第18話
魔術のアナウンスからの具体的な依頼内容を知ることはできるのか。
できた。
「私はここで!何をすればいいんです!」
〈この店舗の売り上げを、昨年対比よりも大幅に上昇〉
「え?!」
答えてくれる?!でも確か、昨年対比、って。
「去年より、去年の売り上げより、今年の売り上げを上げて、そんなこと、どうして頼まれるの?」
去年の売り上げを超えるのは難しいですよ
店主がやっと、警戒心を解いてくれた。明確な私への指令、お店への利益の対応に自信を持って真摯に向き合おうと思ったのだろう。
他の店員も納得して雲の晴れたような、それでいて他に考えも及ばなくて何も考えられないという顔をしている。
「このお店の他に鞄屋さんは?」
ありません。当店だけが、街、王国に誇る老舗の店だと自負しております。
王国なんだー。なら粗悪品も作れないし安っぽいものも。
・・・・・・。
「店長」
店長かわからないが聞いてみた。はい、とやはり男性が答える。合っていた。
「去年の売り上げを超えるのは難しい、のはなぜです」
それは、さるお方たち。主に高貴な方が当店の商品を気に入ってくださり、
ご愛顧いただきましたと、と。要するにブームが来たわけだ。
「新しいデザイン、型への挑戦や努力は、」
もちろんしました
周りの並んだ数個の商品を見れば分かる。
上質なものを、より高貴で、特別な方に。
ならば、方法は1つ。
「みんなが持てる便利な鞄を作りましょう。鞄の中に鞄がはいる。薄い生地だけど紙袋よりはマシな利便性と、強調性のある、みんながこぞって使う鞄です!ゴミも出ない!紙袋もたまらない!たくさん売れれば数打てば当たる!」
「買ったものをとにかく楽に運ぶためだけの折りたたみ式バッグ、エコバッグです!」
私はエコバッグの説明を、鞄を作るときに使うパターン用の紙で説明した。
両側に取っ手がついていてそこは輪っか。手を入れて腕にかけて運べます。更に!薄い生地ですので折ったり丸めたりして、また別の小さい袋、鞄に収納できるのです。
どうだ。これぞまさに、この街の人に必要な便利グッズ!しかし。3人は。
それを、どうやって持ち運ぶのです。
どうやって持ち運ぶ、か?
「鞄だから、手に持って、あ!」
思えばあれは、鞄に付けられるようフックがついていたりする。それなら最初から鞄というか、手提げを。・・・・・・手提げ?
「店長。」
なんでしょう。
「皮以外の生地でこの腕の通せる、手に下げる鞄を作るのは、嫌ですか?」
それも大量に。色違いやデザインを変えて。
嫌、ではありませんが。
店長が考え込む。もう一押し。
「この街の人、子供はどうやって勉強道具や仕事道具を運んでます?それにこの、新しい鞄、仕切り、という、中を分ける区切りやポケットで、小さいものを内側で守れるんですよ。すぐ見つかるし」
更には。
「みんな同じものを持っていれば、」
つまらないですね。
「え?!」
自身で考えた、限られた方々のために、それ相応のお値段で、お客様に見合ったものを提供してきました。これでは、差別するわけではありませんが、大量に作ることも疑問に思います。
職人とは、頑固で、一途で、真摯で、自分の仕事と作品に命懸けであった。私に、提供できる知恵や知識はもう。
「帰ります」
警告は、ならなかった。ただ
〈問題解決へのご尽力、感謝します〉
という労いの言葉。しかし。
せっかくだ。魔術で万引きが防げるなら。
「貸し出しはどうです?」
図書館や図書室。またはブランドバッグの貸し出しサービス。
「魔術で契約をして、品物を特別な日にだけ、誰にでも貸してあげるんです。オペラの観劇や、夜会、デートの日に」
3人は何を言っているんだ、という顔をする。
たいさつな商品を?
「でも売れなければ使ってもらえないし、ここは綺麗だけれど、埃は積もるし、時代も変わって新しい鞄の型も注目を浴びます」
3人には失礼な話だろう。もう一つ付け足しといた。
「貸し出しの金額はみんな一律。一緒です。差別なし。傷がついて返ってきた時だけ、追加料金を貰い、その商品は、別に傷がついていたっていい、という人に貸す。または破格の値段で売る」
中古屋さんみたいなことも自店でまかなえるというわけで。
それだけ言ってから店から出る。いわゆるレンタルだ。ホームセンターだって大きいコンテナや木材、家具を買ったら軽トラックを貸し出してくれるし。
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