第19話 となりのトナトナな授業
「このように音楽では自由な表現ができ、手持ちのアイテムを楽器にし、音を奏でることができました」
ミクル音楽教師が空の鍋や水の入ったコップを木の棒で軽く叩いて音を生み出すと、生徒たちは歓喜して、彼女の授業に聞き入っていた。
「トナトナトーナートーナー、子豚が暴れ~♪」
そしてミクル教師により、即興な歌声で、トナトナを上品な音色で演奏してみせる。
「トナトナトーナートーナー、荷馬車が跳ねる~♪」
ただし、歌声は音痴なので、替え歌までして歌ってる意味がない。
しかし、歌詞がリアルで子豚ちゃんも加工されたくないという気持ちがジワジワと伝わってくるのは事実だ。
「普段はポヤーとしてるけど、担当の音楽の授業となったら、こうやもんな」
「まるで別人のようですわね」
「……別の人間が憑依してる?」
リンカとジーラ、二人の教育実習生は、今までにないミクル教師の立ち振舞いに臆していた。
別の人格がとりつき、意表な行動をする彼女の姿が予測もできなかったのだ。
二人にとって、ミクルは食欲魔女で食べ物を小ネタにした授業が主と思っていた。
乳酸菌と同じく、人には人の得意分野がある。
それが、いい意味で裏切られたのだ。
「二人とも、あの凛々しい姿をよく目に焼きつけておくやで。実際に教師になった時の参考にもなるで」
「それは大いに助かりますわね」
「……もう大道芸の神と言うしかない」
ケセラ教諭の粋な励ましにより、酸素より勇気を沢山受け取った実習生二人。
実習生二人はミクルの動きを皿のようにしてみていた。
その皿の中には二つの目玉焼きでものっているのか?
目玉焼きの黄身が半熟のように、二人の心も未熟だったのだろう。
味つけは塩対応と心の故障と、それらを吹き飛ばす大きなくしゃみのみである。
「あははっ、神は大袈裟やけどな。でも教え子として鼻が高いで」
「……ならば、その自慢の鼻をへし折ってやる」
ジーラがミクルに負けまいと一枚の挑戦状を叩きつける。
黒い文字でデカデカと『インク塗り立て』と書かれており、黒服のヤーサンの書き初めを
「何で、そこで童話の話になるん?」
「……ミクルを華々しい舞台に立たせかった」
「いや、もう教壇に立ってるで?」
ケセラ教諭は笛やハーモニカで演奏をするサーカスの曲芸士となったミクルを褒め称える。
自慢の教師が、ああまでして頑張る姿を見ていると、自分も元気づけられるものだ。
だが、ジーラがキノビオの話をもってくるからに、この現代国語の専門教師(希望)も中々やるなと少なからず感じていた。
「いえ、貧血が怖いのですよね?」
「リンカ実習生。怖いのは貧血の生徒じゃなくて、貧血で倒れる教師やで」
そんな時は黒板にチョークを書く手を止めて、大きく深呼吸して欲しいものだ。
あれ、ミクル教師が黒板にイラスト以外にマトモな文字を書いた姿を見たことがないのは気のせいか……?
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