黒田郡探偵事務所 第五章 裕美との出会い東京

KKモントレイユ

第1話 六峰鬼神会というところ 一

「ケタケタの呪い」

「え?」

正男まさお君、『ケタケタの呪い』って知ってる?」

美登里みどりが話しかけてくる。

「知らないよ」

「メールに宛先とか入れずに『ケタケタさんAさんを〇〇して』って書いて保存しておくの。すると次の日、そのメールが、宛先が空欄のまま、送信されてるんだって。送信済って。それを三日続けると、Aさんに『メールに書いた通りのこと』が起こるんだって……」

そんなの聞いたことがない。正男まさおは、その都市伝説を知らない。


 ここは六峰鬼神会りくほうきかみのかいの総本部会館。六階建てのビルで一階は入ってすぐホワイエのようになっている。いくつかのホールと会議室がある。全国に会館はたくさんあるが、ここが神会かみのかいの本部会館だった。

 ホワイエにあるイスで休んでいる正男まさおに、美登里みどりが話しかけてくる。


 六峰鬼神会りくほうきかみのかいに入って三年になる浅村正男あさむらまさお。関西の大学に通っている大学三年生だ。同じ大学に通っている小林美登里こばやしみどりと付き合い始めて二年になる。美登里はオカルト的なことが大好きで、心霊スポットにもたびたび付き合わされた。そして、こういうオカルト的な都市伝説が大好きでデートの時も、なぜか話がこういう話になる。


 正男は大学一年生の時、キャンパスを歩いていて、美登里に声を掛けられた。ボランティアをするサークルと言われて何をやっているか内容はわからなかったが、かわいらしい一つ年上の美登里にまいってしまった。

 そして、ついて行ったところが『六峰鬼神会りくほうきかみのかい』怪しすぎると思ったが美登里と、彼女の先輩で正男より三つ年上の太田明美おおたあけみという先輩に囲まれて『神会かみのかい』の話を聞かされた。明美は正男からすると美しい年上の女性で、こちらにもかれてしまった。

 一人の女性に声を掛けられて、ついて行くと複数人に囲まれて話を聞かされるというのは宗教の勧誘によくある話だが、二人の話を聞くと、どうやら宗教団体ではなさそうだった。熱心に活動している彼女たちの話を聞いているうちに入会してしまった。ちょっとした下心で失敗するタイプだった。つまり、『ダメな人』であった。


 お布施ふせだのなんだのと金銭的なことを要求されたら、すぐ辞めようと思ったが、三年間やってきて一度も金銭を要求されたことがない。『気持ちの問題』とか『お布施はしたくなったら自分の意志で……』みたいなことすらない。まったく、そういう要求をされない。

 そして、もう一つには『お経』を唱えるようなことを全くしない。神会かみのかいの会館はあるが、ご本尊様のようなものに会員が手を合わせるということもまったくない。

 ただ会館への入館料として月二千円ほど払わされる。お布施と同じと思われるかもしれないが、何か神様や仏様に払っているものという名目ではなく『入館料』そう言われれば、スポーツジムでもフィットネスクラブでも通えば月謝や年会費が取られるではないか……そんな風に思うと宗教的な側面をまったく感じないのだ。


 では何でここに人が集まってくるのか……社会への不満などが渦巻いている昨今。ここでは、会員の人が、そういう日々の悩み、些細な不満や愚痴を聞いてくれる。そのうえで、どういう風に気持ちやモチベーションを持って日々暮らしていけばいいのかアドバイスしてくれる。

 特に、ここの神会かみのかいの上層部の会員、先輩はいろいろな悩みを聞いてくれる。会社や家庭で誰も聞いてくれない自分の中にある悩みや不満を親身になって聞いてくれる。だから、日々やるせない毎日を過ごしているサラリーマンやOL、主婦や学生が離れられなくなるのだ。


 ホワイエで美登里と明美が話をしていた。正男が挨拶して通り過ぎようとすると、明美に声をかけられた。

「あ、正男君。登也とうやが探してたよ」

「え、安住あずみ先輩来てるんですか?」

「たぶん第一会議室にいると思う」


 安住登也あずみとうやは、若くして、この六峰鬼神会りくほうきかみのかいの代表を務めている。未だにこの組織の構成がどうなっているかはっきりわかってないが、安住は正男より三つ年上で明美の大学の同級生だという。それでこの組織の代表を務めている。イケメンで体育会系だった。


 正男が会議室に行くと数人の会員と安住登也あずみとうやがいた。

何か神妙な顔つきで話をしている。


「なんでも新幹線のホームで女性の首を絞めようとした女がいたんですって……」

「……ええ、物騒ですねえ」

女性が手で口を覆って言う。

「それを、ほら、ここの会館にも来ている高校生の高橋良太たかはしりょうた君。あの子が助けようと向かって行ったら、その女! 高橋君の首も絞めて、その場が騒然となったらしいわよ」

「あぶないわぁ。高橋君、正義感が強いのはいいけど、最近、危ないのがいるから気を付けないとぉ」

「高橋君大丈夫だったのかしら……」

「なんとか無事だったみたい……」


安住が正男に気が付いた。

「おお、浅村君」

「どうしたんです? なにかあったんですか?」

「ああ、今日の昼頃、京都駅の新幹線のホームで、うちの会員の高校生が、見ず知らずの女性に首を絞められて、ホームが騒然となったらしい」

「ええ、女性が?」

「ああ、まあ、最近、危険な人物はいるから、気を付けないといけない。みんなにも周知しようと思ってたところなんだ」

『そんなことがあったのか……』とおどろいた。


ところで、浅村君、

「君も町で『会』のビラを配ったり、積極的に活動してくれてるそうじゃないか」

「いえ、それほどでも……」

「いや、十分、十分……そんなことからだよ」

安住は正男の肩を叩いた。

「今度、一度、一緒に関東支部に行かないか。大学が休みの時でいいから」

「あ、喜んで」

「明美も行くから……小林も誘っとくよ」

「え?」

「美登里だよ。どうせ行くなら、一緒がいいだろう」

安住は兄貴肌で正男によくしてくれる。

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