38話 散らばる肉塊

 思いついた方法を試したいが余裕がない。


 しかも大きな博打だ。


 しかし、もう他に方法は思いつかない。


 一瞬でも時間を作らなくては。


 俺はちょうど飛びかかってきた獣の首を掴み、それを振り回して投げ飛ばした。


 俺の周りに一瞬だけ空間が生まれる。


 先程振り回した獣が獣を飛ばし、後続を邪魔している。


 その一瞬が欲しかった。


 俺は後ろに右手を突き出す。


 強烈な熱を感じたところで俺は唱・え・た・。


「『吸収』」


 刹那、神々しく光っていたそれは俺の手の中に吸い込まれる。


 激しい光を目に浴び続けていた獣は一瞬視界が暗転し怯むはずだ。


「ハル! メイ! 起きろ!」


 俺は叫ぶ。


 その時、俺は何かを感じ取る。


 本能のように咄嗟に前に右手を突き出し、


「『解放』!」


 唱えた。


 掌の中心に何かが集まる感覚。


 そして、それは掌から前に放たれた。


 先程の背後で輝いていた火は前方を走り、獣たちを焼き尽くす。


 俺はそれに走ってついていく。


 後ろからついてくるその人に話しかける。


「ハルか、メイは?」


「あの人はほっといても平気よ。私たちは早く『道』に」


 後ろに続いていたハルは俺の横につく。


 ハルと並走、意外と足が速いことに驚いた。


 たまに横から飛びかかってくる獣を殴り飛ばし、火が通った後を進む。


 すると突然、前を進んでいた火の玉がパンと弾けて消えた。


 そこが『道』か。


 俺は獣を躱しながら、『道』に飛び込んだ。


 その時、俺の後ろにいた獣の首が一斉に飛び絶命する。


 そこらに血飛沫をあげ、朽ちていく。


 その光景を見た残りの獣たちも本能で悟ったのか、こちらに来ることはなかった。


「ハル?」


 ハルの姿が見えない。


 まさか逃げ遅れたか?


「大丈夫よ」


 その声は右から聞こえる。


 見ると、銀の髪を風に靡かせながら、こちらを見て静かに微笑んだ。


「いつの間にそこに」


「走って疲れてたんなら気付かなくても不思議じゃないよ」


 そんなに長い距離を走っていたわけじゃないのだが。


 でも長い事戦っていたことは確かだ。


 それよりも。


「メイは? 平気って?」


「ああ、あの人は……」


 その声の続きは、大きな爆発音でかき消された。


 先ほど俺たちがいた場所から響いてきた。


「何の音だ?」


「多分メイよ。相当ご立腹のようね」


 その声につられるように再び爆発音が響く。


 鋭い光が走り抜け、空に白煙が昇っている。


 そして、獣であっただろう肉塊が当たりに散らばった。


 静寂が場を包む。


 あの大量の獣もいなくなっていた。


 白煙の中に人影が見える。


「メイ? 大丈夫?」


「ええ、心配ありがとね」


 白煙の中から出てきたメイは清々しい笑みを浮かべ近づいてくる。


 あれだけ爆発で血が飛び散っていたのに体は全く汚れていない。


「さっきの爆発はメイが?」


「当たり前よ。私の睡眠を邪魔した罰だわ」


 にっこりと微笑むメイ。目は笑っていない。


「まあちょうど夜も明けて明るくなってきた頃だし、起きるのにはちょうど良かったんじゃない」


 ハルは空を見上げながら言う。


「そうだな。じゃあさっさとこの森を抜けるか」


「そうね」


 そうして再び俺たちは『道』を歩きだす。


 空にはオレンジの筋が走っていた。

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