第21話 準備と賭け【ニコ視点】

「インジェンはそのリームスタワーで何をしようとしているの? どうしたらわたし達の勝ちなの?」


 この、ルミナからの問い掛けは当然だ。これからの指針を明確にする。


「タワーにある国一番の大型タンクを破壊して、都市を光泥リームスに沈めるのが彼女インジェンの計画よ。その為に、各地でデモやクーデターを起こしているのは半分撹乱のようなもの。タンクさえ破壊できれば後のことは割りとどうとでもなる」


 研究所の地下に、プールがあった。案内された。

 勿論、光泥リームスの溜まったプールだ。諸々の法律に違反しているけれど、今は目を瞑る。


彼女インジェンは、脱出方法を揃えている筈。居場所の分かっている『今』、必ず捕まえないといけない。逃げられたらもう捕まらないわ。はしない。唯一最後の隙が、今という訳」

「どうして『今』居るって分かるの?」

「クーデターは『電光石火』が基本なのよ。基本的に武力は国が上なんだから。タンクを破壊するとしても、時間が経てば経つほど対策できるでしょう? タンク狙いなのは誰でも分かるもの」

「そうなの?」

「……後で移動中に教えるわ。つまり、電光石火よ。彼女インジェンは私を指名した。『話し合い』の時間と場所を作ったの。望む所だけど、細工を施すわ」

「インジェンを捕まえるの? きっと光泥リームスで武装してるよ。それで『何でも作って』対抗してくる」


 アサギリ氏の研究資料に、今私が知りたいことを見付けた。さっき地下泥路で、ルミナがやったことだ。

 光泥リームスで、何か物質を生み出すという使い方。


「試すわよ。今。ルミナ、プールへ入りなさい。ぱっと思い付いた、24個くらいパパっと試すわ。それで、作戦を考える」

「えっ。うん。分かった」


 私達の策の中心も、ルミナのこの能力だ。これを使って、インジェンをタワーに留まらせる。逃さないように。


「……空にしたタンクに閉じ込めるのが一番ね。あそこには……クレーンが何台かある。エレベーターの位置は……」


 イストリアは。

 アサギリ一族から研究を奪った。そして、人間に隠れて秘密裏に研究を続けていた。その集大成が、インジェンだ。

 捨てられたルミナよりも、その能力や性質はの筈。


「紙」

「うん。白紙なら」

「ハサミ」

「……ちょっと無理かも。出たけど形が違う」

「もう一度。ハサミ」

「あれっ。できた! なんで?」

「…………なるほど。コピーではないのね。新たに作ることもできない。一度溶けた物でないと『復元(?)』できない。この性質使い方が復元なのか再現なのか分からないけれど。法則性はありそうね。一度『復元(仮)』できれば、それの複製なら可能、と」


 いくつか試す。その規則性や、限界値を探る。もこもこと、ルミナが私の指示に従い、光泥リームスで工作を始める。


「お嬢様。工場から光泥車が到着しました」

「分かったわ」


 時間が無い。


「運転手より、旦那様からのご伝言があります」

「ええ。読むわ。それと、タワー管理室とも連絡を取ってくれる? あとウチの建設部門。これとこれ、用意してって」

「かしこまりました」


 チルダも忙しなく動いてくれている。父からの伝言はメモ用紙として渡してくれた。私も、彼らへの要求を書いたメモを渡す。

 続いて、アサギリ氏へ顔を向ける。


「アサギリ博士」

「なんだい」

獣人族アニマレイスは何故、獣の耳と尻尾を持つの? 生命アニマという物質を司る人工種族だとしても、どうして獣の特徴を持つのかしら」

「人間と姿を別けた意図としては、外見で分かりやすく判断できるように、と言われている。獣の感覚器官と融合させたのは、光泥リームスを操るのに効率が良いからだ。どうして獣の耳と尻尾なのかは……。しょうもないよ。開発者が

「…………なるほど。完全に納得できるわね」


 【真実は意外としょうもない】。

 いや。

 ここへ来て良かった。無策じゃ絶対に負けていた。

 ルミナが居て、良かった。


「えぇ……。わたしの耳、大昔の誰かの趣味だったんだ……」

「微妙なショックを受けている暇は無いわルミナ。とても良い趣味だし。次。行くわよ。触って、形をよく確かめてから、溶かしなさい」

「…………! うん。うん?」


 その、実験を数度終えて。


「……ねえルミナ。思い付いたわ」

「…………わたしも。だけどこれ、駄目だよ」

「いいえ。考えることは同じね? なら」

「ニコ待って」


 光泥リームスプールを眺める。

 縁に足を掛けて、よく見る。


「…………これが成功すれば、確実に隙を突ける。彼女インジェンは、私のことしか見てない筈」

「駄目だよニコ。そんなの。もっと別の方法ある筈だよ」

「そうね。でも、ルミナ。……賭けよ」

「…………」


 チルダは今、研究所の表でウチの社員と父との連携について確認している。この場に居れば、絶対に止められるだろう。


 今。やるしかない。


「ちゃんと、『復元』してね? ルミナ」

「…………!」

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