ミステリー恋愛ゲームヒロイン王女様のモブ悪徳貴族に転生【隠しキャラ】。死にたくないから旅人に

@valemna

第1話プロローグ

街並みを利用して、追っ手を巻こうと走り続ける。敷き詰められた比較的新しい住宅街にうごめく複数の王族の手下達は逃げるウサギに対して千倍以上の人数である。

血眼になって追い回す兵士達と死に物狂いに逃げる元子爵。


「な、なんで!? 頑張ったのに! 回避できないのかよ!」



転生して定められた運命。ゲームのモブキャラ故の絶対的運命。ストーリーを円滑に進めるためのプログラム。



だけど



「投降してください!モータル様!」


「お嬢様はあなたを待っているのですよ!」



「ふざけるな!あったこともないのに!」




俺は一人の人間だ




プログラムじゃない




「これ以上は足を切り落としてでも捕まえますぞ!」




「(とうとう本性出してきやがったな、クソ!)」




「そっちへ回り込め!」




ひたすらに走り回る中、一つ一つの景色が前世でプレイした主人公の景色と重なった。忘れてしまったものも多い中思い出される懐かしい記憶。


ゲームエンディングの一歩手前で終わった前世。ゲーム画面では、今の視点とは全く別の立場だった。いろいろな困難を乗りこえてヒロインである王女様と、この発展途中の地で告白して結ばれる。未来に希望をもって全ての答え合わせが始まるキッカケの場所。


ゲーム内のお嬢様の秘密を知る前に辞めてしまったから、詳しくわからないが掲示板サイトでお嬢様視点のストーリーが好評だったという事実の中に実は○○だった的なものもあった。



もしも主人公に転生できていたら、もしもモータル以外に転生したら、もっと言えば



あの時無理しなければ、自分を騙してまで頑張らなければ、もしあの子供を庇わなければ。この世界ではまだ存在しない鉄の馬に殺されずに済んだのだろうか。




「捕まえました。」



安堵したような、嬉しいような吐息混じりの声に背筋が伸びる嫌な感覚が全身を包み込んだ。



路地から路地へ、でもそれは誘導されていたのだ。大通りの道の向こう側は兵士たちの壁があり、気付けば右も左も道はなくなった。


国の外に繋がる正門のほうを向けば一層多い人数とひと際目立つ装飾を纏った王女様がいた。



この先の展開は予測できる。



「もう逃げなくていいのですよ、モータル」




王子とのイベントが進行するのはモータルが死んでからで




「もう頑張らなくていいのです」




モータルの死期はバラバラで、でもここに来るときには確実にこのイベントの条件が揃えられる。




「ずっと探していたのですよ、貴方を」





そしてモータルの死に方はいつも酷く残酷なのである。





コツコツと歩みよる音が近づいてくる






「おわりです」 「おわりだ」



ふたつの声が真逆の感情を表して二人の対称性を表していた。


とっさに毒が塗られた狩り用のナイフを構える。


「くっ来るな!」



威嚇に対し周りの兵士たちは慌てお嬢様を守ろうとする。



なのに





当の本人は歩みを止めることなく迫ってくる。



モータルはその事象に諦めたように笑うのだ。



どれだけモータルの死期から逃げて、抵抗して、喚いても、無慈悲に迫りくる約束された未来が捕まえようとするのを




「捕まえた、モータル♡」




腕をやさしく掴んでくる行動自体がいままでのメタファーであり、皮肉に感じて仕方なかった。



きっとこの後酷い死に方をするのだろう。なんのためにいままで足掻いてきたのか



それはきっと死を避けるため。



では前世では何故人のために死ねたのか。




いまの俺が人であるのなら、





「よかったよ、ディスティニー皇がモータル君を保護してくれて」




「えぇ本当に、でもメイン公のおかげです」




この目の前の主要キャラも人であるのなら、もう手伝うことも出来るのかもしれない。





「お嬢様!!」



手練れの騎士がいち早く叫ぶが止められない




「その者を!」



声に反応して二人の主人公たちはモータルから目を離した。




「止め!!!!」






モータルは決意したのだ。





どうせ死ぬなら、自分でこのゲームを進めてしまおう。




最小限の動きでナイフをもっていき、しっかりと頸動脈を狙って




獣でも痺れる猛毒を派手に縫っていくように、己の肉体に刃を立てた。



意識は瞬間でもっていかれる。





「い、いやあぁぁぁ!」




最後に聞こえたのは懐かしい悲鳴だった。




























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