベットに横たわりながら本を呼んでいる母の姿が見えた。


 母親は久々に見る娘の顔に、笑みが溢れた。


「あら奈菜! 久し振り」

「久し振り。どう、具合の方は」

 

 奈菜は側にある椅子に座りながら問いかけると、母は本をしおりに閉じてから「まぁまぁね」と言った。


「お仕事の方はどう? もぉ5ヶ月だしそろそろ慣れてきたかしら」

「うん。おかげさまでね。実は明日から初めて1人でお仕事するようになったんだ」

「あらそうなの。頑張りなさいね。ちなみにどこらへんなの?」

「結構田舎だよ。確か場所は山奥町っていう所の山奥に住んでいる人が、明日私が行く場所だよ」

「へぇ、山奥町って聞いたことないわね。でも田舎ってことは結構な遠いのね。でも自然も感じられるしいい所じゃない」

「うん、でもその屋敷結構評判いいらしいよ」

 

 奈菜は泉から聞いた話をそのまま母に話した。


「それは不思議ね。まぁ貴方1人何だし、最初はそこでいいじゃない。言っちゃ悪いけど最初の1人仕事をするんだったらまずはそう人相がいい人がうってつけよ」

「まぁね確かにね。それはいいんだけどね、あっ、リンゴ食べる?」

「お願い」

 

 奈菜はリンゴを1つ掴み、横にあった果物ナイフでリンゴの皮を切り始めた。すると、母は突然暗い顔になって言った。


「奈菜、ごめんね。お母さん、こんな体になっちゃって」

「えっ、何謝ってるのよお母さん。私は高校生まで通わせてもらってむしろ感謝してるよ。それに何も困っていることはないよ。普通に暮らせているから」

「そう、ならいいけど、大学。行きたかったんじゃないの?」

 

 母は暗そうな顔をしてつぶやいた。


「うーん、別に。むしろ働くの大好きだし、それにこの仕事が好き。だから全然気にしていないよ」


 奈菜はリンゴの皮を剥きおえると、一個ずつ形を整えてお皿の上に置いた。


 お昼過ぎまで母親と楽しくお喋りし、明日は早いために奈菜は母に「また来るからね」と言いながら病室を出ていった。

 

 病院を出ると、奈菜は近くのコンビニに寄り、夕ご飯を買ってそのまま自宅へと戻った。

 帰り間際、母の言葉が浮かんできた。


『大学、行きたかったでしょ』


 自分なりでは特に大学の希望なんてこれっぽちも無かった。あるのは母親がまた昔みたいに健康にさせるためだけに高校生活を送っていた。

 何よりも人助けするのが好きなため、別に大学行かなくても良かった。


「……気にしているのかな」

 

 奈菜は空を見上げて呟いた。自分の病気のせいで、娘の進学を止めたことに母は気にしているのかを思っていると、ポケットに入っていたスマホが鳴り始めた。

 見てみると部長の泉からだった。


(なんだろ)


 奈菜は何かあったのかと思いながら電話に出た。


「はい、奈菜です」

「あっ、奈菜ちゃん。ごめんね、急に電話なんかしちゃって」

「いえ、あの、何かありましたか?」

「えっ、ううん違うわ。あなたに言い忘れていたことがあるのよ」

「言い忘れていたこと?」

「うん。山奥町に行くでしょ。その途中に勇さんが指名しといたタクシーで向かわせてくれるそうよ。だから福井駅で降りて頂戴ね。あと、代金はもぉ支払い済みだから」

「はい。わかりました」

「それからそん時のタクシーに運転してくれる人の写真送っとくわね。それじゃあね」

 

 泉はそう言うと、電話を切った。


 奈菜は耳からスマホを話すとメールの着信音が鳴った。手紙を見てみると、泉からのメッセージで“この人だからね。この人は優子さんだから名前を呼ぶといいわ”の下に優しそうな顔をした女性の顔の写真が出てきた。

 

 奈菜は“ありがとうございます”と一言お礼のメールを打って返した。

 

 自宅に着き、上着をハンガーに掛け、荷物を部屋の隅に置き、袋の中から買ってきた夕飯をそのままレンジの中に入れて温めた。

 

 食べ終えると、お風呂などに入って歯磨きし、スキンケアなど十分に済ませてベットの中に潜り込んで眠った。


 翌日、奈菜は忘れ物無いか最終チャックし、上着を着てからリュックを背負うと外に出てドアに鍵を掛けた。

 

 長野駅に付き、金沢行きの切符を買って電車に乗り込んだ。

 

