会遇離別異聞奇譚

序章

 雨が振っていた。強い強い雨は山をも削り取る。

 そんな雨の中の山道を子どもが二人走っていた。先に走るほうは男の子、その後に女の子が続く。


「待ってよ! にいちゃん!」

「かよ! 急げ! ここいらは崩れるかもしんねえぞ!」

「わかってるよぉ!」


 ざあざあと生き物を追い立てる雨は止みそうにない。ぬかるんだ地面を蹴ってもいつものような早さで移動できない。


 二人の会話が雨に掻き消されてすぐだっただろうか。雨のせいで脆くなった地面が土砂となり山を下る。幸いだったのは近くの山村の者が誰も巻き込まれなかった事だろう。


 その日、山中にいた兄妹が巻き込まれなかったのは奇跡か、山神の気紛れか、村の者達は二人の無事を喜んだ。

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