第2話 パーティー結成!
「ダ、ダークエルフ?」
スーノの顔を眺める。
ダークエルフ特有の褐色の肌ではない。エルフのような白い肌だ。
「本当に?」
「正確にはエルフとの混血ですけど……」
そうか、だから白魔法が使えるのか。
エルフは昔から白魔法が得意だと相場が決まっている。
逆にダークエルフは黒魔法が得意で、さっき言ってた「いずれ黒魔法も習得する」というのは、混血のこの子なら不可能ではないわけだ。
しかし……。
「ダークエルフ、嫌いですか?」
瞳をうるうるさせながら、上目遣いで訪ねてくる。
子犬のような可愛さに、俺の本音がぐっと脳の片隅へ押し込められた。
「い、いや嫌いじゃないよ」
問題なのは俺の好き嫌いじゃない。
俺じゃないんだ。
「よかった〜。もうひとりのお仲間さんにも教えて大丈夫ですか?」
「あ〜、えっと〜」
どうなのだろうか。
確かにウェスタはダークエルフ撃滅クエストに参加していた。
十中八九ダークエルフを快く思っていないだろう。
しかし、上手く説得すれば納得してくれるんじゃないだろうか。
スーノは良い子っぽいし、大目に見てくれるかもしれない。
「大丈夫だと思うよ」
「安心しました。ダークエルフ嫌いの人間、多いですから。でも、悪いのは人間側なんですよ! 遥か昔、人間がダークエルフを迫害し、森に追いやったんです。食べるものがロクにない森。なら人間から奪うしかないじゃないですか!! 悪いことだとわかってますけど、でも!!」
「あ、うん」
あ〜、どんな思想を持とうが自由だけど、これはまずいな。
「それなのに人間は、私たちだけに罪をなすりつけて、仲間たちを大勢殺して……。だいたい、私たちは森に迷い込んだ人を食べたりなんてしてません!! 襲いかかってきたから返り討ちにしたのが、尾ひれがついて伝わっただけなんです!!」
「そうだったんだ」
「あ、で、でも、セントさんは嫌いじゃないですよ? 優しい人、ですから……」
「あ、あはは、ありがとう」
「撃滅クエストのとき、私は偶然、森の外にいました。きっとこれは、神の使命なのです。ドリングス迷宮を攻略して、願いを叶える玉でみんなを蘇らせる使命」
うーん、この子。熱が入ると言葉が止まらなくなるタイプか……。
あんまり得意じゃないな……。
「ち、ちなみにさ、撃滅クエストに参加した人間を見つけたら、どうする?」
スーノの瞳に闇が宿った。
「もちろん、仇を討ちます。たとえ差し違えてでも、必ずこの手で……」
「へ、へえ」
まずいまずいまずい。
増々ウェスタに会わせられないよこの子。
やっぱり仲間になるの断ろうか? いやいや、それでもやっぱりヒーラーは欲しい!
ていうか、さんざん苦労したであろうスーノを放っておくのは、忍びない。
「私、がんばります。助けてもらった恩を返すために。精いっぱいがんばります!!」
「……」
「セントさん?」
「う、ううん。よろしく」
こうして、ダークエルフのスーノがパーティーに加わった。
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その日の夜、俺は借りている宿で頭を抱えていた。
ギルドのランクを上げるには、どうしても難しいクエストをこなすしかない。
現在俺はDランク。そこからC、B、Aを超えた先に、ギルドマスターに昇格できるのだ。
ドリングス迷宮はギルドマスターしか受けられない。
先が長過ぎる。
となるとどうしても、三人で協力してやっていくしかない。
俺とウェスタだけでは、ダメージを負ったとき癒やす手段がない。
俺とスーノだけでは、いまいち戦力に欠ける。
それに、毎回違う女の子と二人っきりでクエストを受けるなんて、よくない噂を生むに決まっている。
ていうか、あの二人のどっちかにバレたら絶対に怒られる。
「あ〜くそ! めんどくせー」
スーノの話が本当ならば、ダークエルフにも事情があって悪さをしていたことになる。それをウェスタに上手いこと説明すれば……いや、そもそもウェスタが信じる保証がないし、彼女が撃滅クエストに参加していた事実は消せない。
どうあがいてもスーノはウェスタを仇として見てしまうだろう。
そこは上手いこと俺が間に入ってわだかまりを解消すればいいのか? そんな都合よくいくものかよ。
だいたいなんだよさっきから上手いこと上手いことって、肝心な部分は未来の俺に丸投げかよ。
「洗脳魔法でも使えたら、楽なのに」
待てよ? シンプルに隠し通せばいいだけじゃないか。
互いに黙ってもらおう。幸運にも、スーノは外見だけならただのエルフだと誤魔化せる。
よし、がんばれ俺。このパーティーを存続させるためにめちゃくちゃ気を遣うんだ!!
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「てなわけで、この子がスーノ」
翌日、ギルドの酒場でウェスタとスーノの顔合わせをした。
クエストの受注はここで行われる。そのせいか、強面で屈強な男たちが店中に溢れていた。
「よろしくね、スーノ」
「はい、ウェスタさん」
ささっと、ウェスタに耳打ちをする。
「さっき話したけど」
「わかってる、ダークエルフ恐怖症なんでしょ? 話題に出すのもアウト」
「そうそう」
続いてスーノに耳打ち。
「忘れてない?」
「エルフ、ってことにしておくんですよね? ウェスタさん、ダークエルフ恐怖症だから。話題に出してもダメ」
「そうそう」
「不服ですけど、人間恐怖症のダークエルフもいましたからね。しょうがないです。それに……セントさんの頼みですから」
やや頬を赤らめながら、スーノが微笑んだ。
よしよし、事前に嘘を吹き込んでおいてよかった。
これでウェスタが撃滅クエストに参加したことも、スーノがダークエルフだとバレることもないだろう。
「でセント、なにを受けたいのよ」
「そうだな……」
掲示板に貼ってあるたくさんの依頼票を眺める。
そのなかにある一枚を指さした。
「手始めにこれ、やろうか」
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