 金沢駅に付き、電車から降りるとそのまま一番ホームに向かい、再び電車に乗り込んで福井駅に向かった。


 人混みをかき分けながら改札口を通り、駅から出るとタクシーの車を止めている女性が立っていた。


  昨日泉が送っていてくれた写真の女性だと奈菜は思い出し、駆け足でその女性に近づいた。


「あの、優子さんですか?」


 奈菜は声を掛けると、女性はニコリと微笑んだ。


「はい。もしかしてあなたが奈菜さんですか?」

「そうです。今日はよろしくお願いします」


 お互い頭を下げあいながら挨拶し、その後は百合子はタクシーのドアを開けて奈菜をタクシー内に入れてあげると、自分も車の中に入り込んでシートベルトを付けた。


「それでは運転します。シートベルトを付けましたか?」


 優子はハンドルを握って言うと、奈菜はカバンを横に置き、その後にいそいそとシートベルトを付けた。


「はい、付けました」

「それでは、行きますね」

 

 百合子はそう言うと、運転し始めた。

 しばらく運転していると、優子は前を見ながら奈菜に話しかけた。


「奈菜さんはどうして家政婦になんかなろうと思ったんですか?」

「えっと、ただ家政婦になりたいという気持ちのよりもただ母のために働いているんです。うちの母親は父が亡くなってから女一筋で私を高校生まで通わせてくれました。それで高校3の時に母親が倒れまして。本格的に働いて、入院費を稼ごうと思っている時に母親の友人からこの仕事を誘われて、それで今に至るわけです」

 

 奈菜の言葉に、優子は感動をした。


「まぁ、とても良いですわね。奈菜さんはとっても母親思いなんですね」

「へへ、それとなんですけど優子さん」

「はい、なんでしょうか」

「あの、森末勇さんのことをご存じですか?」


 奈菜は恐る恐る質問すると、優子は「はい、ご存じですよ」と笑顔で言った。


「それでなんですが、噂を内容をご存じですか」


 奈菜は噂のことも言うと、「もちろんですよ」と微笑みながら言った。


「あそこの旦那様はともてお優しい方なんですよ。おまけに家政婦にでも優しいんです。それから私達のタクシー会社をよくお使い頂けるので本当に感謝ですよ。なにしろ時々私達に差し入れも下さるので」

「えっ。差し入れもですか?」

「えぇ。この前なんか高級な果物ゼリーを頂きましたもの。他の所なんかあまり貰わないのですがね。……ですが」

「ですが?」


 優子は少し考え込むとすぐに微笑んだ」


「いえ、なんでもありません。じつは私、他の家政婦さんの方々を屋敷に送ったんですよ」

「えっ。てことはそれ程長く務めているんですか?」

「はい、屋敷前たことは御座いませんでしたが、とても立派なお屋敷とはお伺いをいたしましてですね、一階行ってみたいなってことは感じられますねぇ」

 

 優子は運転をしながら微笑んだ。


「あっ、奈菜さん少し睡眠をとっていただいてください。早めに起きたのでまだ眠いでしょうから」

 

 優子は奈菜の顔色を鏡で見ながら言った。確かに今日はいつもより早めに起きたため少し寝不足だ。


 旦那様の前であくびなんて失礼だと思い、ここで寝てしまえば旦那様の前であくびを控えることが出来ると思い、奈菜は照れながらも優子に言った。


「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 そう言うと、窓を見つめながら静かに目を閉じた。



 奈菜はしばらく寝ていると、優子の声が聞こえてきた。


「奈菜さん、起きてください。もう少しでつきますよ」

 

 優子の声に奈菜は目を薄く開けると、窓には枯れた葉をまだつけている木が見えていた。


「あっ、起こしてくださってありがとうございます。あの、ここは」

「あぁ、今山の中に入っているんです。ここの勇様は山の中に住んでいるんですよ。だから山奥の中に大きい屋敷を立てているんですよ」

 

 そう言っていると、ハンドルを左に回して砂利がある広い場所に車を止めた。


「すいません奈菜さん。ここからは一人で行って貰います」

「えっ、それは大丈夫ですが、何故ですか?」

「旦那様の屋敷にはUターンするところがないのですよ。屋敷の敷地をまたぐわけにも行かないので、本当にすいません」

 

 優子は申し訳なさそうにしながら言ったが、奈菜は丁度運動もあまりしていなかったため、嬉しいことだ。Uターンがないんだったら尚更仕方がないことだ。


「ここまで運転していただきありがとうございますした」


 奈菜は降りて、お礼を言うと百合子は微笑んで手を振った。


「いえいえ、これは仕事ですから。あと、屋敷に向かうとしたらこの道のりを歩いたら着きますよ分かれ道はありませんから、それから週間後の夕方辺りに来ます。それでは」


 そう言うと、百合子はその場を去って行った。


 奈菜はカバンを背負いなおし、「よし!」と声を出して百合子に言われた道のりを歩き出した。木はまるでトンネルの様に木の枝がそれぞれ重なっている。キンモクセイが咲いているのか甘い香りが鼻に付く。

 

 自然の中を歩くのはあまりないため奈菜はウキウキしながら道のりを歩き続けていると、木のトンネルから抜けて、黒くて大きい、古い屋敷が見えた。


 窓がいくつかあり、中々の豪邸だなと思った。周りには綺麗な花が咲いている。


 門の隣にはインターホンがあり、奈菜はそれを押すと音が鳴り響いた。

 

