魔王召喚

べるがりおん

魔王来臨

 我は魔王である。


 強大な魔力と強靭な肉体を有し、様々な知識経験を得、長ずるに応じて数々の王候補を退け魔国の統治者となった我は、国を栄えさせるため内政に力を入れると共に、外交・武力・経済など剛柔の力を使い分けつつ周辺の国々を傘下に入れ続けていた。

 今現在もその方針の下で勢力の拡大に努めており、ちょうどとある王国の半ばを制圧下に置いたところである。相手方の残存勢力は抵抗を続けているが不幸にも(我が勢力には幸いではあるが)結果が伴うこと無く消耗のみを続ける有り様であり、あと1ヶ月も満たずに全てが我が国の手中に納まるであろうことは確実視されていた。


 さて、何故に我がこんな事を述懐しているのかと思われる読者諸賢もいるだろうが、端的に言えば我が思考の混乱が故である。混乱せざるを得ない現状、それは我が身体の一部が、というか首から上が他の部位とは別の場所に存在している現状にあった。想像してみて欲しい。戦いの結果として敗れたとか暗殺されて断たれたという訳では全くなく、なんか知らんうちに気付けば首から上だけが見知らぬ部屋に来ていたとしたら混乱もするであろう?

 首から下は先刻同様、玉座に座っているのを感じられるというのが乱れた思考に拍車をかけていたりもする。ぶっちゃけて言えば、訳が判らん状況下にいるのだ、この我が!


 ──取り敢えず深呼吸(…何故か出来た)を何度か繰り返したり、素数を数えたりするなどしていったん心を落ち着かせることに成功したので色々試してみる。

 まず、頭部を下へと抜こうとしてみた⇒失敗。念のため言っておくが我の頭がでかいからという訳ではないからな! 平均的! 平均的なサイズだから! あと、角とか生えてないし、ごっつい装飾品を付けている訳でもない。

 さて、今度は逆に身体をこちらへ這い上がらせてみる⇒失敗。いやまあ何となしには無理そうだなとは思ったよ? 首の周囲の隙間が指2本分くらいしか無いからさ。でも、もしもってことがあるじゃん。チャレンジ精神は大事だから。


 取り敢えず2つの試みが不調に終わった。仮にこの身が猫であったなら抜けていたのだろうか? などと少し途方にくれかかったが、気を取り直して転移や身体強化の術を使ってみる⇒失敗。強力な阻害魔術がこの部屋に掛けられているらしく上手く働かない。攻撃魔術も同様であった。召喚術は使えたがある程度以上のものは許可登録されているものしか呼び出せないようにしてあるらしく、それらで現状を変えるには力不足が否めない。全力を出せば破れそうではあるが、こちらもどのくらいの消耗を受けるか分からぬし、仮に実行した場合に何かトラップとか仕掛けられてそう感があるので、次善の手とすべきであろう。何か手詰まり感がハンパないなあ。試行錯誤してみるが埒が明かない……穴だけに。


 さて、仕方ない。恥ずかしさも手伝って今まで実行していなかった、【首から下の方で臣下を呼んで色々試してみる】という手段を使ってみるかと決意した我が玉座の側面にある呼び出しボタンを押そうとしたところ、顔の方の部屋へ入ってくる足音が聞こえてきたのでいったん手を離した。


───そこには私にとって【運命】と呼ばれるものが待っていたのである。

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