第71話 アイドルの年貢じゃない月収

「……お給料日だー‼」

「ジーラ、やけにノリノリやな」


 今日はいつになくご機嫌と思いきや、この日を待ちわびていたジーラ。


「……ムフフ。親と離れて一人暮らしだし、自由に給料を使える」


 アニメBlu-rayや漫画の本をどっさりと言いながら指折り数えるジーラ。

 ヲタクはファッションには無頓着と思わせながら、意外とお金がかかる。


「いえ、ジーラ。例え、自由だとしても税のしがらみからは抜け出せませんわ」

「そうそう。リンカの言う通り。しかも給料に比例して上がるさま」


 所得税、住民税ときて、やたらと高いのが健康保険料。

 極めつけは厚生年金、これが一番のネック。

 ネックレスの宝石にオプションされた飾りのような存在でもある。


「しかも給料が少なくても税金が下がることはありませんことよ」

「せやな。国の血税とよく言うもの」


 悲しいかな、その税金で遊んで暮らす連中もいるから、税というものは無慈悲である。


「……えっと、つまりアイドルって薄給なん?」

「月収でも20そこらやないかな」

「……自分の年齢と一緒」


 ジーラが自らを指差して、あの頃は良かったなあと懐かしんでいる。

 いくらサバを読んでも、サバ缶を買おうとしても、思うだけならタダである。


「そうや。しかも定年も早い。長くて40までかいな」

「……ぐぶっ、痛恨の一撃」


 ジーラが真っ青な顔で倒れそうになるのを何とか止めるリンカ。

 この構図だとフィギュアスケートの演目みたいである。


「ジーラ、一撃どころか、連撃受けてませんこと?」

「……そう空中コンボを食らった気分」


 戦乙女ジーラの身体は宙に浮き、我が物顔でコンボを受け続けた。

 念願の100ヒットを越えてもその身は沈みそうにない。


「手作りのコンボごっこなら負けませんよ‼」

「普通にコンポートごっこじゃん」

「味は味噌だれですけどね」

「あんなあ、ミクル。おでんやないからな?」


 ミクルは料理が得意な一面もあるが、まともな料理を作ってる所を見たことがない。

 コンポートとは果実を煮詰めた料理を指し、本来ならば味噌を使用する用途はどこにもない……。


****


「……そんな感じで半年が過ぎたけど」

「……今回も少ない」


 あれから半年、給料明細の入った封筒を渡されるジーラだが、例の税金等で差し引かれた残高を見て、不満げに愚痴を溢す。

 いくら怪しいオーラが出ていても、オーロラのように派手に主張しようとも、一人で愚痴るくらいならタダである。


「相変わらずペラペラな封筒ですわね」

「リンカ、今どき現金の手渡しとかないからな」


 お嬢様のリンカはカードと現金払いしか知らなく、銀行振込の存在すらも知らない。

 薄っぺらい封筒をヒラヒラさせながら、一人、手渡しについて熱く語っていた。


 政治家でも評論家でもあるまいが、一人で語るだけならタダである。


 世の中アイドルとして活動していても、タダより安いものはない。

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