異世界ツーリング旅
上村 有
プロローグ
2021年大学生活も残り少ない。ぼっちである生田晴はバイクのメーカーに就職することが決まり、後は大学卒業を控えるのみとなった今、兼ねてより計画していたバイクで日本一周の準備を始めた。
「はぁ、まったく何でこんな寒いんだよ」
大学生活最後の思い出にと旅に必要そうな道具を買いに、寒いのを我慢して外出する。少しずつ、テントや寝袋は前から準備していたが、細々とした道具がまだ足りなかった。仕方なく滅多に降らない雪がパラついている外へ出る事にした。ニュースでは大寒波が日本列島に直撃していると報道されており、各地では大雪などに見舞われているらしい。そう考えるとパラつくくらいなら、かなりマシなのだろう。そんな事を考えながら、ガソリン代の節約の為、歩いて買い物に行く。
そんな買い物の帰り道、たまたま公園からボールを追いかけ、道路に飛び出して来る男の子を見つけてしまった。そしてお約束かの如く男の子に向かって突っ込んでくる車も。思わず飛び出して男の子を歩道側に突き飛ばしたまでは良かったが、車は止まることなくそのまま吹き飛ばされ、気がつけば自分の体を上から見下ろしていた。突き飛ばされた男の子は大声をあげて泣いていたが、かすり傷で済んだようだ。
「無事でよかった、これで男の子も死んでたら俺無駄死になる所だったな」
正直なところ死んだって自覚はある。この後何処に行けばいいかも、何となく光る糸みたいなのに着いて行けば輪廻の輪にもどることも。友達も恋人もいなかった大学生活だったけど、楽しくはあった。愛車のハーレーダビットソンも中古で買ってあちこちいじっては試運転したりもした。心残りとしてはあまり親孝行が出来なかった事と、兄と慕ってくる近所の女の子のことが心配ではある。
「はぁ、いつまでもここでこうしてる訳にもいかんし、そろそろこの光ってる糸みたいなのに着いて行くか」
と移動しようとした瞬間、何か強い力に引っ張られた。
『はいはーい、君はこっちだから』
その声は幼い少女のような声だった。何も抵抗出来ないまま、何処かへと連れ去られ、気付けば一面真っ白な世界に立たされていた。辺りを見回しても、周囲には人影もなく声の主もいない。
「どうなってんだ? さっきの声といいこの空間といい」
『ハロー、聞こえてますかー? 聞こえてたら大きな声で返事して下さーい』
何処からともなく先程と同じ少女の元気な声が聞こえて来る。相変わらず周囲の景色は変わらず、少女の姿も見えない。
『聞こえてますかー? もしもーし無視しないでー』
これはあれだろうか、最近流行りの異世界転生というやつなのだろうか。にしても神様みたいな爺さんもいないし、女神様みたいな美女もいない。などと考えていると何処からか啜り泣く声が聞こえてきたので、仕方なく少女の声に応えると、一瞬嬉しそうな雰囲気を放ちながら、慌てて怒ってますと言いたげな口調で抗議された。
『何で無視なんてするの、無視ほど酷いイジメはないんだよ、わかってるの? 』
「考え事してて気づかなかったんだ、悪かったよ」
『あ、そうなの? 次からは気をつけてね、無視されるの地味に心に来るものがあるんだから』
こいつ意外とちょろいんだなと感じた瞬間だった。
「それで、ここは何処でお前は何なんだ?」
『私は女神クレアティオ様よ。 ここは私の神界で貴方に興味が湧いて輪廻の輪に行く前に引っ張ってきたの。」
自称女神のクレアティオさんはそこはかとなく残念さが滲み出ている。これはあれだ、興味が湧いたっていうのも下らない理由な気がする。
「あー、自称女神さん? 興味が湧いたってなにに?」
『そんなの異世界転生物のテンプレで死ぬとか、キタコレって思ったのよ。』
自称女神はオタク文化に身を侵されていらっしゃるようだ。そして、案の定下らない理由だった。何だろうこれが俗にいう駄女神というやつなのだろうか。
『きっと貴方を私の世界に放り込めば、いい感じに面白おかしい物語が出来ると思うのよ。』
駄女神クレアティオさんは俺の視線には気付かないらしい。哀れみの視線を向けられていることに。
『勿論貴方を転生させるんだから特別な力も上げるわ。それで世界を面白おかしくして頂戴! 』
勝手に進んでいく話を他人事のように聞き流していると、何処からかピリついた空気が漂ってくる。
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