第11話 新たなチャレンジ

 ひかりちゃんがアイドルを目指すことを快諾かいだくしてくれた。

 それだけで私の心は羽のよう。天にも昇るハッピネス。

 血反吐ちへどを吐くほどに、バレエのレッスンをやり切った甲斐があったというものだ。


「バレエコンクールで優勝してひかりちゃんをアイドルの世界に誘うっていう当初の作戦とは少し違っちゃったけど、結果オーライ。万事解決ね!」


 バレエコンクールの翌日、私は自室のベッドに腰かけてガッツポーズを繰り出す。


 それにしても「不束者ふつつかものですが末永く」なんて難しい言葉、ひかりちゃんよく知ってたなぁ。

 ドラマとか漫画で見たのかな? 


「でも、あれじゃまるで私がひかりちゃんにプロポーズして、OKの返事をもらったみたいだよね」


 一緒にアイドルになろうって誘っただけなのに、ひかりちゃんも変な言い回しをするものだと、思い出して少し笑ってしまう。


「……なんだか、とんでもないことをやらかしてしまった気もするけれど……」


 きっと気のせいだろう。

 多分、絶対、恐らくは……。


 とにかく、私なんかが美夜様としてカレプリの世界を守れるのか不安で仕方なかったけれど、ひかりちゃんをアイドル界に誘うという第一の関門はクリアできた。

 まずは及第点と言って良いかもしれない。

 だが、いつまでも勝利の美酒に酔っているわけにもいかないのが実情だった。


 なぜなら私──黒帳美夜にはやらなくてはならないことが、まだまだ山積みなのだから。



 □■

 

「――え? バレエを辞めて、今度は歌を習いたい?」

「どうして……美夜ちゃん。あんなに必死でバレエ頑張っていたじゃない?」


 全国バレエコンクールから一週間が経った日曜日の昼下がり。

 自宅のリビングで家族そろってママお手製のパンケーキを食べ終えた後、私からの突然の申し出に、目をまん丸くして驚くパパとママ。


 そりゃそうだよね。

 小学一年の娘が何かに憑りつかれたかのようにバレエに打ち込んで、やっと全国レベルにまで到達したというのに、いきなり別の習い事を始めたいとか言い出すんだから、驚くのは当然だろう。


「――お願いパパ、ママ。私、バレエでやれることは全てやりつくしたの! 次は私が歌で日本一にならないと、世界の歌姫が失われてしまうのよ!」


 バレエコンクールで、ひかりちゃんをアイドルに誘うという目標は達せられた。

 けれど、黒帳美夜としてカレプリの世界を守るにはそれだけじゃ全然足りないのだ。


 ひかりちゃんのことで頭がいっぱいで、すっかり失念していたのだが、美夜様の影響を受けてアイドルになった女の子って、実はひかりちゃんだけじゃないんだよね。


 それこそ星の数――は言い過ぎたけれど片手じゃ足りないくらいのアイドルが美夜様の影響でエターナルスター学園に入学することになるのだ。


 そのアイドル達は皆、小学校時代に美夜様と出会い、何かしらの勝負で美夜様に敗北。

 その結果、美夜様を追ってアイドルになる――というのがお決まりの設定だったりする。


 それにしても美夜様ってば各方面に喧嘩売り過ぎ、人材発掘に積極的過ぎだよ。

 ホント黒帳美夜というキャラが居なかったら、カレプリの世界は人材不足で絶対に成り立ってはいなかっただろう。


 で、再三言うけど、その黒帳美夜様は……今は私なわけで。


 ここまで言ったら流石に分かるよね?


 私のやるべきこと。

 それは黒帳美夜として、将来のアイドル候補にバシバシ喧嘩を売って、そのことごとくをくだす。

 そうして美夜様の歩んだ修羅の如き道を辿り、エターナルスター学園中等部入学までの残り五年間で、エターナルスター学園にカレプリアイドルの全員を集めること!


 ――それが私、黒帳美夜に転生した、黒岩宮子の天命なのだ!


 だとすれば、私には一分一秒すら無駄にしている時間は無い。

 そして、そのために必要な次の一手が〝歌〟だったのである。

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