第68話 呪詛なキリギリスの食い繋ぎ
「いいか? アイドルってもんはどんなことがあってもなくても常に笑顔でいなくちゃならねえ!」
夜8時過ぎ、老舗の居酒屋で一人の男性が食事の座席にて、目の前の女性たちに説教を浴びせている。
「お前らは俺たちマネージャーにとって、事務所の宝なんだよ!」
誰かが警察に通報するのを止める所属メンバーたち。
その理由として、酒をあおり、ウダウダと説教をする男は彼女らが所属するアイドル事務所のマネージャー、タツカの泥酔した姿だったからだ。
「あの、皆さん。これは何のご冗談でしょうか?」
今の時間帯まで公園でダンスの練習に励んでいたミクルが不思議そうな顔をする。
ミクルが酔ったマネージャーを知ったのは今日が初めてだからだ。
「……何でも何もこれが現実」
「理想と現実のギャップですわ」
いつもはビシッと決めるタツカがお酒好きで酔ってしまえば、こうやって難癖をなすりつける。
酒乱もいいとこであった。
「それで一度でいいからマネージャーさんのお酌を手伝うと?」
「……一度言ってしまえばそれまで」
「ジーラさんたちが生放送中に変なカンペを見せるからでしょ?」
ミクルが真っ赤な表情をしながら、ジーラに不満をぶつけるが、起こったことは仕方ない。
「……それでうっかり言ってしまい、放送中に幸あれと」
「いや、どう見ても大荒れやろ?」
遠巻きで甘い玉子焼きを口にしていたケセラが正論を言い出す。
「うえーん。ケセラさん。二人が私をいじめるんですよー!」
ミクルはケセラだけはマトモだと思いながらケセラに抱きつこうとする。
ケセラには速攻で避けられたが……。
「何なん? 新しいドラマの撮影話?」
「ケセラさんも現場にいましたよね?」
「……ケセラ、現場監督に昇格」
「いや、ウチはアイドルやから」
「アイドルだから何だってんだ。お前ら新人がアイドル気取りなんて百年早い……うぷっ!?」
タツカが口に手を当てて、栄養素を全て流したい衝動になる。
加えて部屋の片隅に逃げる、酸っぱい犠牲に遭いたくないメンバー。
「あー、気分悪い……」
「タツカさん飲みすぎですよ。さあ、お手洗いに……」
「ああ、悪いな、ミクルちゃん。そのセクシーな肩、少し借りるわ」
タツカがグラビアアイドルよろしく的に、ケセラのセクシーな鎖骨に頭を軽く当てる。
「ウチはミクルやないで、飲んだくれ親父」
人違いされたケセラはむすっと不機嫌そうに毒のある発言をした。
自身とミクルが同じレベルのアイドルというのに腹を立てたのか?
「まあまあ、ケセラちゃんも怒らない。今日はマネージャーの奢りで色々料理を頼みますわよ」
リンカがメニュー表を店員に見せて、ここのメニュー全部下さいと言い出す。
単価上等、奢り上等ってか。
「一番怖いのはマネージャーがシラフに戻った時やな」
「……オンキリキリキリギリス」
ジーラが鶴の折り紙を片手に持ち、怪しげな呪詛を漏らす。
「何でそこで陰陽師になるん?」
「……アイドルで食い繋げない時の保証」
「陰陽師の方が無謀やろ?」
この不況な時代にどうして千年前の貴族の職業を言い出すんだ?
己に自身があることはいいことだが、大型の地震が遭ってからでは遅い。
今は置かれた仕事を
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