 すると、インターホンから綺麗な女の声が聞こえてきた。


「はい」

「あっ。今日から2週間お世話になる長野家政婦紹介所から来ました横田奈菜です」

 

 そう言うと、「門を開けて、お入りください」と言うとインターホンを切った。

 

 奈菜は他の家政婦かなと思いながら門を開けて中に入った。敷地内にもお花がいくつかあり、ここの旦那様は結構なお花好きなんだなと思った。

 

 扉の前まで行くと、丁度ドアが空いた。

 

 ドアの隙間から黒い服を来た男性が出てきた。


「どうぞ、お入りください。旦那様がお待ちです。靴をはいたままで家を上がって構いませんが、入口にあるブラシマットで3回足を拭いてください」

 

 男性は扉を開けて、奈菜を屋敷の中に向かい入れた。

 

 玄関の周りには傘置き場と靴入れのタンス、ブラシマットに赤い絨毯が長い廊下まで広がっていた。

 

 靴をはいたまま中に入り、ブラシマットで足を三回拭くと男の人は扉を閉めて後を付いてくるように言った。

 

 長い廊下を渡っていると、窓から風の音が聞こえてくる。先ほどまでそのような風は吹いていなかったはずではないのだがと思いながらも歩き続けていると、高級そうな花瓶が扉の横に置いてある場所に立ち止まった。


「ここです。私は他の仕事があるので、ドアを3回叩いて声を掛けてください」

「分かりました」

 

 男性はそう言うと、その場を去っていた。


 奈菜は深呼吸をすると、ドアを3回叩いて声を掛けた。


「失礼します」

「どうぞ」

 

 旦那の声を聞いた奈菜はゆっくりと扉を開けた。


 開けると、そこには揺り椅子座っている若々しい老人が本を持って座っていた。


「やぁ、そこに立っていないで入りなさい」

「あっ、ありがとうございます」


 奈菜は頭を下げて、扉を閉めて中に入った。


 周りには大量の本、地球儀、色々な画家の絵と家族写真。ソファの真ん中には正方形で、高そうなテーブル。仕事関係なのが沢山あった。


「部屋が汚くてすまないね」

「いえいえ、大丈夫です」

「ありがとう。じゃあそこのソファに座って」


 奈菜は前のソファに座ると、勇は机の横にあるファイルを持ってソファに座った。


「えーと改めて自己紹介をするよ。私はここの家の森末勇。2週間よろしくね」

「はい、家政婦の宮内奈菜と申します。こちらも2週間よろしくお願いいたします」

 

 奈菜はそう言うと、勇は優しく微笑んで「元気だね」と言った。


「えーとね、君がしていただくのはお風呂掃除、家の周りの落ち葉を箒ではくこと。それから、時々の花たちの水まき、あとここの屋敷は見ての通り大きいでしょ」

「はい、とても大きいお屋敷です」

「2階まで掃除してくれれば良い。3階は君がさっきまで会っていた男性、執事が掃除しているから三階は入らなくていいからね。あとは接客とかの紅茶の準備だけでいい。それから時々仕事内容が変わると思うから午前と午後は必ず呼ぶからね」


