降伏と共にあらんことを
御厨カイト
降伏と共にあらんことを
「……クラリスさん、戦うのって楽しいですね!」
自分の背丈より一回り大きい大鎌をまるで手足のように操る彼女が、ニコッと微笑みながらそう言う。
辺りは血で染まった惨状だというのに。
そんな彼女に対して僕は「あ、あぁ、そうだね……」と答えることしか出来なかった。
*********
冒険者の僕らが受けた依頼は山奥に根城を持ち、近隣の村などで悪事を働く山賊の退治。
これぐらいなら今の僕らの腕でも大丈夫だろうと思った。
……まぁ、逆にこれ以上簡単な依頼がギルドのクエストボードには無かったんだけどね。
出発前にある程度の準備を整え、僕は冒険者になった時から使っている愛剣、最近組んだばかりのサーミヤさんは自分の背丈よりも一回り大きい大鎌を持ち、山賊たちの根城へと向かう。
向かう途中では特に他のモンスターとも出会わず、要らない戦闘をすることも無かった。
多分、山の中で夜という事もあって見つからずに済んだのだろう。
そんな事を思いながら歩いていると、丁度山賊たちの根城が見えてきた。
根城と言ってもただの洞窟ではあるのだが、見張りが数人立っている。
どうやら依頼書によるとこの時間は殆どの確率でこの洞窟内にいるそうだ。
その情報を今一度確認した僕らは、お互いに「こくり」と頷き、武器を構える。
次の瞬間にはお互い、近くに居る見張りに向かって走っていた。
相手が言葉を発する前に相手に息の根を絶つ。
素早く仕留め、騒がれないようにする。
その時、変な所で感覚が冴えているのか異変を感じた山賊たちが洞窟内から出てきた。
だが、慌てて出てきたのか装備はちゃんとしていない。
僕らはそれを見て、「ふぅ」と息を吐き、またアイコンタクトをして「これからは僕らの時間だ」と言わんばかりに彼らの方へ向かって行く。
自慢の剣を振りながら相手を斬っていく僕と、修道服をはためかせながら大鎌をまるで手足のように操り、相手を切り裂いていくサーミヤさん。
このまま、この依頼は無事に達成できる…………そうおもっていたんだけど…………
目の前に広がる惨状に僕は言葉を失う。
地面を染めるのは血という名の赤。
…………流石にこれはやりすぎだ。
別に僕らも戦いの中で血を流さない訳じゃない。
と言っても、あくまで出す血も出る血も最小限に抑えるようにしているし、戦う相手も戦う意思を見せてきた人たちだけ。
だけど……目の前にいる彼女はまるでこの今の「戦い」を楽しんでいるかのように敵を切り裂いている。
ニコニコ微笑みながら切り裂いている。
「戦う」ことが楽しい気持ちも分からなくもない。
でも……
「サ、サーミヤさん……?」
彼女の行動を止めようと彼女の名前を呼ぶが、止まらない。
「サーミヤさん!」
もう一度さっきよりも大きな声で呼ぶが、止まらない
「……サーミヤさんッ!!!」
今度は今まで出したことが無いような大きな声で呼んでみた。
すると彼女は「何でしょう?」と平然な様子でこちらを振り返る。
……最後の1人を切り裂いた後で。
「『何でしょう?』じゃありません。こちらに向かってきた奴はともかく、降伏の意思を見せてきた人まで殺してしまうとは……流石にやりすぎです」
「……降伏の意思?いつ、そんなの見せてきましたか?」
「えっ?さ、さっき白旗を上げていたじゃないですか。それに武器を持っている様子も無かったですし」
「……あぁ、あの旗、白色だったんですね」
彼女は僕の言葉を聞いて何かに気づいたかのようにそっと呟く。
僕も彼女のその言葉を聞いて「ハッ」と思い出す。
そうか……彼女は「色盲」だった……
彼女と出会ったのはよくお世話になっている修道院での事。
「冒険者になりたい」と僕の容姿を見て言って来た時は驚いたが、丁度僕もチームメンバーが欲しかった所だったため快諾した。
その後に、彼女の体質について話もちゃんとしたのだが……
……些か、彼女は世間知らずの所があって、それからの生活をサポートしたりして色々大変だったから……すっかり忘れていた。
「……そうか、私は降伏してきた人を殺してしまったんですね」
「あっ……いや、まぁ、今回は仕方ないですよ。サーミヤさんの体質の事を忘れていた僕も悪いですし……今回の件は今後に活かしましょう」
「……一応彼らの事を祈っておきます。彼らの逝く先が良いものでありますように」
そう言うと彼女は地面に跪いて、祈りを捧げる。
……それにしても「逝く先」か。
近隣の村で悪事を働いてきた彼らが逝く先など1つだろうに。
それを知った上で祈っているのだとしたら…………いや、止めておこう。
「それでは、そろそろ町に戻りましょうか」
祈り終わったのか、彼女は立ち上がりそう声を掛けてきた。
「もういいんですか?」
「はい、多分これで大丈夫でしょう」
「分かりました。それじゃ、行きましょう」
そうして、依頼を達成した僕たちは町に戻るために来た道を戻ることにした。
「……そういえば、クラウスさん」
「どうしました?」
「私、戦っている時に気づいたんですが――」
『人間って斬ると中から水が溢れ出してくるのですね』
ゾクッ
まるで新しい事を知った子供のように無邪気に笑いながら、そう言ってくる彼女。
真っ赤に染まった修道服が、後ろの月明りに照らされて蠱惑的に輝いていた。
降伏と共にあらんことを 御厨カイト @mikuriya777
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