第62話 閉ざされた道、地図にない場所

「……道が閉ざされてる」

「この先、工事中みたいやな」


 深夜の国道にて、運転手のジーラが助手席のケセラに問いかける。


 そんなことはケセラも承知だったが、ジーラの機嫌を損ね、作業をしない方が余計に負担になる。

 何百となるだけの牛乳を捌くための貴重な戦力を失うわけにはいかない。


「……ケセラどーする? 配達が間に合わない」

「まあ、落ち着けや、ジーラ」


 ジーラのテンパりモードを何とか沈ませるケセラ。


 店長も言っていた。

 彼女も立派な従業員として、一人前の配達員を意識し、常に冷静な対応をしてほしいと……。

 居眠り運転や不注意などの交通事故になってからでは遅すぎるのだ……。


「ナビが頼りにならないなら地図の出番や。スマホは?」

「……職場の休憩室に忘れてきた」

「何でや。仮眠ばかりするからやで」

「……すまん」

「まあいいや。ウチのスマホで」


 ケセラがサイドブレーキの側に置いていたスマホで地図アプリを検索しようとタップするが、何度やっても反応がない。


「あれ、画面が写らん? 故障かいな?」

「……すまん。そのスマホにコーヒーをこぼした」


 確かにジーラの言う通り、嗅いでみると、香ばしいコーヒーの香りがする。

 ハンドルわきに付いているドリンクホルダーは飾りなのか?


「己はふざけとんのか?」

「……人間欲望には勝てぬ」


 その欲望とは睡眠欲のことであり、人間は眠気には対抗できないのを主張するジーラ。

 通話すらも出来ない物体を前にして、ケセラは頭を悩ませる。


「これじゃあ、ミクルとリンカにも連絡できんし。どうしたもんか」

「……二人きりだからと良からぬ欲望を抱くケセラ」

「そんなことないで。ウチを百合系統にしても無駄やで」


 この舞台は百合な要素がある内容だが、ケセラは至ってノーマルだった。


「……ケセラは意地を張っている」

「張らんわ‼」

「……そこがまた可愛かったり

「どういう屁理屈やね?」


 可愛い娘には足袋たびを履かせろの言葉とは違い、屁理屈という面倒な靴は得意げに履くから、困ってしまう。


「あっ、ケセラさん、ジーラさん!!」

「やっぱりここにいましたわね」


 絶妙なタイミングでミクルが運転する軽トラと鉢合わせになる。

 助手席のリンカもこちらにピースサインをしていた。


「おおっ、ミクルも中々やるやん」

「はい。ジーラさんのスマホがないからして、今頃、迷ってるんじゃとリンカさんから聞かされまして、地図を持ってきました」

「でかしたで。ミクルちん!」

「えへへ、照れますね」


 お姉さんのような性格のリンカを抑え、真の名探偵はミクルの方だった。


「えっと、太平洋に日本列島がポツンとあって……」


 車窓越しから受け取った地図には大雑把な大陸が描かれていた。


 あれれ、妙だな?

 東京って、こんなにも広い海に囲まれ、豆粒みたいに小さかったかな?


「これ、世界地図やないかい!」


 ケセラが世界地図を丸めて、座席に投げつける。

 航海士ケセラは大陸横断は望まず、純粋なルートを知りたかったのだ……。





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