カミノキ

村青 雨京

第1話 カミノキ

カミノキ                     村青 雨京

 

 明るい太陽の日差しの元、心地よい風が眼下から吹きあげ、高い監視デッキから白い高い壁が左右に広がっている。その白い壁の上部には鉄柱がずらっと並んでおり、そこには高圧電流を流した鉄線がはりめぐられている。正面を見下ろすと、雑草や木々で荒れ果てたジャングルが続いた後高くなり丘となり山となる。十年前は小さな過疎化の村だったのだが、その面影はほとんどない。

 

 あなたにこの話を伝えるのは神木です。

 神木という姓名の人間ではなく神木(しんぼく)なのです。と言っても、まあ、所詮単なる植物の木です。

 過疎化の村の丘の部分に朽ちた神社があります。私はそこで生まれました。今年で626歳になりますが、この町の「郷土の歴史」という冊子には樹齢400年と書かれてしまっているが、それは嘘です。

ただ、それが事実かそうでないかは誰も気にしていないのです。

理由は、私は、有名な神社のシンボリックな木ではないからです。

私の種類やボディサイズを紹介しよう。

私の身体はクスの木でできている。樹高は26・2メートルで2本に分かれている。二本は同じ高さだ。ただ胴回りは違う、大きい方の一本は9メートルに対し、小さい方は6・2メートルある。

この地域では一番の大木で、周りは同じような木はなく、神社が丘の上にあるので、とても目立つ木ではある。

私が対して有名にならなかった理由は、神社の格のせいかもしれな

今、根をおろしている神社は、八幡宮の中の末社中の末社で神主さえ

もいない様な所なのだ。ただ、地元のみなさんが、昔から私の事は、社殿には使わないことを決めていて切り倒されずにすんできた。

私は神木なので、「あなた」は私の事を神のように神々しい嘘偽りがない心根を持っていると思っているのかも知れないが、実際の所、人間より長く生きているだけである。

ただ、興味を持つ人や植物等の心が分かる。 そこだけが人間と違う所なのです。あとは多少歴史が分かるだけで、そこまでの特別な神格を持っているわけではないのです。

繰り返しますが、私は単なる年老いた木でしかない。そして私の自己紹介はこんなものでしかない。

 

今から、ここで起きた事を話していくから聞いて欲しい。

とにかく、ここはもう神社ではないのだ。最終刑務所と呼ばれる場所に成り下がってしまった。

轟啓二(とどろきけいじ)は、左手に持ったライフルの銃身を眺めながら、ゆっくりとタバコをふかしていた。吸い終わると火のついたままのタバコを遠慮なく監視台から前方に投げ捨てゆっくりとライフルを構えた。

彼の鋭い目は荒地の中の「何か」を探している。そして、遥か遠くにかすかに動く「物体」を見つけると、容赦なくライフルを連射していた。彼はこの刑務所の所長である。

 刑務所長がライフルを連射しているというのに、後ろに部下の刑務官の坂上と太野の二人は、まるで何も起こってないような表情で黙って立っているが、これは珍しいことではない。二人のルーティンワークなのだ。

ここで生きていく為には、刑務所長である絶対権力者である轟に媚びるしかないのだ。轟にとっては二匹の犬なのである。そして、この雑魚二匹は轟に服従するのに喜びを感じている。

轟は、あえて二人に関心がないように装い「人間ハンティング」を楽しむ、弾丸を連射し乾いた銃声が響いた。

          

 獲物に逃げられて「くそっ」と不機嫌に大きくつぶやくと、坂上と太野はすぐさま下を向き目線が合うのを避けた。轟から、とばっちりを受けるのが恐いのだ。あまりにもわざとらしい目線のそらし方、そんな演技を見て轟は微笑む。

このようなことが、私のいる神社の反対で毎日行われていた。

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