第5話 夜会話
場所「赤の城 晩餐会会場」
夕食の量は多すぎるほど用意されていた。
長いテーブルにこれでもかと並べられたそれらは、ざっと数えても百人分はあった。
お皿や器に盛られた食べ物は、全てが見知らぬものではなかったが、半分は知識にないものだった。
そのため、一つ一つ説明を受けなければならなかった。
「お兄様、この輪っかみたいな食べ物は何でしょうか」
「お祭りの出店に出てくる、ぐるぐるジャガイモみたいだな」
「ぐるぐるって」
十話子達は、全部を把握しきれなかったため、最終的には知っている食べ物ばかりに手をつける事になった。
夕食後は浴場へ案内されたが、お世話係と言われた者達が身体を洗おうとしたため、十話子達は苦労することになった。
「むほっ、郷に入れば郷に従えということわざががってだな! ああっ、やめたまえ君たちぃ!」
「キモいし、山田ぁ~」
「キモすぎてキャラがおかしいし~」
その世界の重要人物は、人に洗ってもらうのが当然のことだったらしいが、丁重に辞退。
後に山田が、「俺たちの世界の昔の貴族も同じようなことをしていたぞ」と言っていたが、十話子には本当かどうか分からなかった。
場所「赤の城 カガリの部屋」
夕食も振る舞われ、入浴を済ませたあと、クラスメイト達は一つの部屋に集まっていた。
部屋は一人一部屋用意されたが、それをその通り使おうという者はいなかった。
誰が言ったわけでもなく、自然と一つの部屋に集まることになった。
それは、カガリの部屋だった。
一人用の部屋といっても内部は充分な広さがあったため、十数人が集まっても窮屈ではなかった。
集まりのその中心となっているのはカガリで、たまにホノカが補佐する事になった。
そこで話し合ったのは、召喚時の情報のすりあわせ。
召喚後にあった事。
各自今まで、気になった事。
体調に異変がないか、など。
「とりあえずざっと気になることは話し合ったか」
「あとは、いろいろ分かったことを連絡するための時間を決めないといけませんね」
カガリは、邪神討伐への協力には慎重な姿勢だった。だが、現状では頼るところがないのを気にしていた。
十話子達は、この世界に身寄りがない。
だから、いざという時に頼れる相手が他にいないのだ。
それに、クラスメイトの一人が倒れたまま意識が戻らない事を気にしていた。
ネズという少女が、城の医務室に横たわったままだった。
十話子には予感があった。
これから先、何事もなくはいかないと。
「うまく説明できないけど、違和感みたいなのを感じたの。私達みたいな素性のわからない人間を、すぐに受け入れすぎじゃないかな」
だから十話子は、その違和感を説明していく。
「勇者だから良い人だって、盲目的に信じてるのかもしれないけど。あと、召喚後にすぐに人が来なかったんだよね。もしかしてどこかで、見張られてたのかな」
カガリはそれに「確かに気になる事だよな。気に止めておこう」と反応した。
「お兄様、やはり用心しておいた方がよさそうですわ。何も考えずに浮かれている山田さんはお気楽そうですけど」
「確かに、あれは早く目を覚まさせてやったほうがいい。俺でもこんな状況ならそう思うよ」
「知っているか! 異世界召喚ものには、チートスキルで無双するのが最近のはやりなんだ! これから山田TUEEEが始まるぞ!」
「はいはい、耳たこ~」
「何回目だし。聞き飽きた~」
ただ一人、事態の深刻さを飲み込めない雑学少年山田が憐れまれることで、異世界召喚一日目の話し合いに幕がおりた。
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