第16話 地下泥路を急ぐ【ルミナ視点】
ニコの研究室の地下から、泥路に出た。幅10メートルくらいの人工の川のような路の側に、整備用の通行路が続いている。
勿論全て頑強ガラス製。
先頭にチルダさん。次にニコ。最後にわたし。
チルダさんは道が分からないから、ニコに指示を貰って進んでいる。
分かれ道がいくつもある、光とガラスの迷路。
「絶対に落ちないように。死ぬわよ。助けられない。
「……う、うん。でも、
「馬鹿。試せもしないのに鵜呑みにしたら駄目よ。もしインジェンが嘘吐いていたらあなた『犬死に』よ」
「…………うん」
地下だけど、暗くない。白く光っている。寧ろ外より明るいかもしれない。
もう、夕方だ。ニコが『
「…………ねえ」
「なに?」
わたしはあの時、答えられなかった。インジェンという作家さんがわたしと同じ
イストリアを暴くことはきっと、わたしにだけじゃない。ニコにも関係する。
「その、研究者さんに会ってどうするの? それよりインジェンのクーデターの方が緊急だよ」
「違うわ。相手は
「…………武器って」
「『情報』のことよ。『泥濘』を読んで、次にインジェンがどこでどう動くかは分かった。後はこっちも備えるのよ。それには情報が必要。それに今から向かうのは本職工事屋。つまり『頑強ガラス職人』。私に考えがあるの」
「…………分かった」
急ぐ。けど、慌てない。足を滑らせればすぐ側に流れている
暖かい。まるで、いつも見る夢のようだ。ガラスに覆われていない生の
「暴動はもう起きてる。人的被害が出てる。……私の。
「……うん」
お屋敷から13番区までは、30分ほど掛かるらしい。
天井の先には、地面。地下だけど、標高的には貧民街より上部らしい。
この都市は、山ひとつ、くり抜いて造られたんだって。
『……平等! 平等!』
『権利! 権利!』
『既得権益に塗れた薄汚い人間の貴族どもを引き摺り下ろせ!』
天井から、地上の声が届く。叫び声だ。きっとあちこちで、デモが起こってる。破壊活動が。
貧民街から、
「ルミナはどう思う?」
「えっ」
訊ねられた。息が切れない程度の早足だから、会話はできる。
「…………チルダさんと同じ意見だよ。今の議会を破壊して無理矢理民主化しても、『民主国家』にはならないよね」
「何故?」
わたしは、最近覚えたばかりの知識を総動員して考える。
ニコに、置いていかれたくない。もっと勉強したい。
今ある知識と情報で、今は考えるしかないけど。
「だって、『泥濘』を読んで賛同した人達は良いけど。貧民街の奴隷って、文字読めない人多いよ。その人達は、ニコの言った通り政治が分からない。今の政権を倒して『誰か』が代わりに座っても、奴隷達からすれば同じことの繰り返し。貴族は殺されたり奴隷に落ちるかもしれないけど。今度はその賛同者達が『貴族』になるだけで。何も変わらない、と思う」
「……そうね。あなたやっぱり、うんと賢いわ。私より。……私はそれに気付くまで、数年掛かったもの」
「…………」
こんなクーデターじゃ、何も変わらない。人間から
殺される。
わたしはそう思う。
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