第6話 私が本物の美夜様!?
「パパ、ママ、私を綺麗に産んでくれてありがとう!
──と、両親に宣言してから更に三日後。
私はあることに気付いた。
気付いてしまった。
「あれ? 私の生まれ変わったこの世界、実は現代日本じゃなくてゲームの世界じゃね?」
という事実に。
うん、まぁちょっと何言ってるか分からないと思うけれど、そこは勘弁、しばらく付き合ってもらいたい。
──それは休みが明けて、最初の小学校での出来事。
どうしてもアイドルの情報が知りたくてたまらなかった私は、同じクラスにいつもアイドル雑誌を眺めている女の子がいることを思い出した。
彼女に聞けば、アイドルの情報が手に入るに違いない。
雑誌を読ませてもらったり、仲良くなったらライブのブルーレイを借りたりできるかもしれない。
そう考えた私は、お昼休みに早速その子に話しかけた。
「えっと、ひかりちゃん……だよね? いつもアイドルの雑誌読んでるけど、アイドル好きなの?」
「え、あ、あの、ごめんなさい。もう、もってこないから……ゆ、ゆるして」
机に座ってアイドル雑誌らしきものを読んでいたひかりちゃんは、雑誌を両手で抱えるように隠しながら涙目で訴える。
そんな、いきなりいじめっ子にからまれたような対応をしなくても。
少しキリっとした顔立ちの自覚はあるけど、そんなに私、悪人面してるかなぁ。
「いや、そうじゃなくって……あの、私もアイドル好きだから、お友だちになれたらな~って思って声をかけたんだけど」
「え、みやちゃんもアイドル好きなの? あ、わたし……いきなりみやちゃんだなんて、いやだったよね。ご、ごめん……なさい」
本を抱えたままシュンとなるひかりちゃん。
……か、かわいい。
赤みがかった少し癖のあるショートボブ。瞳を隠すほどに長い前髪。その隙間から、小動物のようにこちらの反応をうかがっている。
うっはぁ。なんか、庇護欲と被虐心の両方をくすぐられる可愛さだ。
「そんな謝らないで……むしろ全然いいよ、美夜って呼んでくれて嬉しい。私だってもう、ひかりちゃんって呼んじゃってるし」
「う、うん」
私の返答に、ぱぁっと顔を明るくするひかりちゃん。
普段のひかりちゃんは、いつも俯いてて、本ばかり読んでて、声も聞いたことがなくて……暗い地味な子だと思っていたけど、笑うとこんなに可愛いんだなぁ。
──でもこの笑顔、どこかで見たことあるような……。
ひかりちゃんの苗字は確か木山さんだったな。
木山、木山ひかり……どこかで会ったことあるっけ? うーん、わからないなぁ。
「あ、あの、ひかり、あたらしい『エタ☆スタ』をもってきてるの。あの、みやちゃん……いっしょに見る?」
「うん、見る見る!」
ひかりちゃんが持っているアイドル雑誌は『エタ☆スタ』というらしい。
でも、エタ☆スタって、変な雑誌名だ。まるで、カレプリの世界にあったエターナルスター学園を縮めたみたい。
そんな私の考えを読んだのか、ひかりちゃんが言った。
「エタ☆スタはね。エターナルスター学園が出してるアイドルの本なんだよ」
アイドル仲間を見つけたのが余程嬉しかったのか、ひかりちゃんは満面の笑顔で話を続ける。
「だから、エタ☆スタっていうの。エターナルスター学園のアイドルがいっぱいのってるんだよ」
「へー、エターナルスター学園が発行してる雑誌なんだ。すっごい楽しみなんですけど……って、ちょっと待って!? エターナルスター学園!?」
「ちょ、みやちゃん!? きゅうにどうしたの?」
エタ☆スタを奪うように手に取り、慌ててページをめくり始める私に、ひかりちゃんが戸惑いの声を上げる。
けど、今の私にはそんなひかりちゃんに構っている余裕はなかった。
めくる、メクル、捲る。
すると飛び込んでくるのは、勝手知ったる用語の嵐。
――カード化した衣装を着て、AR空間でライブを行うカレイドシステム。
――日本にたった七人しかいないスタープリマ。
――国内で最も多くのアイドルを育成している、エターナルスター学園。
――七年前、突如解散した伝説のアイドルユニット、カレイド☆ステラ特集。
――人気ブランド、プリズミックティアラの新作コレクション。
何だ!? 何なんだこれは!?
