第20話
「あぁ~どうしよう・・・。」
雅也さんから相談があって数日。私は未だに答えを出せずに頭を抱えていた。
◇◇◇
あの時、雅也さんは「瑞樹が嫌ならそう言ってほしい。」と前置きした上で話を切り出した。
「出来れば、瑞樹のお父さんに挨拶できないだろうか。」
「お父さん・・・?」
あまりに関わりが薄すぎて聞き返してしまった。そんな私を見て、雅也さんは苦笑いを浮かべた。
「ああ。瑞樹がピンと来ないのは分かっている。ただ、娘が結婚していて何も連絡も挨拶もなかったら悲しいのではないかと思って。」
悲しい・・・?あの父が・・・?
「うーん・・・私と父ってもう十年以上会っていなくて、連絡先も知らないんですよ。稀に会う遠い親戚のおじさんくらいな感覚で。だから、連絡したくないとか、連絡したいとか、どちらの感情も湧かないんですよね。父も悲しいという気持ちになるとは思えません。」
最後に会ったのは祖母の葬儀の時だ。あの頃には既に携帯電話を持っていたから、もし私に多少でも興味があれば番号を聞いたはず。そうでなくても、いつでも叔父に聞いて連絡取れたはずだ。そんな話をぽつりぽつりとしているのを雅也さんは真剣に聞いてくれた。
「ごめん、俺の自己満足だな。」
「いえ、私のこと色々考えてくれたんですよね。嬉しいです。」
寂しさやら嬉しさやらが相まって、雅也さんにぎゅうっと抱きつくと、雅也さんからも抱きしめ返してくれる。ほぅっと息をつき、幸せを噛み締める。
「雅也さん。少し考えてみてもいいですか。」
「ああ。だけど気を遣うのは無しだ。」
気遣う言葉に安心して、大好きな雅也さんの香りに包まれて、しばらく幸せな一時を過ごした。
◇◇◇
父に会いたくない訳ではない。おそらく怖いだけだ。拒否されるのが嫌なだけ。
だけどずっとこのままの関係では何だかモヤモヤしてしまって、そのままにしてしまうのは落ち着かない。受け入れられようが、拒否されようが、どっちか分かれば、もうこの先モヤモヤはしなくていい。これはいいチャンスなのではないか。
そう思うのに、やっぱり臆病風に吹かれて、二の足を踏んでしまう。
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