女王様はじつは可愛い

塚本なる

第1話はじまり

俺のクラスには女王様がいる。

傲慢だとかお金持ちだとかそういう意味ではなく、何でも完璧な優等生で、凛として強い生徒会長だからそう呼ばれているらしい。まあ実際、真面目で綺麗ですごいやつではあると思う。にしても大袈裟に騒ぎ立てすぎなんじゃないかとも思うが、俺には関係ないし、どうでもいい。

はずだった・・・・・・


放課後、俺は忘れ物を取りに教室に戻った。で、ドアを開けて驚いた。女王様がうずくまって泣いていた。彼女はこっちに気づいた途端、逃げるようにもうひとつのドアの方へ向かったが、咄嗟に俺は彼女の腕を掴み、それを止めた。

自分でも、何故そうしたのか分からない。俺はただのクラスメイトを気にかけるような心優しい人柄を持ち合わせているわけでもなんでもない。それでも彼女の腕を掴んだのは、一瞬、彼女が助けを求める幼い子のように見えたからだった。

彼女はビクッとした後、少しの間黙っていた。そして、消えてしまいそうな澄んだ声で、呟いた。

「ーーごめんなさい、手、離して・・・・・・」

「あ、ごめん」

手を離したあと、気まずい沈黙が続いた。先に口を開いたのは彼女だった。

「ーーなんで、引き止めたの? 」

そりゃあ気になるよな。でも、幼い子に見えたからとは言えるわけが無いし、なんて答えるべきか俺は迷った。彼女は、そんな俺を見て何かを察したらしい。

「別に怒ってるとかそういうわけじゃないの。ただ、浜野くんはこういうことするタイプだと思ってなかったから、気になっただけ。無理に答えなくても大丈夫だよ」

そう言って、何も無かったかのように彼女はいつも通りの様子に戻っていた。何かあったに違いないのに、すぐに切り替え、それを感じさせない振る舞いができているのは、彼女の強さからなのか、プライドからなのか、この時の俺にはわからなかった。そんな俺にも、彼女がこれ以上深堀されたくないことだけはわかったので、

「岸さんが泣いてるなんて珍しかったから、何かあったのかと思って反射的に掴んでしまっただけだ。驚かせて悪かった。」

と伝えると、

「そっか、心配させてごめんね。私は大丈夫だよ。気にかけてくれてありがとう。あ、このことは・・・・・・」

「安心しろ。誰にも言わない」

そう答えると、彼女は 「ありがとう」 と穏やかな笑顔で返して教室を出た。

俺は、女王様と呼ばれる彼女の完璧でない一面を、飾らない心の内を、初めて見た気がした。そして、あの一瞬感じた幼く儚い彼女の姿を忘れることが出来なかった。


これは、俺と女王様が関わりをもったきっかけのお話。中2の1月、俺の平凡な中学校生活の新たな物語が始まった。

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