第28話 イストリア・エスタンテ【ニコ視点】
暖かい。
前は、こんなこと考える暇は無かった。それよりも苦痛が私の全てを満たしていた。
「…………」
そのまま。
暖かい感覚のまま。通り過ぎた。
「……溶けて、ない」
「ニコ……大丈夫?」
「ええ…………?」
溶けなかった。まさか。一度、溶けて。
「驚いたな」
「!」
そにはベッドがひとつ置かれてあって。
掛け布団を半分だけかぶり、ヘッドボードを背にして座るひとりの女性が居た。
ルミナと同じ白い髪を編み込んでいる。ルミナより白い肌。年季の入った老獪さを彷彿させる鋭い目。病院の患者服のような、白い装束。
「よう来た。……『人間』か。この部屋へ来る人間は、久しいな」
「人間……?」
40代くらいの人間の外見だ。少し皺が見える。インジェンと似た顔立ち。それはつまり。
「……いつかの『
「
「!」
入口で流れ落ちている
「今、外で何が起きているか知っているかしら」
「お主が来たということは、インジェンは失敗したのだろう。ならば今頃は、屋敷の者は捕まっているだろうな。残るは、我のみぞ」
「…………あなたはここから、動けないの?」
「左様。もう100年、部屋どころかベッドから一歩も出ておらん。『動く』機能は、我には再現されておらん」
「……100年? あなたは一体」
「我の性質は、『不老』。……不死ではないから死ぬぞ? だが老いぬ。まあ、この性質になった時には既にこの通り老いていたが。それからは変わらん。……端的に言えば、イストリアという宗教の御神体だな」
「………………宗教」
屋敷の構造が変だと思った。
これは、宗教施設も兼ねていたんだ。
「あなた達の目的は何? 『
まず目的を。
話し合いはそれからだ。
「……インジェンが言っていただろう。好奇心は止められぬと」
「!」
言っていたどころか。書いていて、私は何度も読み込んで。私の心に染み付いて。だからこんなところまで来たんだ。
「イストリアは
「…………あなたは違うの?」
「我以降、『不老』は現れておらぬ。奇跡に近いのだ。我の役目は、『記憶する』こと。この不老体を使って、これからの全てのイストリアを記録していくこと。……『イストリア・エスタンテ』と言う」
「……
つまりイストリア家の研究の、全ての記録。それは彼女の
「手が止まらぬのだ。我々は。気になったら。……新たなページを見付けると、捲りたくて仕方無い。常に。最前線で。……捲り続けること。それがイストリアの血」
「…………!」
――私はね。気になることがあったら『我慢できない』の。すぐに調べて、すっきりしたい。……すっきりしないのよ。謎があると。ドロドロした
最初に。ルミナに言ったことだ。私が。
イストリアの、血。
「何故来た。ベルニコよ」
「!」
「ここへの捜索も、インジェンの阻止も。インジェンを読んでいてメッセージに気付き、解読したのなら。その考察と情報だけを当局に渡せばそれで解決しただろう。何もお主がやることなどなかった。危険を冒して、保護者を心配させてまで」
「…………それは」
「お主の目的は、『公女として』守るべき『社会秩序』ではなかったのか? 発言と行動に矛盾がある」
「……っ!」
鋭く、視線が刺さる。この人は、インジェンとは違う。
強い。
彼女を納得させるだけの論理を、今私は持っていない。
この部屋のことも、警察に任せれば良かったのだ。リームスタワーまでは良いとしても、何故イストリア家へまで来たのか。
「ねえ、エスタンテさん」
「む」
「!」
私の口が止まった。
次にルミナが。
口を開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます