Part2

 半年後。


「行ってらっしゃい、クラリス」

「いつでも帰ってきていいからな」


 ついに訪れた旅立ちの日。

 貧相な布の服と、安物の武具を身に着けたクラリスを、両親が笑顔で送り出す。


「うん、行ってきます」

「こちらです」


 手を振りながら兵士に案内され、馬車へと乗り込むクラリス。そして他の兵士も乗り込むと馬車は出発し、草原を駆けて遠ざかってゆく。


「ごめんなさい、ごめんなさい……!」

「大丈夫、あの子はいい子だからきっと神様もよくしてくれるよ」


 その姿が見えなくなった途端、二人の表情からは笑顔が消える。最後くらいは笑顔で送り出そうとしたものの、心は限界だったのだ。

 またも謝罪の言葉を繰り返すしかできない母に対し、父は慰めの言葉をかける。そしてその言葉は、クラリスの幸福を祈る言葉でもあった。






 王都中心部、大神殿。


「恥ずかしい……」

「もう少しの辛抱ですよ」

「うぅ……」


 王国最大の宗教施設であるこの建物の中の小部屋で、クラリスは全ての衣服を脱がされ一糸纏わぬ姿となり、女性神官たちに囲まれていた。

 神官たちは恥じらうクラリスを宥めながら、筆を手に取り彼女の素肌に所狭しと模様を刻んでゆく。


「それでは行きましょうか」


 そして額から手足の指先まで身体が幾何学的な模様に埋め尽くされると白い布を被せられて部屋の外へ。神官たちに隠すように囲まれながら、全裸に布一枚という格好で通路を歩かされ、向かった先は神殿最深部。大規模な儀式の為に作られた、巨大な泉だった。


「失礼致します」


 泉の間に着くと女性神官たちはクラリスが纏う布を剥がし再び裸にすると手足に鎖を着ける。


「きゃっ!?」


 直後、鎖が巻き上げられ華奢な身体が吊り上げられる。そして大部屋の空間の中央、泉の上に両手両足を広げられ、大の字で固定された。


 身体の何処も隠せず、羞恥心で顔を赤く染めるクラリス。


 だがここに、少女の裸体に邪な思いを抱く者はいない。欲を捨て去った神官たちはクラリスの恥じらいなど意にも介さず、淡々と儀式の準備を進める。


「これより剣士クラリスの、加護の儀を執り行う!」


 そして大神官の宣言と同時に、儀式が始まった。


 鎖で吊るされたクラリスの身体が下げられる。その足先が水に触れ、波紋を広げた瞬間。大きな泉が淡く光り、魔方陣が浮かび上がった。


 尚もその身が泉へと沈められてゆく中、同時にクラリスの全身に刻まれた模様も発光し、ひとりでに動き始める。やがてその模様は左手の甲へと集束し、一つの紋章となって刻まれた。


 同時に儀式も終わったのか、泉の光も収まり、クラリスも泉から引き上げられる。


「身体が、軽い……」


 そして鎖が外され、起き上がったその瞬間から、彼女は実感した。


「本当に、治った……?」


 生まれてからずっと自分を苦しめ続けた、不治の病。それにより常にのしかかっていた身体の重さの殆どが、すっかりと消えてなくなっていたのだ。


 その瞬間の喜びは、一生彼女の記憶から消える事はないだろう。

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