「もしも勇者パーティが全員魔王だったら?」 復活した魔王が勇者パーティに潜り込んだら、実はそいつら全員魔王でした 〜こんなパーティじゃ世界を救えないと思ったけど、好き勝手やってたらなんとかなりました〜

@pepolon

第1章 勇者パーティ設立編

第1話 魔王と目覚め

 最強と名高い魔王ノワールは力なく横たわり、その腹からは鮮血が流れ出していた。それを囲んでいた魔王の部下達は嘆き悲しんでいる。


「……そんな、魔王様が死んでしまうなんて、もう二度とお声を聞くことができないなんて悲しすぎます。どうして、どうしてオイラ達を置いて死んじゃったんですか!? 」

「いや、俺はまだ生きているが? 」

「魔王様!? よかったです、オイラ達は魔王様が生きてるって、ずっと信じていたんですよ! 」

「……その手に持っているお供え用の花はなんだ? 」

「おやつです、モグモグパクパク。なにこれ、くそまっず……」

「もう一本いくか? 」

「青汁ですか!? そんな、魔王様が死にそうになっているのにオイラだけ健康になるなんて気が引けてしまいます」

「気にするな、賞味期限切れの余り物だ。腹壊すまでたっぷり飲め」

「やっぱり、実は怒ってますよね!? 」


 豪華な装備をした魔王の部下の一人であるオークは不味そうな顔をしながら青汁を一気飲みする。そんな様子を呆れた顔で見ていた悪魔が魔王に話しかけた。


「つまらないお芝居はこれまでにしましょう。それで、魔王様の状態はいかがでしょう? 」

「くっ、思った以上に傷が深い。勇者のやつめ、やってくれたものよ」


 魔王は胸を押さえて苦しそうな顔をするとその額に汗が流れる。体長五メートルもの体格を持つ魔王がもがく姿を見て、魔族達は心配そうにソワソワしていた。ここは高く険しい山脈の中腹にある暗い洞窟、生き物がほとんど立ち寄らない隠れ家的な洞窟の奥に魔王達はいるのだ。


「魔王ノワール様はご立派に戦いました。剣で勇者の心臓を貫いた一撃、素晴らしかったです」


 コウモリのような羽を生やした女悪魔が涙目になって魔王を勇気づける。魔王が受けた傷は深く、このままでは助かる見込みはなかったが、せめてもの安らぎとなってくれればという彼女の想いがあった。


「確かにあれでは勇者も助からないだろう。こうして結果だけ見ると俺と勇者は引き分けのように思えるが、しかし本質的な部分では俺の負けなのだ」

「それは、どういうことでしょうか? これまでも何回か魔王様と勇者は戦ったことはありますけど、魔王様は余裕で勇者を退けていたと記憶してます」


 目からこぼれ落ちそうになる涙を手でぬぐいながら女悪魔が尋ねると、ノワールは胸を手で押さえる。


「実は勇者は俺に戦いを挑むたびに成長しつづけていた。正直俺としては勇者の成長を楽しんでいた部分もある。一体どれだけ強くなって俺を楽しませてくれるのかとな」


 勇者の聖剣による傷は魔族にとっては致命傷に値するにもかかわらず、いまだに話せるだけの体力があるノワールを見て、魔族達は魔王の強さを再確認する。


「だが今日、勇者の聖剣が俺の胸に刺さった時に察した。このまま勇者を成長させてしまえば魔族は滅びる、魔族のためにはここで勇者を殺さなければならない。そして俺は思わず勇者を殺してしまった。俺はあの者の成長を恐れ、自分が負けてしまう可能性に対して畏怖してしまったのだ」


 ノワールは口では笑みを浮かべながらもその目は悲しそうに洞窟の天井に向いていた。


 死に間際に悲しみに暮れているノワールの傍に緑色のローブに身を包んだ魔族がすり足でやってくる。その顔はフードで隠れていたが、服から出ていた手からはナイフのような鋭い爪が生えていた。


「もしや、魔王様は勇者を殺したことを後悔しておられるのですか? 」

「俺も武を極める者として、成長した万全の状態の勇者と戦いたい気持ちはあった。しかし後悔はしていない、勇者を倒すことでお前達を守ることができたのだからな。それよりもこんな時ぐらい顔を見せたらどうだ? 」

「いえ、涙に濡れた恥ずかしい顔を見せるわけにはいきません」

「ふふっ、あの世へのいい土産になると思ったが残念だ」


 しばらく間、沈黙が流れる。ノワールも残り短い生涯を仲間に見守られる中、静かに過ごすのも良いものだと思っていた時、先程のローブの魔族が呼びかける。


「もう一度勇者と戦いたいのであれば方法があります。長き眠りによって聖剣の傷を癒すことで、未来で勇者と勝負をするのです」

「……聖剣で斬られた傷を治せるのか? 俺達魔族にとって絶対的な殺戮兵器である聖剣だぞ? 」

「私の研究理論とここにいる魔族の魔力があれば可能かと思います」


 魔王を死なせずにすむということを聞いた魔族達は嬉しそうに飛び跳ねる。


「その長き眠りとは一体どれくらいなんだ? 」

「約千年です」

「長いな……、だが可能性があるのであれば挑戦してみる価値はある。お願いできないか? 」

「ええ、もちろんですとも」


 深々と頭を下げたフードの魔族はノワールの胸に手を当てると生暖かい光がじんわりと広がっていく。


「俺が千年眠っている間に人間に滅ぼされないように気をつけるのだぞ」

「ええ、もしかすると魔族が人間を滅ぼしてしまっているかも知れせんよ」

「その時は、その時代の魔王とでもひと勝負してみるとするか」

「本当に魔王様は戦うことがお好きですね」

「当然だ、俺の生涯には戦いしかない。いかに強い敵と殺し合えるか、それが俺の生きる原動力なのだからな」


 いつまでも戦いのことしか考えないノワールを見ながら女悪魔がクスクスと笑うと、彼は微笑みながら語りかける。


「魔族は総じて長寿であるが、俺が目覚める千年後にはここにいる者は生きていないだろう。今まで俺のことを支えてくれてありがとう、礼を言う」

「何を言ってるんですか、確かに私達は死んじゃってるかもしれませんが、いろいろな形で千年後の魔王様をサポートできるように準備しておきますよ! 」

「気持ちは嬉しいがそこまでしてもらわなくてもいいぞ、千年後の俺よりも今の魔族達のことを考えて行動をしてくれ」


 やる気に満ち溢れている女悪魔をなだめるようにノワールが声をかけると彼女はニコリと笑って返す。


「私達は魔族として魔王に仕えたのではなく、一つの生命としてノワール様に仕えたいと思っているんです。もちろん魔族全体のことも大切ですが、一番大事なのはノワール様なんですよ」


 魔王を囲んだ魔族達はうんうんと何度も頭を縦に振った。彼らの瞳は真っ直ぐで嘘をついていないことは明らかである。


「俺も素晴らしい仲間に恵まれたものだ。戦いくらいしか取り柄がない俺にはとても、もったいない……」


 ノワールの視界がぼやけていく。これが長き眠りに入る直前であることは予想がついた。


「魔王様っ!? 」

「魔王様あああああああっ!! 」

「…………どーせ、また生きてるぞって復活するオチじゃないブヒか? オイラは死ぬ死ぬ詐欺には騙されないブヒよ」

「このクソオーク、チャーシューにして鶏肉売り場に不法投棄してやる!! 」

「みんな待つブヒ、冗談ブヒよ!? もし不法投棄するなら女子高生のお弁当箱にしてくれブヒ! オイラは女子高生に食べられて、女子高生の血肉として永遠に生きていくのが子供の頃からの密かな夢だったブヒ! 」

「それ女子高生が成長してオバサンになったらどうなるの? 」

「……………………あ」

「スポンジみたいに穴だらけの夢だな。じゃあ、屠殺するね」

「ブヒイイイイイッ!? 」


 そんな魔族達の賑やかなやり取りを聞きながらノワールはゆっくりと瞳を重く閉じて、眠りについた。




☆ ☆ ☆ 千年後 ☆ ☆ ☆



 

 そして千年の月日が過ぎた時、魔物すら滅多に立ち寄らない険しい雪山にある洞窟の中でノワールはついに目覚める。


「はっ、俺は……、たしか眠りについて……」


 ノワールは辺りを見渡すが生き物らしきものは見当たらない。ただ彼の周りには発光する植物が生い茂っており、日が届かない洞窟でも視界は十分保たれていた。


「身体は……、大丈夫みたいだな。胸の痛みもない、でも何か違和感があるな」


 立ち上がったノワールを周囲をぐるりと見渡すと不思議な感じがする。


「この洞窟、ここまで大きかっただろうか? 」


 千年という時が地形の変化をもたらしたのかもしれないが、自分が来た時よりも随分と天井が高くなっている気がした。するとノワールは岩の壁にかけられた鏡に目が止まる。


「準備がいいな、千年後の俺はどんな感じだ……って、ええ!? 」


 鏡に映っていたのは黒髪の青年、それは彼が知る『人間』の姿であった。髪は長く膝まで伸びており、その中性的な顔もあることから女性に見えないこともない。


「なんで俺が人間になってるんだ!? 」


 ノワールは慌てて鏡に顔を近づけると反射した見知らぬ人間も顔を覗かしてくる。それがどことなく自分に似ていることに嫌な予感を覚えると、鏡の裏から一枚の紙がとび出ているのが見えた。ノワールは素早くその紙を取って中身を読む。


『偉大なる魔王ノワール様へ、今のお姿に驚いていると思います。しかし、聖剣の傷を癒すにはこの方法しかありませんでした。魔族に二度と消えない致命的な傷を与える聖剣であるのなら、身体を人間へと再構築することで傷を治すことができるはずです。その再構築に千年の時間が必要でした』


「……なるほど。しかし、この身体でどこまで以前の力を使えるかが気になる。それは書いてあるかな」


『ご安心ください、そんな身体でもアソコはしっかり魔王サイズを維持させていますよ♡ 』


 ノワールはブカブカのズボン越しに自分の股間を手で触る。


「…………でっか」


 普通の成人男性の手の平からすると魔王サイズのアレは相当に大きく感じるものであった。


『追伸、人間の身体でも戦闘力は五割程度は出せると推測できます。さらに慣れれば完璧に力を取り戻すことも可能でしょう』


「俺が追伸を読む前に破り捨てるようなタイプじゃなくて良かった。まあ、そうとわかればこの洞窟を出て現在の状況を調べなければならない。出口は……」


 ノワールはすぐにどこが出口なのかわかった、なぜならば光り輝く『出口』と書かれた彫刻が丁寧に置かれていたからだ。その彫刻の横の壁には小さな穴があり、指を入れて引くことで開く扉になっていた。


「さあ、ここから俺の新しい人生が始まるのだな。ふふふ、楽しみだ」


 ノワールは指先に力を込めて扉を引くと外から輝く光が目に飛び込んでくる。


「……え? 」


 目の前に広がるのは猛吹雪が吹き荒れる谷と山が複雑に折り重なった渓谷であった。鳥でもなければ平野に降りるのに何日かかるかはわからない。それに今のノワールには問題があった。


「さっむ!? 身体が痺れるほど冷たいぞ!? こんなところ数分とていられるか! 」


 せっかく開けた旅立ちの扉をピシャリと閉めてノワールは身体を手でさする。


「俺が寝た時には雪なんか降る場所ではなかったのだが、千年もすれば気候も変わるか。それにしてもこの程度の寒さで苦しむとは人間とは不便なものだ」


 ノワールはここを出るための道具が置いてないか洞窟の中を調べてみると彼が寝ていた寝具の下から手紙を見つけた。


『偉大なる魔王ノワール様、こんなところまでお調べになるとはなかなかマメですね! 魔王様が愛用にしていた剣や魔道具は私達がしっかり隠しておきます。いろいろな場所に隠していてるので、未来で宝探しを楽しんでくださいね。部下一同より』


「アイツら、もしかして俺で遊んでいないか? もしや面白半分で、俺の身体に寄せ書きとかしてないよな? 」


 仲間のことは信頼しているものの、ちょっとだけ不安になったノワールは服を脱ぎ去り素っ裸になり、鏡の前で確認しつつ、ついでにいろいろなポーズをとる。


「最初は慣れなかったがこうしてみるとなかなかの男前だ、現代の人間をまだ見たことはないが、これはいい線いくのではないだろうか」



 ガララララララララッ!!



