第2話 到着
ガタンゴトン、と汽車に揺られながら窓の外を眺める。イトスギやメタセコイアが両端に並ぶ線路を走る中、時々花畑やレンガ造りの家が見える。長閑で平和そうなのに、うちの国より血に塗れた歴史を辿ってるんだよな、と青年_ヒューゴ・アディンセルは思い更ける。
ヒューゴは歴史が好きなごく普通の青年だ。とある本に魅入られ、その本の著者である教授の下で学ぶために隣国『グラマノス』よりやって来た。歴史好きであるため、引っ越し先である『エレホフィル』の歴史も知っているが、改めて思い返し自国と比べてみると、内戦はとても少ないが他国との戦争はそれなりに多く、グラマノスの何倍も戦争している。そしてもう1つ。
ー他種族迫害や差別がないー
この世界には何の能力も持たない人間以外に、魔法使い、魔術師、異能者、獣人、吸血鬼等多種多様な種族が存在する。そして一番数が多いのは、何の能力も持たない人間_ノーマル_だ。何の能力も持たない人間は通称ノーマルと呼ばれ、グラマノスも人口のほとんどがノーマルだ。ヒューゴもノーマルである。
ノーマルは獣人や魔法使いより弱くとも、数が多いだけに数の暴力で迫害や差別をしてきた。一応、魔術師や異能者は人間の括りに入ってはいるが、ノーマルとは違い不思議な力が使えるため、彼らも迫害や差別の対象になった。
エレホフィル以外の国は、ノーマルが他種族を差別し迫害を行った歴史が多く、今も盛んに行われている場所もある程だ。それか迫害はせずとも、差別したり遠巻きにしている事が多い。グラマノスもそうだ。魔法使い等は居るにはいるが、あまり見ないし居たとしても遠巻きにされている。それ故に肩身狭い思いをする事が多い。
しかしエレホフィルは歴史上、種族差別や迫害を行った記録はない。お互いに手を取り合い、支えあって暮らしている。そのお陰か世界的に見ても平和で、技術力や軍事力、生活水準もトップレベルだ。因みにだが、グラマノスはエレホフィルに敗けた過去がある。
そりゃノーマルの何倍も高い身体能力を持つ獣人や、自然現象を操れる魔法使い、魔力ではない何か不思議な力を使える異能者がノーマルより多く存在する国に勝てる訳ないよな、と苦笑し、それと同時にある一文を思い出す。それはレノバスという国の兵士が書いた日記の一文で
_戦場で白い髪を見たら神に祈れ_
と、書かれている。これはエレホフィルとレノバスが対戦中に書かれた日記で、エレホフィル側の白い髪の兵士に会ったら確実に死ぬという内容だった。1人で何万人もの兵士を倒せる程強く、怪我を負わせたり殺せた試しがほとんどないと云う。また、登場するのはこの日記だけではない。ほかの歴史書や戦争の報告書等にも複数載っている。
いつの時代でも、エレホフィルの戦争に関する歴史書にはほぼ必ずと言っていい程載っており、その歴史を語る上で欠かせない存在で、今も昔も国の軍事力と防衛力を担う『フォード一族』だ。
数千年前から存在する古い一族で、一人ひとりが一騎当千の戦闘力と異能を有しており、彼らが参戦すれば勝利は確定で相手側は血の海に沈むとすら言われている。それを裏付けるかの様に、エレホフィルと対戦した側の歴史書のほとんどに、甚大で致命的な痛手を負ったと書かれている。
一族の大半が軍や傭兵、ハンターやボディーガード、武器商人、暗殺者等の戦闘職や荒事関連に就き、身体的な特徴は白い髪と、双子と言っても差し支えない程よく似た顔で、それを知らない人が見ると何十年、何百年も老けずに生きている様に見えると云うある意味ホラーな家系である。
戦闘職に多く就く家系ではあるが、その中にも例外はいる。それはヒューゴが魅入った本の著者だ。何とこの著者はフォード一族の人間だったのだ。最初著者の名前を見た時は、グラマノスでは珍しくないラストネームなので何とも思わなかったが、出身がエレホフィルだったため調べてみると、フォード一族である事が判明した。写真も見たが、雪の様な白髪の美しい人だった。
思わず卒倒しそうになりながら、『何で教授職に就いてるんだ?』と疑問に思いつつも、多分先人達の資料や口伝が多く残されている可能性が高いため、聞きたい事聞き放題では? となる辺り相当な歴史バカである。
『間もなくウォーリダム大学駅に到着します』
そうこうしている内に駅に到着する時間になった。荷物を持って降りる準備をする。気持ちを入れ替え、これから始まる新しい生活に思いを馳せた。
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