第5話
「今日はカメラ持ってないん?」
いつもの並木通りは、活発だった緑を弱め、淡い黄色を示していた。
今日こそ言うんだ。
そう心に決め、カメラは鞄に閉じ込めている。落ち着かないのはそのカメラが見えないせいか、それとも。
そんな僕を、
君は僕のことをどう思っているんだろうか。側から見れば僕達のやっていることは、カップルと間違われてもいいのではないか。見た目は置いておいて、毎日のように2人で、駅までの短い距離ではあるけれど、並んで歩いて。
「あ、あのさ、僕、その、…」
彼女は変わらない愛嬌を向けてくる。僕の決意なんてまるで知らないのだろう。
君は僕のことを…
「おーい、
その一声は、僕の決意を吹き飛ばすには十分だった。
2人は肩を並べ、僕の少し前を歩き始めた。カップルのような2人の後ろをトボトボと、彼女との距離を踏み締めるように歩く。
彼女の靴は踵が擦り切れていて、長く履いている様がよく分かる。いつも並んで歩いていたから気付かなかった。いや、そもそも彼女のことなんて、僕は何も知らないのかも知れない。連絡先も、兄弟がいるのかも、何で僕と一緒に帰ってくれるのかも。
「
何やら盛り上がっていた2人が、突然こちらを振り返る。高跳び選手の彼は、連絡先の交換と言う壁を、僕の超えられなかったそれを軽々と軽々と超えてしまった。
「山田君も約束だよ!
冬休みが楽しみだなぁ」
通りの信号が、緑から黄色に変わったのが見えた。行き交う車は少ないが、皆が一様に減速し、停止する。
冬休み。2人は何かの予定を約束したようだが、僕には関係のないことだろう。
モヤモヤしていた自分が、何だか無性に腹立たしくて、馬鹿らしくて、思わず笑ってしまった。
不思議そうに顔を見合わせる2人。僕は慌ててカメラを取り出すと、その景色を切り取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます