第5章 大地に座ることを忘れた、警備員になって

第44話 警備IN、採用痛知

 ここは自販機だけがやたらと浮いている殺風景な建物の休憩室。


「では、次の面接の方、こちらへどうぞ」

「はいっ!」


 事務所からのおじさんのお声で、部屋に入っていくミクル。


「おいおい、見たか。あの華奢な女の子」

「ああ、こんな現場に女の子が勤まるかね?」

「いかにも世渡り知らずなお姫様って感じだったよな」

「そうだな。お子ちゃまにこんな警備員は勤まらんデッセ」

「違いねえ。マロングラッセ。ワッハッハ!」


 従業員の男たちは好き勝手にミクルを言葉でののしっていた。


 まあ、無理もない。

 今回の仕事は外作業で体力勝負。

 男ばかりの職場ではよくあることだ。


「……くっ、アイツら言いたい放題」

「ジーラ、お気持ちは分かりますが、今は耐えるのですわ」

「リンカの言うことも正しいで。ウチらは覚悟を決めて、ここに来たんやから」

「……でも」


 向かい側に座っていたジーラが、従業員に苛立ちをぶつけようとするのを止める仲間たち。


「おっ、おい! アレ見てみろよ!?」


 すると、従業員の視線がコンポタ缶を飲んでいたリンカに向けられる。


「おっ、おい、ネーション財閥のお嬢様がここに来てるぜ?」

「えっ、マジかよ? 道を通るだけで何億という金が動く富豪家が!?」

「じゃあまさか、この弱小会社を潰しに来たとか?」

「おい、首が飛びたくないなら、下手に刺激すんなよ‼」


 男連中が別の理由で何やら小声で議論している。


「何だか、視線が熱いですわね」


 コンポタも熱いが、見られているのも意識しながらか、お上品に飲んでるリンカ。


「隣には近所のゲーセンを又にかけたゲーマーの地味っ子もいるぜ!?」

「ああ、何千円注ぎ込んで勝負に挑んだかわかんね」

「プロゲーマーでも手も足も出ない強さらしいぜ」

「プロでも敵わないとか、どんだけの腕前だよ!?」


 男たちの数名が、怯えて腰を抜かす。


「……チートスキルゲット♪」

 

 従業員の発言にノリノリになったジーラが拳を構えて右アッパーの仕草をする。

 必殺技、商品拳大(↓タメ↑大ボタン)である。


「その隣には、伝説のレディース番長、あのケセラお姉さんじゃね!?」

「馬鹿野郎、がたけえぞ。高級煙草タカられて、愛用の改造バイクでぶっ飛ばされるぞ‼」


 男どもの異様なビビり方にケセラが頬を指で掻きながら、非常に困った表情になる。


「あははっ、いつの時代のキャラ設定だか。これには参ったわ」


****


「「「あねさんたち、お疲れしやした!」」」

「「「明日からよろしくお願いしやす!」」」


 バイトも社員も関係なしにミクルたちに、大きく頭を下げる従業員一同。


「あの……。ケセラさん。私たち、行きと帰りとじゃ、全然反応が違うのですが?」


 警備員の採用通知書を貰ったミクルが不思議そうに聞いてくる。

 他の三人も原付免許所持というのをクリアしており、難なく採用である。


「まあ、ウチらにも色々あるんよ……」

「……黒歴史」

「頭の中は交通標識で真っ白ですわ‼」


 四人の警備員の存在は業務を始まる前から変に神格化されていたのだった……。

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