第13話 戦力


 スキルやレベル。

 そう呼ばれる能力は全て失われている。

 けれど、何度もその引き金を引いた感触は。

 その感覚は、残っている。


 パン、と乾いた音が木霊する度。

 巨大な鼠の頭が破裂する。


 第一階層エネミー。

 ビッグマウス。

 名前の通りの見た目の怪物だ。


 巨大な鼠。

 胴に当てても、動きが止まらないから頭一点狙い。

 俺の拳銃の命中率も上がって来た。

 スキルを使ってた時とは比べられないけど。


 この世界の情報収集が俺の目的だ。

 コメントが色々教えてくれた。


 全10階層の迷宮。

 それが、俺の居る世界の全てらしい。

 10階層に到達し、ボスを倒せばクリア。

 そういうゲームの中に居る感覚。


 そして、参加者は俺だけじゃない。

 知名度を得る為に、様々な人間が参加しているらしい。

 彼等は実際に命を懸けてダンジョンへ挑む。


 そういう、狂気的なゲームの中に俺は居る。


「でも、お前等使えないよな。

 なんで、次元断層片の事知らないんだよ」



 :寧ろ何それ。

 :知ってても教えないけどな。

 :銃出す固有能力か、弱いな。



 好き勝手ばっか言ってくる。

 それがコメントという物だ。

 俺は今日一日でそれを理解した。


 そして、この世界の攻略の鍵がこいつ等にある事も。


 投げ銭。

 という機能がある。

 これによって得られるポイント。

 通称、技能値。


 これを消費する事で、この世界の固有の異能。

 皆がアビリティと呼んでいる物が獲得できる。

 らしい。


 俺の保有する技能値は1200。

 この数値はいつでも使える。

 けど、最低レベルのアビリティでも値段は500から。

 微妙に使い辛い金額である。


 強力なアビリティは値段も高い。

 貯金もありだ。


 同時接続数730人。

 2時間程で結構減った。


 ライバー。

 このゲームに参加した者をそう呼ぶらしい。

 俺たちライバーはこの同接を伸ばす必要がある。

 強くなる唯一の方法だからだ。



 :早く2階層行けよ。

 :何かアビリティ取れば?



 なんか、微妙にウザいんだよな。



 ラク:強かったです!



