2話 森の中

 思わず首を回し辺りを見渡す。どの方向を見ても木、木、木。さっきまでアスファルトだった地面も今は草が生い茂っており、完全に森の中だった。


「……ここは、日本か?」


 現実を飲み込めないというようにそんな言葉が零れる。いや、ここが現実だというのを否定したいのかもしれない。


 大体わかっていた。こんなファンタジーが本当に現実で起こると思ってなかったから混乱しているだけだ。


「異世界転生とかその類か?……」


 こんなものは小説やファンタジーの中で十分だったのに、なぜ巻き込まれたのか。無性に腹が立ってくる。しかし、少し考えてみると、異世界転生にはお約束があることを思い出した。


「何か特殊なスキル的なものはないのか?」


 一応体を一周ぐるりと見てみる。特別な変化はない。魔力的なものが強かったり……というかこの世界に魔法は存在するのか?


「とりあえず道かそれっぽいものを探さないとな」


 俺はもう状況を飲み込み、混乱はしなくなっていた。直感が訴えてくる。この世界の情報を集めろと。







 俺は立ち上がる。なんか体が変な感じがする。少しふわふわするような軽い感じが。まぁ、それはいったん置いておこう。ちょっとショックが大きくて体調がすぐれないだけかもしれない。


 そして俺は一考する。一応、ここが日本かどうかも視野に入れておいた方がいい。日本だった場合はまだ楽である……おそらくその可能性はないだろうが。


 空を見上げる。今は真昼か。太陽のような輝く恒星は真上から光を放っている。


 とりあえず移動してみる。この世界がどんな世界であれ、まず人がいて町があると仮定しておく。当てのない旅になるだろうが、それは仕方がない。向こうの世界では卒業式が昼までで昼食はすでに食べている。なのであまりお腹はすいていない。


 歩き出す。どちらに町があるのかわからないので、あくまで自分で決めた方向へだが。


 歩いていてもあまり景色は変わらない。しかも心なしか体がふわふわする。まだ体調が悪いのか。


 そして、俺は走ろうとする。しかし、走れなかった。


「え?」


 俺の体は飛んでいた。そして頭から木に突っ込んでいく。バキッという音とともに木が折れ、倒れる。周りにはドンという音が広がる。


「ったー。何が起こった」


 目の前には倒れた木。思わず体が固まる。


「これは俺が倒したのか?」


 俺は近くにある木に横から蹴りを入れてみる。すると、ミシミシという音とが鳴ったと思えば、その木は根元から倒れる。


「……マジかよ」


 自分の力とはいえ、ちょっと引いていた。蹴っただけで倒れるものなのか?


 さっきから体が軽く感じていたのはこの異常な力のせいか。


 そこで俺は少し考えていた。


「この力はスキル的なものなのか」


 しかし、発動するといったものは特には感じなかった。ならばこれが俺のこの世界でのデフォルトって事か?いや、もしかしたらこの世界の物の強度が低いのか? でも、それだとしたら走るつもりが飛んだ現象に理由がつけられない。じゃあこの世界の重力が小さいとか?これもまたありえないだろう。


 俺が頭を抱えてうなっていると足音と声が聞こえてきた。


「今こっちですごい音がしたぞ」

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