第10話




「よし、これで大丈夫だよね。」


 雅也さんが私の家に来る日、私は張り切って準備をしていた。約束した日から、毎日掃除に力を入れ、お茶は緑茶・ほうじ茶・紅茶・コーヒー、それぞれ色々な種類のお茶を買い漁っていた。



「買いすぎだよね・・・まぁ、自分で飲めばいいんだし。」


 雅也さんと飲むのを想像して、あれがいいかな、これがいいかな、とついついいっぱい買ってしまったのだ。


「手、とか、繋げたらいいなぁ」


 自分の呟いた言葉に、顔が熱くなり、ブンブンと首を振り、熱を逃がそうとする。少しでも仲を進展させたいと、期待が募っていく。





 そろそろ、来る時間になり、玄関隣の窓を開けてみる。ちょうど雅也さんの軽トラが見え、玄関から駆け出していた。





「・・・お邪魔します」


 少しずつ、弛んだ表情を見せてくれるようになった雅也さんの久々に見る固い表情。



(やっぱり、だめだったかな)


 どうしても進展させたくて、いつもと違う環境で過ごしたい、と考え、誘ったお茶。手芸教室の後でも良かったが、そうすると長時間になるかもしれないので、ハードルが高く感じてしまい、手芸教室の前に設定した。だけど、雅也さんの表情を見ると、あまり良い手ではなかったかもしれない。



「お茶、何でもありますよ。何が好きですか?」


「・・・何でも飲める」



 弛まない眉間の皺を見ると、申し訳なさと、悲しさが、徐々に心を染めていく。



 とりあえず、雅也さんが一番飲みやすいであろう緑茶を丁寧に淹れる。自分のために淹れるなら目分量だが、今日は茶葉をきちんと計ってみた。雅也さんに出そうとした時。



「あ」


 一瞬だけ、手が触れた。



 雅也さんは淹れたての熱いお茶をグイッと飲み干すと「もう行くぞ」と立ち上がり、玄関に向かってしまった。

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