 という良い内容もあるんだけど。

 そもそも、俺はなりたくてなってる訳じゃない。

 この世界で、有名になりたい奴らのゲームだ。

 俺の目的にはそぐわない。


 でも、次元断層片を探すに必要はある。

 桜井先生曰く、転送場所は、次元断層片の近くになるらしい。

 それでも最大100km程度の誤差はでるらしい。

 だから、俺は迷宮をくまなく調べる必要がある。

 そして、その為にはアビリティは必要。


 でも、このコメントに頭を下げるのは気にくわない。


 取り合えず、コメントに頼るのは最終手段だ。

 今はできる事を確認して行こう。


 俺の力は現状、『複製デュプリ』一つ。

 複製の枠は3つ。


 『トカレフ』『神樹の杖』『未登録』


 これが、俺の全戦力だ。

 まだ、この世界で複製したい物は無い。

 よって戦力は、銃と杖の2つ。


「どんだけ行けるかな」


 そう思い、2つ目の複製品を召喚する。

 右手に銃を持ち、左手に杖が現れる。

 そして、それと殆ど同時に。

 白い髪の少女が舞い降りた。



 :美少女降臨。

 :かわいい。

 :なにこの生物。

 :人間も召喚できるのかよ。

 :けしからん奴だ。



 急にコメントの流れる速度が速まった。

 うるさいな。

 コメントを無視してマナへ視線を向ける。


「元気だったか、マナ」


「うむ、それにしても随分殺風景な場所に呼んだのう。

 何か、困りごとか?」


「あぁ、ダンジョンに迷い込んだってとこかな。

 ちょっと、力を貸して欲しい」


「良かろう。またバームクーヘンを食べさせてくれるのならな」


 ちょっと高くつく幼女だな。

 まぁ、それくらいならいい。

 どうせ、次元断層片が回収できれば10万だ。


「好きなだけ食べていいから。

 けど、マナって戦えるのか?」


「ふむ」


 そう言って、手足を動かし。

 何かを確認して行くマナ。

 そして、呟いた。


「神樹の力は問題無く使える様じゃ。

 果実の召喚に加え、結界の使用。

 後は、枝と根も召喚できるな」


「枝と根……?」


 そう、俺が呟いた瞬間。


「KIIIIIIIiiiii!!」


 また、通路の奥から鼠が現れる。

 高さが1m以上ある巨大な鼠。

 迎撃する為に銃を構えようとした。


 その時。


 ひらりと、マナが手を翳す。


け」


 マナの言葉に答える様に。

 地面から巨大な樹の根が現れる。

 それが、鼠をぶん殴った。


 一撃で壁に叩きつけられ、その臓物を根が貫く。


 絶命。

 数秒で鼠は死んだ。


「……強くね」


「そうか?

 あの五種族の長共ならば、この程度は片腕で対処するぞ」


 あいつ等そんな強かったんだ……

 そりゃ俺じゃ勝てないわ。

 ていうか、マナこんなに強かったんだ。


「ただ、結界は強力な分、根と同時には使えぬ。

 それだけが儂の欠点じゃな……」


 そう、反省までし始める始末。


 そして、コメントが死ぬ程煩い。



 :幼女最強。

 :儂って……かわいいかよ。

 :のじゃろりは正義。

 :これは大番狂わせだな。

 :ていうか、お前の異能強すぎじゃねぇ。

 :ガチャ強者来た。



 何言ってるか分かんないけど、怖い。

 てか、キモイ。


 ライバーは、ランダムで一つの技能を獲得した状態で始まる。

 その強さによって、スタートダッシュが変わる。

 けど、俺にそんな物は無い。

 多分、ギフトがあるからなんだろう。


 まぁ関係ない。


「それでアタルよ」


 マナにはコメントは見えてない。

 自分が色々と好き勝手言われている事も知らず、マナは俺に近寄って来る。


 手が届きそうな距離まで寄って。

 俺の目をジッと見る。


「どうした?」


「褒めてくれ」


「え?」


 そう口にする俺の手を、マナは取る。

 そして……


「こうじゃ」


 と、自分の頭の上に手を置いた。

 なるほど。


 俺は、マナを撫でながら言った。


「助かった。ありがとう」


「うむ!」



 :マナ様のファンになりました。代わりにアタルのアンチになります。

 :がわいい……

 :ギリ女神かな。

 :幼女とライバーの人気が天と地。

 :これは推せる。

 :なんでお前にしか投げ銭できないんだ……【1000】

 :マナさんに上げます。【1100】

 :えら幼女。【300】



 なんか、技能値が沢山貰えてる。

 マナのお陰?


 つまり、マナを使って稼げばいい訳か。


「マナ、良かったらもう少し付き合ってくれないか?」


「良いぞ。どうせ、其方に召喚されるまでは暇なのじゃ。

 儂が自由に現界できるのは、其方の元だけなのじゃから」


 そういやそうなのか。

 樹は既に枯れた。

 マナは俺の杖を媒介に召喚されている。

 でも、この杖は昔の、まだ神樹と繋がっている枝だ。

 だから、マナは出てこれる。


 けど、あの異世界ではマナが植えた枝が芽吹くまで。

 もしかしたら、大樹に成長するまで出て来れないのかもしれない。


「もっと、沢山呼んでも良いのじゃぞ?

 其方の世は、飯も美味く居心地も良い。

 何より、其方が居る。

 儂が出て来る理由は、それで十分なのじゃ」


 マナを使って稼ぐ。

 そう、さっきまで考えてた俺だけど。

 ちょっと無理だな。

 ていうか、純粋な子供を見ると、邪推ってのは消える物だ。


「はぁ、ちょっと配信について話すか」


「はいしん……?」


「あぁ、説明させてくれ」


 俺とマナはその場に腰を下ろし、少しの間だけ話す事にした。



 :充君、ちょっと好感度上がったかも。

 :まぁ、誠意があるのは良い事ではある。

 :マナの状況分かんないけど、結構鬱設定なのかな。



 そんなコメントが流れている。

 最初に比べて、それは余り、不快に感じなかった。

 その理由は、分からない。

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