第10話

 結局メイドさんにはマスクの代わりに布で口を覆い、花粉用メガネをかけましょう、と言った。埃が身に入らなければいいのでは、と。 


花粉用メガネ?


そこかー、今回は。


どんなメガネなの?かふんとはどういうもの?


 おかしい。ペストマスクが知られていて、花の受粉や花粉が知られていない?それともカフンヨウメガネという響きがだめで、花粉自体は発見されている?もう5時かもしれない。

「眼鏡屋さんはあるんですね?」


もちろん、旦那様もモノクルをおつかいよ。すこし風変わりだけれど。


「なら、目や鼻に埃が入らないような、ゴーグルのようなメガネを作ってもらうのです!」

今回はそれでいいじゃないか。


変だし、高そうだわ。それこそみんなに笑われる。でももう、ハンカチで拭うのを笑わられるのも拭くのも限界ッ


悩みが戻ってきてしまった。

「あとはもう、正直に奥様や皆に相談するか、配置換えでは」


そんなことっ、配置換え?


女性が目を丸くする。

「庭師さんと仲がいいなら、温室やハーブ園、花壇のお手入れ、は。メイドさんの仕事ではないですね、そもそも温室とハーブ園があるかどうかも」


あるわ


あるんだ。でもそうなると花粉、は大丈夫なのかな、庭師さんとなら普通に話してるらしいし、埃、ハウスダストから遠ざかればいい。この夢、はやく醒めないかな。眠くなってきた。眠くなってきた?

人の悩み相談中とはいえ、夢で。


奥様と、相談してみるわ。そんな身分ではないけれど、あの人と一緒になるなら夫婦で庭園を見てもおかしくない、のかもしれない!


女性の、顔色が晴れてきた。ついでに外も明るい。たぶん。そういうことですか。

「あの、それで本のことは」

これで勘弁してくれないかな。


ああ


女性が忘れていた、というふうに答える。


もういいわ。ロマンス小説をみられるなんて、と思っていたけれど。


 不意に、アパートのカップルを思い出す。

あの2人もマスクすればいい。


もう一ついいかしら


「何でしょう」


読んでいる本を何とか秘密にしたいの、それから、内容が似通っていて、どれも最後まで読むんだけれどしっくりこないわ


元々は快活な、気立ての良い女性なのだろう。

もう、夢だ。好きに言おう。


「紙はありますか?大きめの」


ないわね


「ブックカバーをつけてください。布で作ってもいいです。」

マスクと同じですね。


ぶっくかばー


なぜbookにcoverなの?


何でそこだけ急に発音が違ってくるの。不思議な夢だ。ブックカバーの様子を伝える。


 本よりもちょっと長めの、この本だと、これくらいですね、わかりづらい?そこのシーツで教えます。まず内側、本の表紙をめくって半分くらい隠すというか、表紙にひっかかればいいです。外れなければいい、表紙から。つぎに本を巻くようにぐるっと一周、そして裏表紙からの内側の真ん中まで届くような布、紙を用意して。折る。背表紙に合わせてまた折る。引っ掛けて「コ」の形にします。字の形はいいか。とりあえず今のベッドのシーツで実践した通り。ああ、この赤い本を挟めばわかりやすいですね。布の場合は折った部分を縫うと外れにくいです。でも余裕を持たせて生地を当てがわないと、本が包めなかったり、布のカバーから本が外せなくなります。長さに余裕を持たせてください。

頑張って説明したのに。


それだと、


鞄に入れて持ち運んだほうが安心だわ。

手癖の悪い人も本の入ったカバンを盗んでもガッカリするでしょう


なにも言えなかった。


そろそろ帰れるだろう。扉の方へしずかに向かう。


待って!


おもしろい本と出会うには?その、ロマンスの


 そればっかりは。


「男同士、女同士の友達でも恋人でもあるような、愛と悲しみの日々とかどうです?最後はどちらかが死んでしまうかも」


そんな、そんな!

そんな物語は、この世にあっていいはずが

ああ、でも!


確信した。帰れる。今なら夢から醒められる。

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