歌う姫~歌姫ではありません!歌が好きなだけの姫です♪~
天城らん
ドラゴンの涙編
1.小鳥の歌
『晴れた日は 小鳥と共に
青空の下 歌いましょう。
雨の日は 雨音に耳を澄ませ
あなたのために 歌いましょう。
歌は 希望の光
瞳には うつらなくとも
あなたの胸は 暖かくなるでしょう?
思い出して
はるか彼方に いたとしても
耳を澄ませば 聞こえる歌があるはず。
あなたを思う 歌声が……』
明るく澄んだ少女の歌声が、城のテラスに響いている。
声の主は、この国の王女アンジェリナ姫。
観客は、護衛騎士の青年が一人。
「アンジェリナ姫、今のは
金の肩章の付いた黒い詰襟の騎士服を折り目正しく着こなした青年が姫に話しかけた。
アルティライト国では珍しい黒髪に赤い瞳をし、正義感の強そうな精悍な顔立ちをしている。
彼の名はアレクサンダー・セント。
アンジェリナ姫付きの護衛騎士隊長だ。
「そうよ、アレク。
アンジェリナがアレクサンダーのことをいつもアレクと呼ぶので、ここでもそう呼ぶことにする。
アルティライト城の中でも一番日当たりよいテラスで歌い終わって、ご機嫌のアンジェリナがくるりと振り返る。
緩やかに巻かれた金髪が跳ね、あたりにまぶしい光を振り撒いた。
「はい。でも、姫はずいぶん元気に勢いよく歌っていましたけど、そういう内容の歌なんですか?」
歌にも
その様子を見て、アンジェリナは満足そうにくすくすと笑う。
彼女の空色の瞳がいたずらっぽく輝いた。
「さぁどうかしら。
歌の解釈は人によって違うからね。
私は私らしく歌ったけど、古の解釈ではたぶん恋歌だと思うわ」
「恋歌なんですか? そうは聞こえなかったなぁ……」
アレクは、言ってしまってからしまったと口を塞いだが、すでに遅かった。
アンジェリナが、頬を膨らませて怒っている。
「私に色気が足りないって言うの!?」
「決してそのようには……」
たじたじとなる護衛騎士のアレク。
「目がそう言ってる!」
「すみません……」
こんなときは、素直に謝るしかないことをアレクは前任の護衛騎士から教わっていた。
このやり取りだけ見ていると、アレクの方がアンジェリナ姫より年下にも見えるが、この国の王女アンジェリナ・アルティライトは十四歳、護衛騎士のアレクサンダー・セントは十七歳と姫より3つ年上だったりする。
半年前に護衛騎士隊長に就任したてのアレクは、歴代の隊長として最年少である。
そのせいか、姫のおもちゃにされているふしがあるのも事実だった。
「まぁ、正直でよろしい。アレクもさぁ古語の勉強したら? おもしろいよ」
「一応、有名な古詩なんかは解かるんですけど……話せるようになるまでは手がまわらないですね。それに、私は武人ですから……」
「それって、ずるいよぉ!」
もう、護衛騎士隊長に就任して半年たつのだ。
いつまでも、姫になめられてはいけない!
ぶーぶーと文句を言うアンジェリナに、アレクが反撃をした。
「ずるくないです! わたしは、
トゥール語と言うのは、ここアルティライト国と並ぶ大国トゥールの言葉で、一般教養としてアルティライトでも勉強される。
「会話するには、支障はないもん! それに共通語はアルティ語なんだからいいじゃないの!」
「いいわけないでしょ……外交に響きます。古語だけではなく外国語にも力を入れて下さい!」
アレクが目くじらを立てた。
彼が十七歳という若さで護衛騎士隊長を任されている理由は、騎士としての実績と教養から見れば周りも頷くところだった。
「アレクの意地悪。いーだっ!」
アンジェリナが舌をだして睨み返すと、すかさずアレクが姫を
「礼儀作法も減点です。淑女はそんなことしません」
護衛騎士隊長は姫と行動を共にすることが多いため、教育係的なこともしなければならず、アレクはそのことでいつも頭を悩ませていた。
「まぁ、言ってくれるじゃない! 自国の文化である古語を知らずに、他国の文化なんか理解できないわよ!」
「うっ…それは……」
「反論できないでしょー。ふふん♪」
勝ち誇った姫は、鼻歌交じりに歌い出した。
『隠れんぼしたよ
昨日のゴブリン。
早駆けしたよ
明日のドラゴン。
泣いたの、だあれ?
勝ったの、だあれ?
決まってるでしょ
今日の魔法使い!』
アルティライト国の誰でも知っている童謡だ。
(まったく、
「はぁ……」
護衛騎士隊長アレクサンダーは、昼下がりの暖かいテラスで、大きなため息を吐いた。
***
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