第4話
シャルロッテは未だに状況が理解できずに混乱するクリストフェルを横目に、小さくため息をついた。
先王が崩御したという知らせを聞いた時点で、遅かれ早かれこの婚約は破棄されるだろうとは思っていた。まさかこのタイミングで言いだされるとは思ってもみなかったのだが、結末が同じなら時期など大して重要ではない。
(クリストフェル様が私のことを好いていないことくらい、昔から知ってたわ)
誕生日に貰うプレゼントは毎回同じ、安く価値のない石がついたアクセサリーのみ。最低限の礼儀として毎年デザインは変えているようだが、社交界につけて行ったら笑われてしまうようなものだ。宝石ですらない。
(別に高い宝石がついたアクセサリーが欲しかったわけじゃないわ。毎年毎年、君にはこの程度の価値しかないと言われているようで嫌だっただけ。何ももらえないほうがマシだった)
幼い頃から、目すらもまともに合わなかった。
いつもクリストフェルはシャルロッテからわずかに視線をそらして顔を見ないようにしていた。最初のうちは気のせいだと思っていたのだが、何度顔を合わせても目は合わず、注意深く視線の先を探れば、微妙にシャルロッテを見ていないことに気づいた。
どこか遠くを見るような目つきは、まるでシャルロッテの存在を無言で拒絶しているようだった。
(食事の時だって黙々と食べるだけで会話なんてほとんどなかったし、デートもパーシヴァルが提案したコースを義務的に回るだけ。先王が決めた婚約者だから嫌々従っていただけで、私に興味がないことは分かってたのよ)
義務感だけしかない婚約を、王の崩御に伴い破棄されることは想像できた。そのための心構えもしてあった。
しかしそれは、喪が明けたのちだと思っていたのだ。それこそ、王が健在なら結婚式をしているはずの日に言い出されることを覚悟していた。
(まさか戴冠早々、喪が明けないうちに言い出すなんてね)
大方、誰か良い人でもいるのだろう。
賢王を継ぐクリストフェルを支えられるだけの能力を持った、シャルロッテ以上に優秀な女性が。
(それは、誰なのかしら?)
少しの興味から、シャルロッテは何人かの令嬢を思い浮かべた。
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