魂し合う者たち
倉井さとり
第1話
風のない静かな夜のことであった。――さらにこう言い添えておこう。〝
座椅子に体をあずけ、
(……なぁ私? 怒りの頂点でもって、また自らの意思で
座りすぎによる血流の停滞のためだろう、その場に立ち上がると貧血のような快感がほんの一瞬起こった。(……ぉおおおおぉぉ……!)
快感が引くと私はすぐさま、家のなかをぐるぐると歩きまわることを始めた。そうして――さて、私が近々感じた現在に肉薄するほどの質感をおびた怒りはなんだろうと考えてみると、さほど時間をかけることなく、「んあぁこれだぁ」というのが頭に浮かんだ。
それは、親友のあり様についてである。それに対する私の認識、またその変化である。
私だけの親友。彼の名は〝
彼という男は、この世に存在する〝うんちく〟を収集するのを無上のよろこびとしていた。彼はまるで熱い息を吐くように、何わきまえることなく、ところかまわず、自慢の〝うんちく〟を垂れながしながら生き、そのまま死へと飛び去った。
彼の切実な様子は、見るものに次のようなイメージを湧かせる。浴槽に浮かぶ黄色いアヒルくんよろしく
彼の〝うんちく〟は
そんな彼が、最後に残した〝うんちく〟というのが、〝
彼らしくない、彼の最期。……私はそれが許せなかった、いいや、気に食わないという方が正確かもしれない。
彼はスケールの大きな男であった。けっして
ただ最後の〝うんちく〟がそうであったというだけだ。何も気にすることはない、と頭では理解しているつもりだ。だけれど、そうしようとすればするほど、私はやるせない思いにかられていった。彼がちっぽけな男であったと、世界がそれを認めるようで、私はそれが嫌だったのだ。
そうしたことを思い出すうちに、怒りによって私の体は勝手にうごきはじめた。右手に持っていった
耐え難い痛みが手のひらに走る。幼い頃、ゴミ捨て場にあったビニール袋のぞんざいな置き方に激怒し、それに蹴りをいれた拍子に中に入っていたサボテンを踏みつけ、刺で足を貫通させてしまったことがあったが、それに差し迫る激痛であった。
「 ひ、ひ、ふぅ ひ、ひ、ふぅ 」と私は、唇を意識的にうごかし、そう言った。すると、痛みはきれいさっぱりなくなってしまった。痛みがないとはいえ、
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