第5話

 未婚で能力のある令嬢と言えば、真っ先に思い浮かぶのはロックウェル子爵のご令嬢ハイデマリーだ。シャルロッテと同い年で、王立学校を首席で卒業した彼女は十分クリストフェルの言う優秀な令嬢に当たる。

 容姿も端麗で、腰まで伸びた赤茶色の髪は手入れが行き届いており、いつもお洒落なバレッタでハーフアップにしている。

 少々勝気な性格で物言いが厳しくなる時があるが、根は優しく真面目な令嬢だ。

 しかし、彼女ではないと断言できる。

 ハイデマリーとシャルロッテは、仲の良い友人なのだ。真面目な彼女が、友人の婚約者を取るとは思えない。


 能力だけで見るなら、ロワー家のクラリッサもかなり優秀だ。

 艶やかな漆黒の髪を持つ彼女は見目も麗しく、黙って立っているだけでも絵になる。ハイデマリーと同じくらい頭も良く、物腰が柔らかいため人望もある。

 しかし、彼女は魔女の血筋を持つロワー家の出で、爵位はない。彼女自身も魔女の能力を持っており、王妃として相応しいかと言われれば首を傾げざるを得ない。

 少し前まで、魔女は迫害の対象だったのだ。人知を超えた能力を持つ彼女たちは恐怖の対象であり、排除すべき異質な存在として扱われてきた。

 今でも他者を害する恐れのある強力な能力を持つ魔女は、魔力を封じる鎖をつけられている。鎖と言ってもアクセサリーとして誤魔化せるほどにお洒落になっているのだが、見る人が見ればわかるのだ。

 そしてまた、彼女もシャルロッテの友人だった。

 心根が素直で考えていることがすぐ顔に出てしまう彼女が、シャルロッテの婚約者と良い仲になって平然としているとは思えない。そもそも彼女の場合、クリストフェルに言い寄られた時点で即座にシャルロッテに報告するだろう。そのくらい、シャルロッテとクラリッサの仲は良好だった。


(シルヴィ……は、さすがにないわよね)


 マールヴェル男爵のご令嬢シルヴィは人当たりが良く、友人がたくさんいる。運動神経抜群で明るく、誰に対しても気さくに接する彼女に好感を持つものは多く、男爵家の令嬢でありながら城下町の平民にもたくさんの友人がいる。

 さらには、決してリーデルシュタイン王国との仲が良好とは言えない、北方の軍国スーシェンテの貴族にも友人がいると言うのだから、シルヴィの人脈には限りがない。

 シャルロッテも人脈は多いほうだが、何かあったときに協力を仰ぐことができる知り合いと言うだけであって、シルヴィのように友人関係を築いているわけではない。

 銀髪のショートカットが爽やかな彼女は、南方出身の母方の血が強いのか、魅力的な小麦色の肌をしている。容姿も華やかで、彼女の無意識の人心掌握術は天賦の才と言えるが、王妃として見た場合は頭脳の面でやや問題が残る。

 シルヴィはクラリッサ以上に素直すぎた。思ったことをそのまま口に出してしまうタイプなのだ。

 もしもクリストフェルと何かあれば、すぐに友人のシャルロッテやハイデマリー、クラリッサに相談していただろう。彼女は嘘がつけない性質なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る