第15話 どうしても、昔の感覚が・・・

「そうですか。山上先生御自身も、正義君や吉村さんに言われたことを、形にしていきたいと思われていたわけですね」

 大宮氏の問いかけに、老保母は答えた。

「もちろん、そうです。ですが、どうしても、昔の子、それこそ、大宮さんが森川先生に呼ばれていたあの頃の子どもたち相手と同じような感じで、今の子らに向き合ってしまうのです。それは確かに、言動面にも表れていました。今の子らの様子を見ていて、どうしても、もっと厳しく言ってあげればいいのにと、若い保母さんや男性の児童指導員さんに対して、そんな思いが頭をもたげてしまって・・・」

「結局、元の木阿弥と言っては何ですけど、そんな感じで、今まで通りの言動に終始されてしまっていたってことですか?」

「はい。そこは大宮さんの御指摘の通りです。そこはやっぱり、年齢差というのがいい方向ではなく、悪い方向に出ていましたから」


「でも、母はあの2年間、今までにないほど、努力していたと思います。実の娘のひいき目かもしれませんけど、正義君と母が話しているのを度々聞くにつけ、それは痛感しました」

 ここで、山上保母の長女がその頃のことを述べた。

 これまでずっと沈黙気味だっただけに、場の雰囲気がいささか変わったようにも感じられる、そんな瞬間。彼女は、アールグレイの入ったティーポットを手に取って茶漉し越しにカップに注ぎ込み、その後砂糖とミルクを入れて一口飲んだ。

 再び、娘婿の正義氏が話し始める。


・・・ ・・・ ・・・・・・・

 

 確かに、妻の言う通りでして、あの2年間、義母は本当に努力していました。

 大槻園長先生からも再三、そのあたりの感覚についてはやんわりとですけど指摘はされていたようですし、それに加えて、というか、かねての山上先生の言動を見かねていた吉村先生から、かなりのダメ出しを頂いたことも再三あったようです。

 そんなときはたいてい、恵美ちゃんのいないところで、ぼくだけが呼ばれるともなくその場にいて、そこで、色々と愚痴とも何とも言えない話を聞きました。

 吉村先生はともかく、大槻先生の御意見と言いますか、御指摘は、確かにこれまでの感覚の抜けないベテラン保母のおばちゃんには、きつかったようです。

 大槻先生はかなりの激情家の方のようで、若い保母や男性職員に対して厳しく怒鳴りつけるようなことがあったようですけど、山上先生に対してだけは、それは一切なかったようです。もっとも、前園長の東先生とは何度か怒鳴り合いもされたようですし、津島町の頃に事務をされていた玉柏さんという方にも、一度、激情あらわにお怒りになったこともあるそうです。


 おばちゃん、もとい山上先生には手荒な言動をされたことは一度もない大槻先生でしたが、その分、内容面ではかなり厳しいこともおっしゃるようになったと聞いています。その内容というのは、ぼくが聞く限りでは、いつもこの一言に集約される内容でした。

 

 今の子どもたちに合わないことを、昔からこの地で行っているだけの理由で継続しているが、それは将来その子たちの糧となるとはお世辞にも言えない。


 なんだか「総括」みたいになりましたけど、これが、義母である山上敬子の当時のよつ葉園保母としての職務評価の最大公約数と言えるでしょうか。

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