 ノワールは裸のまま新しい自分を品定めしていると、突然洞窟の扉が開かれ、外から冷たい雪が吹き込んできた。


 音がした方を見ると、開かれた扉の先には長い金髪にサファイヤの瞳をした美しい少女がブカブカの毛皮のコートを着て立っている。その姿は人間達が語り継いでいる女神の様であった。


「「………………」」


 突然の出来事にお互いは無言で見つめ合うことしかできなかった。雪山の洞窟の中で、裸の男が鏡の前でセクシーポーズをしているのだから、何も言えなくなるのも仕方のないことかもしれない。


 そして少女の目線はノワールの顔からゆっくり下がり、その魔王サイズのモノへと移る。


「…………でっか」


 ノワールは雪のように白く美しい肌の少女へ必死に弁解をしようとするが上手く口が回らない。裸になっている時に女の子が部屋に入ってきたら、男であれば戸惑うのも当然だろう。ノワールは苦笑いを浮かべながら口を開く。


「あのさ、俺達今ならまだもう一度やり直せると思うんだ? 考え直してくれないか? 」

「まだ始まってすらいませんよ? 」


 驚く少女の姿を見てよく見ると、彼女はブカブカのコートを着ていたもののその豊満な胸と形の良い尻をしているのをノワールは見逃さない。男であれば興奮せざるを得ない身体を見て、彼は思わず唾を飲み込んだ。


「すまない、そこの少女よ。俺と……、ちょっと殺し合いしてくれないだろうか? 」

「貴方、寒さで頭やられてますか? 」

「いや正気だ、強い者を見たら戦いたいと思う気持ちは男なら当然だろう? 服であまりよく確認はできないがお前のその身体つき、相当な実力者と見受けする。だから殺し合おう」

「私が強いことは否定しませんが、初対面の人と殺し合いをする趣味はありません」

「そこをどうか頼む! どうか俺と剣を交えてくれ、先っちょだけでいいから! 」

「なんか頭やばい人に会ってしまったようです、とにかくダメですからね」

「そうか残念だ……、ということで殺し合いしよう! 優しくするからさ? 」

「スヌーズかけまくった目覚ましみたいにしつこい人ですね……」


 少女は懇願するノワールを変態を見るような目で見つめていた。言葉だけ聞くと誤解されてしまうかもしれないが、これは立派な決闘依頼なのである。彼女がそれ受け入れた瞬間、この場は戦場と化すのだ。


「繰り返しますが、私は貴方みたいな雪山で裸になってるような人と戦いたくないです」

「お前は若いから気づいていないようだが、人をあまり見た目で判断しない方がいいぞ? 」

「貴方、もしかして中身で判断してもらえば私の気が変わるとでも思ってます? 人前で裸の時点で中身もアウトです」

「ふむ、なるほどな。つまり話をまとめると俺が戦いに相応しい防具を身につけていないから殺し合いができないということか。これはスポーツマンシップに則った素晴らしい判断だな。じゃあ、ここは公平にお前が服を脱いでくれ。お互い裸で殺し合おう! 」

「貴方は私の話を聞いてましたか? 」


 防具は種類にもよるが防御魔法がかけられている高級なものならドラゴンの一撃すら受けとめることも可能であり、勝負を左右するといって過言ではない。真の勝負をするなら防具は同じものを使うのがフェアといえるだろう、もしくはお互いスッポンポンでもオーケーだ。


