第20話 実習生で学んだボケ

「二人ともどうやった? 二週間に及んだ教育実習生としての体験は?」


 湯気の立つコーヒーの入った白いマグカップを持ったケセラ教諭は職員室にいた実習生のジーラとリンカに声をかけた。

 今はお昼休みであり、職員は各々おのおのにランチを食べながら、談笑している最中だ。


「ミクル教師の豹変ぶりが凄まじかったですわ」

「まあ、分かるで。ウチも初めはそうやったからな」


 手作り弁当を食べる手を休めたリンカがおっかない顔つきで真相を語った。 

 その青ざめた表情は、まるで千年生きた化け猫でも見たような様子でもあった。


「……トナトナの音楽CDが出たら、絶対買う」

「いや、ジーラ。あれは円盤にするのはちょっとな……」


 一方で二個目の焼きそばパンをかじるジーラは目を輝かせながら、CDリリースを希望してるようだが、販売した所で売れるのだろうか。


 例え、配信限定にしても、あの加工肉の題材からに売れそうにないが……。

 幼い子供が聴いたらワンワン泣きそうだ。

(詳しくは前話参照)


「この体験を生かして、本当の教師に晴れてなったら、ここでのことを思い出してや」

「……緊急時に思い出してパニクるのか?」

「あのな、災害時の時は逃げるのに専念してや。命あっての物種やで」


 ジーラが恐怖に怯えながら、ミクルの存在を訴えだすが、変にミクルを神格化しないで欲しい。

 天然だから、余計に調子に乗るし……。


「種と言えば校舎の花壇に植えたヒマワリの種が、一向に芽が出なかったことですわね」

「その種、本当にヒマワリかいな?」


 夏前の季節に蒔いて、毎日欠かさず、水もあげてたのに、成長の過程がないことを不思議に思うケセラ教諭。

 ヒマワリは土にさえ注意すれば、比較的育てやすい植物だが?


「その種、学食のおやつとして付いてきたのですけど……」

「リンカ。それ、お菓子として、すでに調理済みやろ?」


 スナック菓子を埋める前に育つ所か、カラスや蟻に全て持っていかれる。


「そうなんですね。何かおかしいとは思いましたけど?」


 ミクルがイチゴのショートケーキを食べながら、こちらの輪に混じってくる。

 混じりっけのなかったピュアな会話? がこの娘のせいで台無しだ。


「そんなミクルの頭もおかしいで」

「えっ、私の頭は食べられませんよ?」


 ミクルが『私の将来の夢は、この教師で学んだパンケーキになることですね』と真面目に語り出すが、その真面目さに反して、屋や職人の言葉が抜けてね?


 姫、こんがり焼くのは海水浴場でご勘弁を……。


「はあー、こんな教師やけど、二人ともこの学校に就任したら、ミクルのこともよろしくな」

「ええ、その時はケセラ教諭を盾にして戦いますわ」


 どうやらミクル教師は二人の実習生にとって、驚異のボケた魔法使いと思われたらしい。

 彼女のボケ魔法を永遠に食らう、盾にされたケセラ教諭の命運やいかに?


「……教師とは綱渡りのように常に命懸け」

「ちゃうやろ?」


 いくら人と接するとはいえ、命を張るような授業なんてそうそうないはず。


「……では、伝統文化では?」

「ウチの学校は芸能科はないで」


 そんなツッコミどころ満載な教師生活は伝統へと受け継がれる──。


「──何でもかんでも受け継ぐなや‼」

「ケセラ教諭? いきなり叫んでどうしたのですか?」

「女の子にも色々あるのですわ♪」

「……別名、被害妄想とも言う」


 こうして、ボケとツッコミが主流だった二人の実習生の研修は無事に終わり、二人とも立派な教師を目指して、日々精進するのだった……。


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