 勇の言葉に、奈菜は「わかりました」と返事をした。


「それからなんだけど、2階の1番右奥から3番目の部屋は本置き場所だから、寝る時とか休みの時間の時とか好きに読んで構わないよ。あと君の部屋も用意しといたから」

「あっ、ありがとうございます」


 奈菜は礼を言うと、勇は「いえいえ」とまた優しく微笑んだ。


「君の服は夕方で届くと。最初は部屋を案内するよ」

「えっ、いや場所を言ってくれたら自分で行きますよ」


 奈菜は一人で行こうとしたが、勇は立ち上がってファイルを置いて扉を開けた。


「いいからいいから。さぁ着いてきて」


 奈菜は申し訳なさそうにしながらも、勇の後を付いて行った。


「所で奈菜さん」

「はい、なんでしょうか」

「なんで家政婦の仕事なんかやろうと思ったの?」


 勇は歩きながら奈菜に質問をした。


 奈菜は母のことなど説明をすると、勇は「そうか」と声のトーンを落とした。


「母のために家政婦なんて素晴らしいね。君は本当に優しい心を持っているよ」


 勇は奈菜を褒めたえながら階段を上がり、2階に着くと奈菜は心の中で再び感激をした。


 2階の天井には大きいシャンデリアが五つあり、壁は一階と同じく赤く染めていた。


「だんな」

「あぁ、勇さんって呼んでいいよ。だけど、皆の前では旦那様って呼んでね。勘違いされると奈菜さんにも迷惑が掛けられるかもしれないし」

「わかりました。勇さんは赤い色が好きなのですか?」

「何でそう思うんだい?」


 勇は不思議そうにしながら言うと、奈菜は周りの壁を見ていたため察したのか勇は


「まぁまぁだよ」と笑顔で言った。

「少し濃い赤色ってなんだかね」


 と、言っていると三つ目の部屋の前で止まった。


「ここが、君の部屋だからね」


 勇はそう言うと、ドアノブに手を掛けて開けた。


 真っ白なベットと服入れのタンス、長方形の窓の所には丸いテーブルと椅子、化粧台の横には奈菜が用意した箱が置いてあった。


 まるでお嬢様が使いそうなお部屋だった。


「良いんですか? このような素敵なお部屋を使って」

「うん、ここは何も使っていない場所だから改造をして、家政婦用の部屋なんだ。もし、何か不便なものがあったら言ってね。あと、お風呂は隣のお部屋にあるから」

「はい。ありがとうございます」


 奈菜は再び勇に頭を下げてお礼を言った。


「いやいや。じゃあ準備が出来たらなんだけどね、1階の部屋の掃除と2階を1つずつ掃除をしてくれ。その後は、家の周りの落ち葉をはらってね。箒場所は、この裏にある倉庫から取ってね。雑巾はこの1階の、玄関から2番目の部屋が物置部屋だから。そこに雑巾とバケツが入ってるよ。あと、水は一階の五つ目の扉にキッチンの方に蛇口があるからそれを使って。それから、お昼過ぎになったらさっきの部屋に入ると朝食が準備されているから私のさっきいた場所に来てくれ。色々と内容が多いからこのメモを見ながらしてくれ。じゃあ私は仕事があるから」


 勇はそう言うと、1枚の紙を渡して部屋を出ていった。奈菜はポケットの中に紙を入れると、周りの綺麗な家具を眺め、カバンをベットの横に置き、お風呂場に向かった。


 お風呂場はとても広く、風呂の隣には鏡とトイレが付いており、白いカーテンが掛けられていた。


 鏡の前にコップを置き、着替えると心の中でガッツポーズをしてから部屋を出た。


 1階に行き、物置部屋から1枚の雑巾とバケツと掃除機を持ち、物置小屋の右の部屋から掃除をし始めた。


 部屋の扉は五つあった。一つ目は掃除置き場、二つ目のお部屋は勇専用のお風呂場、三つ目海外のようなレストランキッチン、四つ目はソファとテレビが置かれている。最後の五つ目の部屋は奥様の仏壇が置かれていた。


 キッチンと掃除置き場以外は丁寧に掃除をし終えた。


 勇の書斎から何かぶつぶつ声が聞こえる。きっと仕事の内容だろうと思いながらいそいそと2階に向かった。


 2階の個室を掃除し、勇から言われた奥から2番目の個室に入るとまるで図書館のような場所だった。五つの本棚にはそれぞれ昔の本、怖い本、花の本に動物の本が様々あった。


(これはまた凄い数だ。勇さんか奥様がとっても本が好きだったのかしら?)


 奈菜はそう思い、周りの本に気よ付けながら掃除をしていった。


 1階と2階の掃除をし終え、バケツに入っている水を外に流してから元通りの場所に戻し、紙の内容を見ながら外に出て倉庫に向かった。


 外は寒く、先ほどの風が頬を触って身震いをした。倉庫には箒とはきとスコップが置いていた。


 箒とはきを持ち、まずは花周りにある落ち葉をはいた。乾いた葉が地面に擦りあう音と周りにある甘い香りがする。


「とても良い匂いだなぁ。でも」


 奈菜は入り口に目をやった。


 入り口周りにはオレンジ色の細かい花が付いているキンモクセイが咲いていた。入るときもとても甘い香りがして、心を満たしてくれるほどだった。


(でも、ちょっと不思議ね)


 奈菜ははくのを止めて、屋敷を見上げた。


(こんな大きい屋敷に私達だけって、なんでだろう)


 広い屋敷などには数人の執事が居てもおかしくはない。数人でやれば早く終わるし、洗濯や料理が分担に出来るはずなのに、今のところ会っているのは勇とさっきあった執事しか会ってはいない。


(私とさっきの方だけなのかしら?)


 奈菜はふと考えていたが、もうそろそろしたら昼食なためにいそいそと周りの枯葉を集め、焼却炉に入れ、マッチを入れた。


 元通りの場所に戻すと身震いをしながら屋敷の中に入っていた。


 体をはたき、腕時計を見てみるともうそろそろで十二時になりかけのころだった。


(やばっ。早くしないと)