「それで、貴方はこんな雪山の中でなにしてるんですか? 信じたくはありませんが、もしかして困ってたりします? 」


 少女からの問いかけを受けてノワールはふと自分が置かれた状況を思い出す。知り合いもいない極寒の雪山で人間に会えたことは不幸中の幸い、できればここから脱出することに協力をしてもらいたかった。


「ああ、実はすごい困ってる。山に登ったら降りられなくなってしまってな」

「それで鏡の前で裸で決めポーズとは世界おもしろ死体コンテストにでも出場する気ですか? 見つけてしまった人の気持ちも考えて欲しいものです」


 少女は呆れたようにため息をつくとためらいもなく洞窟の中に足を踏み入れ扉を閉めた。


(この少女、近くで見るとますます美しいな。整った顔つきだけではなく、身体つきも素晴らしい。魔族でもここまでの者はそうはいないぞ)


「私の名前はアビス、こう見えて聖女として働いています」

「聖女……だと? 」


 聖女という言葉を聞いてノワールは思わず体が反応する。聖女とは人間の中で最も光魔法を上手に使える者に与えられる称号で、回復や能力強化、呪いの打ち消しなどのスペシャリストだ。ノワールも勇者との戦いで聖女の厄介さは存分に思い知らされている。そして、聖女は勇者パーティの一人でもあるのだ。


「しかし聖女がなぜこんなところに? 」

「内なる女神の声のお導きです、この辺りに困っている人がいるとのことでしたのでやって来たら貴方がいました」

「内なる女神とは、人間が信仰している女神エステリアのことか? 」

「はい、その通りです」


 聖女アビスが肯定の頷きをする。エステリアはこの地を守る女神として人間が信仰していたのをノワールは覚えていた。しかし、結局彼は自分の目で直接女神を見たことはない。


「ほう、聖女ともなると女神の声が聞こえるようになるのだな」

「ちっ、別に聞きたくはなかったけどなあ。あのクソ女神がグチグチうるせーからよお……」

「ん? 」


 急に目を細めて舌打ちをするアビスの豹変ぶりにノワールが驚いていると、彼女は胸を抑えて苦しみだす。


「しまったっ!? くううううっ!? 内なる女神様よ、しずまりたまえええっ! 今のはつい本音が出ちゃっただけだからあああっ!? 」

「おい、随分と具合が悪そうだが寒さで身体がやられたか? 」

「ふぅ、ふぅ……。いや、問題ありません。今のはちょっとした発作のようなものです。内なるクソ女神が私にちょっかいを……、ぐおおおおおっ!? 」


 再び胸を押さえて地面を左右にゴロゴロと転がるアビス。道を歩けば誰もが振り返るであろう美貌を持つ彼女が、うめき声をあげながら悶え苦しむ姿はどこか背徳感を感じさせた。


「神に祈りながら苦しむとは並大抵のものではないと思えるが? 」

「心配なさらずに、これくらいは日常茶飯事ですから、ぐおおおおっ! 実は私は女神の機嫌を損ねると天罰を受けてしまう体質でして…… 」

「ふむ、それはもしや俺の戦いの誘いにのらなかった天罰ではないか? 俺と裸で殺し合いをすればおさまるかもしれぬぞ? 」

「それは絶対にちがいますっ! 」


 陶器のようなシミ一つない細腕を地面にバンバンと叩きつけながら苦し紛れの雄叫びをあげるアビスを眺めてノワールは思った。


(ふむ、ちょっと不思議な少女ではあるが、まさかいきなり聖女に会えるとはな。このまま聖女と仲良くなれば勇者とも知り合いになることができる。そうすれば勇者との血の煮えたぎるような戦いができるというもの! 感謝するぞ千年前の仲間達よ、俺はこの時代を謳歌させてもらう!)


「なんか格好つけて笑うのはいいですけど防寒着あげますから早く服着てください、貴方のは無駄にデカくて視界に入り込むので見苦しいんです」

「……すまない」


 ノワールは思わず両手で股間を隠したが、手では隠せずにはみ出てしまっていた。でかすぎるのも困りものである。


(トイレ座ってできるだろうか、不安だな……)

 

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