第7話
アパートのドアを開けたらそこは、別の部屋でした。
今すぐドアを閉めよう!!
人の家だ!これこそ夢。私のアパートから見える景色ごと消えてどなたかのお部屋につながるなんてあってはならない!
私が外に出られないじゃないか!
今日は朝8時半には。しょ、しょくばに、行かなくては。
そこは私の部屋のフローリングよりベッコウ飴色をした少し傷のある床に、メイド服(メイド服!)がハンガーに掛けられて壁のフックに吊るされた
女の人が一人泣いている部屋。
(ひとがいるじゃない!)
夢だというのに動揺する。あの、夜食を摂る前の弱気な自分はどこへやら、と思ったところで。
お腹がしっかり満たされて余裕ができている自分を思う。
自分は自分をいたわれたんだ。そっとドアを閉じる、とその時。
さめざめと、あるいは号泣と、しくしく、嗚咽を繰り返していた大人しそうな女性が。
持っていた立派な本をこちらにばーんっ!!と投げつけてきた。悲鳴を上げた。私が。
立派な赤い本に金の英字が、彫られるように刻まれた、情熱的で、可愛らしい本だったが。
いまので隅の布地が痛んで繊維がボソボソと毛糸のように、毛羽立ってしまった。こちらは鉄製のドアなのだ、こんな、どこか古い本傷つけてしまうに決まっている。
女性は私を見ても何も言わなかった。口を少し開いて、白い、なんだかシーツを加工して作ったような、でも清潔な。
表現が難しい。やっぱりワンピース風で昔の上品なパジャマ。それでもやはり薄地で寒そうだ。そういえば、前の夢は暖かい日の空だった。ドアを閉めようとする、
待って!
待てませんが、聞きます。
本の弁償をして。
「できません」ここにきてそれ?部屋にいきなり闖入者が現れ、ドアを閉めて逃げようとし、そこにたまたまぶん投げられた本が、アパートのドアに当たり傷付き、どういう状況なんだ。出来れば弁償してあげたいが、貴女が投げたのだ。
どうして誰も来ないの?
あんなに大きな音がしたのに。
来られては困る。なぜなら前と同じ。気づいたら、やはり背後の部屋が消失している。
ほんとに消えた!失った!と泣きたいのは私の方だ。背後というか今、私に残っているのは鉄製のドアと自分自身のみ。そして目の前は女性のいる部屋と、洋式でホテルのように同じようなドアの並んだ廊下。それもとても暗い。でも今にも電気がついて人々がなんだなんだと出てこられても困るのだ。
帰りたい!アパートに!
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