 奈菜は五つ目の扉を開けた。


 周りはとても広く、まるで豪華なレストランにあるキッチンに似ていた。何処もかしこも銀ピカに輝いていた。


「ここも凄いなぁ」


 奈菜はキッチンを見て呟いたが、右を見てみると両端を持てるような銀のお盆の上にはスープとヨーグルトと飲み物だけが乗せられていた。


 お盆を持ち、零れないようにしながら部屋から出るといついたのか執事がティーカートを差し出してくれた。


「これをどうぞ」

「あっ、ありがとうございます」


 奈菜はお礼を言うと、執事はそのまま去って行った。


 ティーカートにお盆を乗せ、コーヒーカップとミルクを下の台に乗せ、零れないように押しながら部屋に向かった。


 ドアを3回ノックし、扉から勇の声が聞こえた。


「昼食をお持ちいたしました」

「おぉ、入ってきてくれたまえ」


 奈菜は扉をゆっくり開け、ティーカップを先に部屋の中に入れた。


「テーブルの上に置いてくれたまえ」

「はい、かしこまりました」


 奈菜は一つずつテーブルの上に置き、カップにコーヒーを入れた。


「ミルクはカップの隣に置きますので、あまり入れすぎには注意してくださいね」

「あぁ、気遣いありがとう。あっ、言い忘れたんだけどベットのシーツとかは執事君が洗うから服だけ洗ってくれ。あと、洗濯機はここから一番奥にある個室にあるから。あとそこに服とか入れてあるからそれを洗濯して」

「わかりました。あっ、お洋服などは」

「執事君が準備してくれるからいいよ。今のところ、服は洗濯し終えたから、休憩取っていいよ。奈菜さんの部屋に昼食置くように頼んどいたから冷めないうちに食べなさいね。それからティーカートは扉の横に置いといて。それから言い忘れていたんだけど、ハンコとかは下駄箱の左端に入っているから」

「わかりました」


 奈菜は「失礼しました」と言って扉を閉め、ティーカートを横に置くと一息を付き、自分の方を揉みながら二階に行き、部屋に行くとティーカートに豪華な昼食が用意されていた。


(勇さんって本当に優しい人。こんな豪華なご飯まで用意してくれるなんて)


 奈菜は感謝しつつ、風呂場に行って手を洗い、「いただきます」と言って食べ始めた。


 今まで食べたことがない味に感激していると、上からミシミシと音が聞こえた。壁が薄いのか分からないが執事が歩いている音がハッキリと分かる。


「まだ掃除しているのかな?」


 奈菜はそんなことを思い食べ続けたが、音は鳴り止まなかったため少し気にしながら食べていた。


 食べ終えると、あのミシミシという音が聞こえなくなった。


(あっ、掃除終わったのかな?」


 歯磨きをし終えた奈菜はティーカートを下に持っていくことにした。


 すると、扉からノックの音が聞こえた。


「はーい」


 奈菜は扉を開けると、そこには執事がドアの前に立っていた。


「あっ、執事さん」

「お盆を受け取りに来ました」

「えっ、自分でやりますから良いですよ」

 

 奈菜がそう言ったが、執事は「お盆を受け取りました」と同じことを二回言った。

 少し戸惑ったが、勇に聞きたいことなどがあったため礼を言いながらティーカートを渡して駆け足で勇がいる書斎に向かった。


 扉を3回叩き、声を掛けながら中に入って行った。


「あの、勇さん」


 息を荒くしている奈菜に「そんなに急がなくていいよ」と微笑んで言った。


「どうしたんだい奈菜さん」

「いえ、あの全て終わったんですが、他には何かやることは御座いますでしょうか。食材とか」

「あぁ、食材は配達で買ってるから良いよ。あと、渡し忘れていたものがあるんだ」


 勇は引き出しの中から何かを取り出すと、奈菜に差し出した。


 見てみると、四角型の小さい何かだった。


「これは何ですか?」

「呼び出しようだよ。私がスイッチを押したらそれが鳴るよ。そしたら私の書斎に来てくれ。分かったね。それから休憩してていいよ」

「はい、わかりました」


 奈菜はそれをポケットに入れると書斎を出ていった。


 出ると、奈菜は本が集まっている個室に入って行った。中に入ると、五つの本棚には沢山の本が入っている。後ろには大きい窓が二つ、長いテーブルと椅子が五つ置かれていた。


 本棚を見てみると、花占いに花言葉、動物の話とホラー、冒険の小説が作家事に並べられていた。けれど、その中に特に多かったのが。


「……悪魔に関する本が多いな」


 四つの本棚には作家事に並べられているが、一つ五つ目にはびっしりと悪魔や死神に関する本がバラバラに入っていた。一つ手に取り、中身をパラパラと見ていた。


 本には、悪魔の姿が絵で描かれており、その下にはどんな者でどんな性格、どのようなことをしてくるかが事細かく書かれていた。


「不気味な絵だなぁ」


 奈菜は不思議そうにしながらも本を戻し、悪魔などが置かれている本棚を遠ざけ、他のを探して気になるのを手に取り、椅子に座って本を呼んだ。


 窓には先ほどの倉庫と森の様な沢山の木が生えていた。落ち葉が風に舞うとすぐに地面に落ちるのを繰り返している。

 

 それを見つめていると上からまた先ほどの音が聞こえてきた。


(まただ。それほど酷い汚れなのかな?)


