第30話 再会、母よ

「か、母さん……」


「久しぶりね、セント。全然連絡くれないから、心配で来ちゃった」


「な、なんで……」


 ぎゅっと、母さんが抱きついてくる。

 ここは公園、人の目もあるっつーのに。


「なんだか立派になったじゃなーい! さすが私の息子ね♡」


 仮面を取るまではクールだったのに、本性現しやがった。

 何度もキスをしてこようとするが、強引に離れて回避する。

 そう、この人は、親バカなのだ。極端な。


「実家の牧場はどうしたんだよ!」


「ツルピカおじさんに任せてきちゃった。ほら、私のパパの弟の」


「ていうか、なんで監視してたわけ? 心配だからって来んなよ!!」


「息子があの人の果たせなかった迷宮攻略に挑むんですもの。遠くから、様子を伺ってみたかったの」


「仮面の意味は?」


「ビックリさせたくて♡」


 キャハ! なんて年柄にもないぶりっ子アピールをしやがる。

 うざい。うざったい!!


「で、セント、誰がそうなの?」


「なにが?」


「あの女の子たち、誰がセントの彼女なの?」


「は?」


「サウムちゃんは恋人自称してるけど、所詮は自称。スーノちゃんは……男ってことになってるけど女の子よね? お淑やかでいい子そうじゃない。それとも、なんだかんだ一番頼りにしてるウェスタちゃんかしら?」


「誰でもねーけど」


「ウェスタちゃんが本命と見た!」


「うっさいなー」


 あいつらはパーティーメンバーで、恋人候補なんかじゃない。

 ドリングス迷宮を攻略したらそのままバイバイするつもりだ。

 ったく、だいたい、息子の恋愛事情に絡んでくるなよ鬱陶しい。


 母さんにはいろいろ感謝しているが、正直俺は、この人が苦手だ。


「私、しばらくパーティーに入るから」


「え!?」


「いいじゃない別に。私、強いんだから」


 そりゃあ、母さんは強い。

 若い頃は俺の父さんと共にいろんなクエストに挑み、ギルドマスターになったほどだ。

 ムテキムテキムテキングスライムを倒したのがその証拠。

 しかし、嫌すぎる。親がパーティーメンバーなんて気持ち悪すぎる。


「嫌だ。帰れ」


「無理。帰らない」


「帰れ!!」


「やーよ。そんなに言うんだったら、私もあの子たちに話しちゃおっかな」


「なにを?」


「セントが何歳までオムツしてたのか」


 こ、こ、こいつ!!


「あはっ☆ それと私、女の子たちのいろんな秘密も知ってるのよ。調べたから。だから協力できると思うわ」


 あーもう!!

 こんなんだったらアップちゃんの方がマシだった!!


ーー


 次の日。


「今後受けるクエストだけど……」


 普段通り、酒場に女の子たちを集める。

 唯一いつもと違う点があるとすれば、母さんがいることだ。


「やーん♡ セントってばすっかりリーダーね。お母さん嬉しいわー」


 母さんが頭を撫でてくる。

 振り払って女の子たちを見やると、みんなポカーンとしていた。


「この人がセントの……」


「お母さん、ですか……」


 ハッと、サウムが立ち上がった。


「自己紹介が送れましたわ!! わたくしはサウム、サキュバスですわお母様!!」


「お母様?」


「セント様お母さんなら、わたくしの義母になるので!」


「なるほどー」


 スーノが顔を真っ赤にする。


「そ、そうですね……。も、もしかしたら私の義母さんになるかも!」


「あら? スーノさんのお母様にはならないのではなくて?」


「それを言ったらサウムさんだって」


「なぜですの?」


「だってサウムさん、おとーー」


 本当に、こいつらは隙あらば……。


「うおおおおおおおお!!!!」


「どうしたんですかセントさん?」


「わからん、叫びたくなった」


 正直、スーノとサウムが互いを男だと思ってる件はさして問題ではないけど、この場で明かされるのはダメな気がする。とても。


 母さんが微笑んだ。


「んー、二人とも可愛いけどー。私的には、ウェスタちゃんが義理の娘になりそうなのよねー」


「「「え!?」」」


 スーノとサウムがウェスタを睨む。

 ウェスタにしたって、いきなり名前を呼ばれて驚いてる様子だ。


「まあでも、セントが選んだ子なら誰でもいいわ。ねーセント」


 俺の頭を撫でてきた。

 この光景、まるで俺がマザコンみたいじゃないか。クソ恥ずかしい。


 くそっ、早く家に帰ってくれよ!

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