第56話 配達テロ
「まずは一軒目。玄関に置かれてる牛乳箱入れに商品を入れるんだけど……」
「はい。それなら楽勝ですね」
先輩が運転する車で配達ルートを案内されるが、今まで妄想で職を渡ってきたミクルたちにはちょろいものである。
「箱の中に虫がいる時があるから気を付けてね」
「えっ、冗談抜きで怖いですね」
その箱は人喰い箱ならぬ、虫食い箱だったということに怖じけつくミクル。
「……虫だけに無視できず」
「配達員は常にモンスターとの戦いですわね」
レベルマックスでも避けられない戦闘。
こんな時こそ、抜き足、刺し足、虫刺されである。
「……デビルナメクジラーとか出てきたら、か弱いミクルの腕なんてペロリ」
「きゃー、思い浮かべたくなーい!」
ミクルが驚愕な人相になり、ナメクジの怪物に怯え出す。
いや、塩かけたら終わりだろう?
「あのなあ、ここは異世界じゃないんやけど?」
「お宅のお知り合いさんは少し変わった顔ぶれですね」
カーブに差し掛かり、先輩がハンドルを切りながら複雑な面持ちとなる。
「……すまぬ、聞き流してくれ」
「原因の発端が何を言うとる」
「……デヘヘ。面と向かって言われると照れる」
「今の会話のどこにデレ要素があった?」
ジーラの感性はたまにおかしい所がある。
ヲタクに故意は必然である……。
「あの、話の続きに戻っていいかしら?」
「……すまぬ、拙者の武勇伝を聞いてもらい……」
「そんな話はしてないやろ?」
ジーラが満足げに胸を反らす。
上体反らしなら、車から下りて好きなだけやってくれ。
「だから虫が居ても動じないように前もって軍手をはめるなりの対応策をして……」
四人の女子の場を読んでくれているのか、先輩の手厚い指導に感謝である。
「……相手がクラスター爆弾おにぎりでもか?」
「ジーラ、それ食べ物なん?」
「……いや、飲み物と見せかけた生物兵器」
「そりゃ、あかんやろ‼」
クラスター、無数のふりかけの攻撃がこの地に降り注ぐ。
のりたまだったらいいなあ。
「あの、そろそろ配達の準備をするのでよろしくお願いします」
運転席の先輩が困ったようにケセラたちの会話を真に受けている。
「……ああ? ちょっと待てや、嬢ちゃん」
「お姉さんは少し黙ってて下さい!」
ジーラとミクルの鋭い問い返しに殺気を感じ取る先輩。
「あっ、はい」
「先輩をビビらせてどうすんや!」
それっきり黙り込む先輩の前で必殺兵器を取り出すケセラ。
『ピコッ‼』
「「ぎゃふーん!?」」
ジーラとミクルに当たったピコピコハンマーは、予想以上のダメージを与えたようだ。
「何だか楽しそうな職場ですわね。リンカも会話に交ざってもいいですか?」
「お前ら、仕事せいや‼」
そう、この三人に仕事のやる気なんてない。
そんなスイッチはどこにもないのだから。
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