 勇から三階に行くのはいいと言われていたが、本当に良いだろうか。家政婦なのだか掃除とかがあるんだったらするはずだが無断にやったら怒られてしまう。


(んー、まぁ勇さんが言っているだったら良いか)


 奈菜はそう思うと、再び本を読み始めると呼び鈴が鳴った。


 奈菜は駆け足で階段を降りると、勇が扉越しで叫びながら声を掛けた。


「奈菜さん。配達の人だと思うから出てくれるかね」

「はい、かしこまりました」


 奈菜は玄関に着き、下駄箱の左の扉を開けると確かにハンコが入っていた。


 ハンコを持ってそのまま扉を開けると配達らしき男がいた。


 ハンコを押し、配達の男は「それでは」と帽子を深く被ってその場を去った。


 自分の荷物が届いたんだなと思いながら屋敷内に入って行った。


 ハンコを元の場所に戻し、大声で「自分の荷物です」と答えた。


「そうか。無事に届いて良かったね」

「はい」


 勇の声に奈菜は元気よく返した。


 段ボールを自分の部屋に置き、ガムテープを外し、中身を出した。


 整え終えた奈菜は再び図書室に行き、続きの本を読み始めた。


 奈菜は付いていたしおりを本に挟み、本棚に戻すと駆け足で個室を出た。書斎に着き、扉を3回叩いた。


「あぁ、入ってきていいよ」


 勇の言葉に「失礼します」と声を掛けて中に入った。


「すまないね。呼び出してしまって」

「いえ、十分に休みましたので大丈夫です。あの、用件はなんでしょうか」

「あぁ、まぁ座ってくれ」


 勇はソファに座るように言うと、奈菜は渋々ソファに座った。


 すると、勇は扉を開けると、何かが当たる音が聞こえた。見てみると、勇の手には銀のお盆にビスケットと紅茶が入ったティーポットを持っていた。


 いつ置いてあったか分からないが、失態を犯した奈菜は立ち上がって頭を下げた。


「すいません勇さん! 私、それが置いてあったとは知らずに」


 奈菜が謝っていると、勇は微笑みながらまた座るように言った。


「大丈夫だよ奈菜さん。これは執事に持ってくるように言ったから安心して。さぁさぁ座って」


 勇はお盆に乗っていたのを奈菜の前に置き、もう一つのティーカップを自分の前に置いた。


「すいません本当に」

「いえいえ、まぁ紅茶を飲んで」


 勇は紅茶を飲むように勧めると、奈菜は「いただきます」と言って一口飲んだ。甘いのと暖かいのが口の中に広がり、体を温めてくれる。


「廊下を掃除しているとき寒いでしょ。ここの廊下」

「あぁ、少しですかね。まぁ暖房とかもないのは仕方ないですから大丈夫です。あっ、それと一つ質問良いですか?」

「ん? なんだい」

「あの、3階って本当に掃除しなくて良いんですか?」

「えっ。なんでだい?」

「いや、あの。昼食食べている時と本を呼んでいるときによくミシミシって音が聞こえるんですよ」


 奈菜がそう言うと、勇は顔を少し曇らせた。


「あー、まぁ3階は執事の部屋がある場所だし、掃除する場所少ないしいいさ。それに執事君が全てやっているから」


 勇は笑顔で言うと、紅茶を一口飲んだ。


「そうですか。でも言ってくださいね。私いつでも掃除しますしお手伝いをします」

「いや、ありがとう。それとなんだけど、なんか不満なことない?」

「不満なことですか? いえ、特には」


 奈菜はそう言ったが、先ほど図書館のような場所にあった悪魔などに関する本をお思い出した。


「勇さん」

「ん?」

「先ほど本を読んでいたのですが、一部だけ悪魔に関する本だらけなんですけど、趣味か何かですか?」

 奈菜は紅茶を片手に飲みながら言うと、勇は少し神妙な顔をしてから言った。

「まぁね。そうゆう悪魔に関する本とか集めるのが好きなんだよ。まぁ一種のオカルト? 集めなものだから気にしないで。でも、呪いのものとかそういったものは集めないかな。何せ、早死になんて死にたくないからね」


 勇は微笑みながらビスケットを1枚掴んで食べた。


 その後は2人で昔話などをしていると、いつの間にか外は真っ黒に染まりかけていた。


「あっ、勇さん。もぉ外が」

「あぁ、じゃあ仕事良いかな?」

「はい、なんなりと」

「じゃあ最初はポスト見て欲しいのと、玄関辺りに何か置かれていたらそれを私の場所まで持ってきて欲しい。それから2階にある1番奥から2番目の風呂掃除、あとはー、ご飯を食べまわるのは終えてから廊下を掃除機でやってね。ご飯が出来上がったら執事が声を掛けるから。やること全部おわったら何でもしていいよ。屋敷内は回るのは良いど、それは10時までね。10時になったら自分の部屋にこもるんだよ。いいね」

「かしこまりました。あと、ビスケットと紅茶ありがとうございます」

「うん。こちらこそ楽しい話を聞かせてくれてありがとう」


 奈菜は銀のお盆に空の紅茶とお皿を乗せ、勇に頭を下げて書斎を出た。


 キッチンの部屋に近づくと、美味しい香りがした。開けると、そこにはコックさん見たいな人が野菜を細かく切っていた。


(えっ、この人執事さんかな? 着替えて作ってるのかな)


