第69話 喧嘩するほど不仲になる
「だからアイドルなのにそんなことも出来ないわけ‼」
「……すいまそん」
珍しくリンカがジーラに対して怒っている。
捜査官ではないが、その事件は現場で起きているのだ。
「だからその言葉使いは何よ‼ リンカのことを馬鹿にしてるのかしら?」
「……箸使いなら得意だけど」
「それくらい誰でも出来ますわー‼」
箸を普通に扱えても何てことない。
いくら箸使いを磨き上げてもマナーでは当たり前の作法だからだ。
「これだから一般庶民は」
「……醤油なら断然薄口」
「今、そんな会話はしてませんわー‼」
「……いや、一般の醤油がどうとか」
「もう、あなたの耳は飾りですの!」
「……少なくとも真珠ではできてない」
「ふっ、ふざけるなよー‼」
リンカがジーラの発言一つ一つに腹を立てる。
立てるならマンション丸ごと建ててほしいものだ。
「はい、カットカット!」
そこでタツカが二人の収録を中断させる。
そう、リンカとジーラはガチの喧嘩ではなく、次のドラマの収録をしていたのだ。
「今のはちょっと冷めた感じかな。ここはもうちょっと熱くならないと」
「えっ? リンカ的にはいつもの会話のやり取りで面白かったですわ」
「それにこの下手くそな台本は何だ? 確かに俺は君たちに台本を任せたのだけど、これではまるで三流役者だよ」
タツカが手元の紙の台本を丸めながら、訂正の意を込めている。
「……大根役者の方が良かったですか?」
「ジーラはかつら剥きにされたいかしら?」
「……あーれー!」
「いや、その場で回らないでいいですわ」
リンカが『よいではないか』とジーラの帯の紐を緩める度、ジーラは勢いに任せて回転するという設定らしい。
衣装は後からCGで誤魔化せるので問題なし。
「あはは! いいねえ!」
タツカが大笑いしながら、リンカとジーラを誉めている。
将来は誉められて伸びる演技派女優。
「そうだよ。君たち。俺はそういう反応を期待してるんだよ。女子校生らしいコントな日常をね」
ここでJKの二人ではなく、女子校生という呼びかけに二人の女の子は心も気持ちもリフレッシュする。
「……何、このおっさん、変わった趣向だな」
「この台本を書いたのはジーラでしょ?」
「……すまん、最近、定期的に記憶が途絶えて」
「そんなに酷いのなら、リンカの知り合いの医者でも紹介しますわよ?」
「──整体師ですけど」
リンカが指をワキワキさせながら、ジーラに迫るようにスマホで通話をする。
「あははっ! いいねえ! 君ら、中々面白いよ。お笑いアイドルの素質あるよ」
「ブラボォォォー!」
タツカは二人を高く評価し、今度は富士山を越えられるかの大勝負に打って出る。
「あのケセラさん、あの二人、どこまでが脚本なのでしょう? どうみてもいつもの会話のように見えるのですが?」
「ウチにもよう分からんわ」
ミクルとケセラには理解できない二人組のドラマ。
最終回を迎えても、このドラマは謎で終わりそうだった。
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