第6話
検査入院当日。
「明日、また迎えに来るから」
見送る雅也さんを何度も振り返って確認してしまう。私が見えなくなるまで、雅也さんは帰ろうとはしなかった。
雅也さんが保証人になってくれると言ったあの日。私は散々泣いてしまった。迷惑だっただろうに、雅也さんはいつもと違う優しい表情で、私が泣き止むのをずっと待ってくれた。そして、検査入院時に病院への送迎もすると決められてしまった。何時もの如く、遠慮した、したのだが。
「迷惑とか、もう思わなくていい」
「でも」
「次、そんな風に思ったら」
「思ったら?」
雅也さんは、私に告げるペナルティーを考えているのだろう。しばらく苦悩の表情を浮かべていた。たっぷり考えた後、
「…もう、野菜選びはしな」
「駄目です!絶対駄目ですから!」
私の食い気味の拒否に、雅也さんは可笑しそうにフッと笑った。そして送迎の約束をして、私の頭に手を置き「ゆっくり休むように」と帰っていった。
嬉しかった、野菜選びのことを大切に思ってくれているような気がして。
嬉しかった、困っていることを助けてくれて。
嬉しかった、他の表情を見せてくれて。
雅也さんの、いつも違う優しい声や、緩んだ表情、嬉しくなる言葉の数々、頭に置かれた大きめの手、色々なことをついつい反芻してしまい、顔も、身体も、心も、ぐっと熱くなる。
「…さん、加藤さん」
「はっ、はいっ!」
「いつもより、かなり血圧も高いし、心拍数も多いんだけど、大丈夫?緊張してる?」
看護師さんの心配そうに尋ねる。緊張しているかも、と咄嗟に嘘をつき、深呼吸してから再度計り直してもらう。
(雅也さんに、何かお返ししたいなぁ)
入院中はそのことばかり考えていた。
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