第一話 1-7

 彼女は基本、女性魔術師には必須とされている、治癒系魔術の基本。初級魔法『ヒーリング』をはじめとする、主に女性が習得しやすいとされる回復魔法、その一切が使えない。

 治癒系魔術には薬品の調合や薬草学の分野も含まれるが、基礎としてはやはり【マナ】=魔力を消費して、自身と他者の怪我や病気を癒す回復魔法が花形であり、彼女の母もまた、その分野においてかなり高位の治癒術師であった。

 普段、その気になればこの学院丸ごと全部、一夜にして灰燼に帰すだろうと言われる彼女である。その言葉通り、内包される【マナ】の総量は莫大であり、常識的に考えてそんな彼女がヒーリングすら発動できない、というのは実に奇妙な話しではあったが、実のところ過去に類例がないわけではなかった。


【千に一つの魔女】


 とは、そう言った極端な類例が時として誕生するという、由緒正しい古き【異名】なのである。無論、それは強大な力を有するものたちに稀に見る、『極端な欠落』を揶揄する、不名誉な二つ名であり、段階を経て徐々に高度な技術を学んでいく過程において、彼女はまさに【最初の一段目】で早々に躓いたのである。

 その時の彼女と、指導にあたった導師の落胆ぶりは察して余りあろう。

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