どれもこれも私の勝手知ったる用語ばかり。
「これ……全部、カレプリの世界で使われていたアイドル用語じゃない……」
どうして、そんなものがこの現実の日本で販売されている?
本物のアイドル雑誌に載っているの!?
「えへへ、そんなにあわてなくても、アイドルの本はにげないよ、みやちゃん」
私が待ちきれなくてエタ☆スタに夢中になっているのだと勘違いしたひかりちゃんが、えへらと笑う。
……そうだ思い出した。この笑顔。
でも、もし今私が考えている可能性が、現実のものだとすると……まさか、この世界って。
いや、判断するにはまだ早い。
まずは、ひかりちゃんに確認しないと。
「あの……つかぬことをお聞きしますが、ひかりちゃんの苗字って木山さんなんだよね……?」
その言葉を聞いた瞬間、それまで嬉しそうだったひかりちゃんの表情が一気に暗く沈む。
「あ……その、ひかり……パパとママが、べつべつにくらすことになって……そ、それで、ひかりの名前……木山から日野にかわっちゃって……ぐすっ……」
「あああ、泣かないでひかりちゃん! 変なこと聞いてごめん! 辛かったよね。悲しかったよね。よしよし、私が側に居るからね!」
「み、みやちゃん……ぐす……あ、ありがと……」
涙を浮かべながら、精一杯の笑顔を浮かべるひかりちゃん。
不謹慎ながらクソ可愛い。
「そっか……日野……日野ひかり……日野ひかりって、どこかで聞いたことあるなぁ……」
――――――って、聞いたことあるなぁ、じゃないだろっ!?
日野ひかりと言えば、カレプリで美夜様とユニットを組んでいた、あの〝日野ひかり〟ちゃんと同じ名前じゃん!
「って、言われてみれば!?」
ひかりちゃんの両頬を掴んだ私は、その顔を近距離でまじまじと見つめる。
「み、みやちゃん!? どうしたの、そんなに見つめられると……は、はずかしいよ」
そ、そっくりだ!
恥ずかしそうに目を逸らしているひかりちゃんの顔は、カレプリの日野ひかりちゃんと瓜二つじゃないか!
もちろん幼くはある。
だけど、もし、ひかりちゃんが小学生だったら、きっとこんな顔だったに違いないと確信に足る顔立ち。
「これって、偶然……?」
何というか偶然だろうか……ていうか、これは本当にただの偶然なのか?
――美夜様と名前が同じで、顔もそっくりな私。
――日野ひかりちゃんと名前が同じで、顔もそっくりな目の前の少女。
そんな二人がアニメの設定と同じ幼馴染だなんてことがあり得るのか?
……あるわけないよね。
だって、今思い出したけどカレプリのひかりちゃんも母子家庭って設定だったはずだもん。
いくらなんでも偶然が行き過ぎてる……ってことはだ。
「……マジもんの日野ひかりちゃんなんですけど、この子……」
「マジもん……? 何それ、ぺケモンみたいな?」
頭に三つほど?を浮かべて小首をかしげながら、子供向けアニメのタイトルを口にするひかりちゃん。
まじでかわいいな。尊い。
「これぞ神の作りたもうた奇跡――って、そうじゃなくてぇ!」
本当に本物? 待って、ホント待って。
情報量が多すぎて、ほんと辛い。
この子が……本当に、あのお散歩アイドル日野ひかりちゃんだっていうの?
それ以前に、〝カレイドシステム〟とか〝エターナルスター学園〟とか、現実にあるわけないモノがこの世界には存在しているわけだし。
だとすると、この世界ってまさか……それに私の正体って……。
「――ここは本当にカレプリの世界で、私は本物の黒帳美夜様に転生したってことぉぉ!?」
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