 奈菜は流しにコップとお皿を置き、銀のお盆を台の上に乗せて近づいた。


「あの、執事さん」


 奈菜は声を掛けると、そのコックは振り向いたが、それは執事ではなくまったくの別の人だった。朝から挨拶をしていなかった奈菜はすぐにそのコックに名前を名乗った。


「えっ、あっ、あなたさまは」


 奈菜が誰だろうと聞こうとすると、男性はくらそうにしながらも微笑みながら話しかけた。


「あぁ、すいません。挨拶し忘れていました。私はここの食事係のあきらと申します」

「は、はい。2週間お世話になる家政婦の岡本奈菜です。よっ、よろしくお願いします」


 奈菜は挨拶をすると、明は再び包丁を動かし、切った野菜をぐつぐつと鳴っている鍋に入れた。


 奈菜は一言言うとキッチン部屋を出た。


(コックさんがいたなんて知らなかったわ。でも、どうして勇さんは明さんのこと言わなかったんだろ? 普通なら教えるのに)


 奈菜は不思議に思いながら、玄関近くまで来ると、ドアの横に懐中電灯が一つ置かれていた。


(わざわざ置いてくださったのかしら。本当に優しい方)


 奈菜は懐中電灯を取り、外に出ると目の前は闇になっていた。綺麗な花は玄関にある光と懐中電灯だけでしか映っていない。その他は闇に埋もれて何色か分からない。


 おまけに夜になると寒さは増して、肌には冷たい風が触れた。


 駆け足で玄関に行き、ポストを開けた。中には手紙と新聞が2枚ずつ入っていた。


 中身を取り、奈菜は玄関の外に行き、懐中電灯を振りながら何かないか確認をしたが、何もないことを確認をすると扉を閉め、屋敷の中に入っていた。


 懐中電灯を元の場所に置き、靴を揃えて振り返るといつの間にか執事が後ろに立っていたために奈菜は小さく悲鳴をした。


「きゃっ!」

「すいません。お食事が出来上がりましたので、冷めない内にお食べください」

「あっ、執事さん。あの」


 奈菜は明のことを質問しようとすると、執事はさっさと3つ目の個室の中に消えていった。


 奈菜は執事がどんなふうに気配を消しながら声を掛けたのか気になったが、今はまず手紙を届けなければならないため、奈菜はすぐに書斎に行き、勇に手紙を渡してから自分の部屋に戻った。


 部屋に入ると、目の前にはティーカートに乗せられたハンバーグと暖かいスープ、ミルクティーに銀のナイフとフォークが乗せられていた。


「これはすごい」


 また豪華な食事に感動しつつ、ティーカップを丸いテーブルに近づけ、乗っていた物をすべて乗せてから食べ始めた。


 食べていると、上からまたあのミシミシという音が聞こえてきた。また執事かと思ったが、執事はさっき他の個室に入った。そこから3階まで行くのはさすがに無理があるため、きっとネズミが歩いて、それの拍子で音が聞こえたんだろうなと思った。


 食べ終え、奈菜はティーカートにお皿を戻し、思わず扉を見た。先ほどの様に執事がお皿を受け取りに来るかもしれないと考えたからだ。


(また、来るのかな? それもノック無しで)


 そう思いながら扉を開けると、予想通り執事が扉の前にいた。


「お皿を受け取りに行きました」

「あぁ、はい。ありがとうございます。あの」

「なんでしょうか」


 奈菜はどうやって食事ごと二階にどうやって運んでいるのかを聞いた。


「食事って、どうやって持ってきてくれてるんですか? こんな豪華な食事を二階に運ぶなんて相当大変なはずですが」

「あぁ、それは隠しエレベーターがあるんです」

「隠し? 隠す理由は?」


 奈菜は少し強引気味に質問をすると、執事は「今から説明します」と言った。


「旦那様はもともと隠し扉とかカラクリものが好きで、それにその場所を知られたくないため、2週間だけのお世話の人達だけは私達執事が運ぶんです。だから運ぶ必要なんてありません。あと、このあと掃除するんですよね」

「はい、そうですが、あっ。そういえば執事さん」

「はい、なんでしょうか?」


 奈菜はすぐに明のことを執事に説明した。


「さっき、料理担当の明さんに会ったんですけどなぜいることを言ってくださらなかったんですか?」


 奈菜はそう言うと、執事は「あぁ、昨日帰ってきたんですよ」と呟いた。


「えっ? どうゆうことですか?」


 奈菜は疑問に思っていると、執事は再び説明をした。


「実はあの人は海外で修行のために少しの間だけ休んだんですよ。それで休みの間だけ私が料理担当していました。私と旦那様すっかりあなたに説明そびれてしまいました。本当に申し訳ありません」


 執事は奈菜に向かって頭を下げた。


「いえいえ。そう説明してくださってくれた方が助かります。じゃあ私そろそろ」


 奈菜がそう言うと、執事は扉で見えなかったのか掃除機を渡した。


「1番奥の部屋から掃除をお願いします。それと、このことを旦那様に質問しないでくださいね」


 執事はそう言うと、ティーカートを押して去っていった。


 奈菜は掃除機を抱え、寒い廊下を歩きながら1番奥の部屋に向かった。


 お風呂掃除と軽く掃除機で掃除し終え、1階の掃除を始めた。廊下を掃除していると、勇の声が聞こえてくる。


「いや、だめだ。それでは……もう少し待ってくれ」


 何か重要な話しだと思い、奈菜はすぐに書斎からいそいそと忙しく掃除をした。個室の点検も終え、掃除機を物置部屋にしまい、部屋を出た。


 今日の仕事を終え、部屋に戻ると下着と寝間着を持って風呂に向かった。


 暖かいシャワーを浴び、全て終えると寝間着に着替えて歯磨きをした。


 奈菜は眠る前に本を読もうと思って部屋を出ると一気に部屋とは違う寒さが来た。腕をさすっていると烏の鳴き声が聞こえた。


「ん、烏?」


 奈菜は窓を見て言うと、時計の音が聞こえた。壁を見ると、丁度8時に回っていた。


「確か、10時までは屋敷内回っていいのよね」


 奈菜はそう言うと、本が置いてある部屋に向かった。


 中に入ると少しあったかいくらいだった。先ほどの読み続きをしようと思い、読みかけだった本を出し、いつものように椅子に座って読み始めた。


 読んでいたが、徐々に体を寒く感じていく。


 自分の部屋で読もうかと思いふと横を見ると、いつの間にか暖かいミルクが置かれていた。


「あれ? いつの間に」


 周りを見わたしたが勿論誰もいない。いるのは自分だけだ。


「誰なんだろう」


 奈菜は不思議そうにしながらも、心の中でお礼を言ってからミルクを頂いた。


 体が温まるのを感じ、奈菜は安堵のため息を付いたが一体誰がいつこのミルクを運んだかわからない。短時間で奈菜にも気付かれないままミルクを置くなんて不可能なはずなのに。


 そう思うと先ほどまで暖かった体は少し冷え込んでいった。


 読みかけの本を抱え、熱々なミルクティーを持って駆け足で部屋に戻った。


 腕時計を見ると、8時半過ぎだった。


「時間過ぎるの早いなぁ」


 そう思いながら部屋に戻ろうとすると、奈菜はあることが気になった。


 それは3階だ。なぜ勇は奈菜に3階を行かせないようにしているのだろう。家政婦なのだからそれぐらいはしていいものの、3階にだけは行くなというのは明らかに何かありそうみたいな感じだ。


(うーん、気になるなぁ)


 奈菜は3階に好奇心があったが、勇の約束を破ってはいけないと思い、大人しく自分の部屋の中に入り、先ほどのミルクティーをライトの隣に置き、本の続きをベットの上で呼んだ。


 ペラペラと本のページをめくってはミルクティーを飲むことを繰り返すと、扉からノックする音が聞こえた。


「執事さんかしら?」


 奈菜はそう思い、ベットから降りて扉を開けた。


 予想通り執事が目の前に立っていた。


「すいません。お休み中」

「いえ、いいです。あの、何でしょうか?」

「旦那様が就寝いたします。それから言い忘れていたことを伝えてほしいと言われたので、言いますね」

「はい」


 そう言うと、執事はポケットから紙を取り出して読み始めた。


「6時に起床、ご飯は六時半に運びいたしますのでそれまでに身支度を整えておくこと、7時前に食べ終えたらそのまま真っ直ぐ書斎まで来ることです。これが2週間の間に起きる時間帯です」

「分かりました。あっ、執事さんは」

「私はもう1回この屋敷周りを徘徊をし終えたら寝ます」

「えっ。じゃあお手伝い致しましょうか?」

「いえいえ、大丈夫です」


 執事は少し優しく微笑みかけて言った。


「わかりました。あの、執事さんの部屋って」

「あぁ、3階です」


 3階、勇に強く行くなと言われている階に住んでいることを知ると奈菜は執事に言った。


「あの、何か3階でお手伝いすること御座いますでしょうか? なにせここ広いし、それに2人でやれば早く終わりますし」


 奈菜はそう言うと、執事はにやりと笑った。


「あぁ、それはうれしいことですね。でも良いですよ。まだ」


 執事の笑みに奈菜は少し怖がったが、すぐに「おやすみなさい」と言って扉を閉めた。


「まだって、いつかは頼るのかしら」


 奈菜はそう思いながら再びベットの上に乗り、腕時時計を見た。


「もぉ9時過ぎか。早めに寝よう」


 奈菜は残りのミルクティーを飲み干し、再び歯磨きをすると目覚まし時計をセットし、横にある電気を消すと目を閉じた。

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