第14話 獣人族のクーデター【ニコ視点】
インジェン最新作『
まず私が、それを読むことになった。チルダには昨日の取り決め通り
「………………」
まず。
『この物語は創作である』という、お決まりの一文が無かった。
これは小説ではない。
【私の真の名前はインジェン・イストリア。暗く深い
最初に捲ったページに。前書きでその一文だけが載せられていた。
インジェンは、
そして。インジェンはイストリア家の者だった。
そこからは、簡単だった。
『全て』が書かれていた。彼らがどのような仕打ちを受けて生きてきたか。細かく描写されていた。
耳や尻尾を切り落とす拷問。
狩られて、衣服用に毛を剃られて、殺された過去。
人間の性犯罪や娼婦が著しく減ったのは、
廃棄物処理に困らない筈なのに、貧民街にはゴミが大量に溢れている現実。
確かに、煽っている。
彼らの怒りを。
そして途中から、人間だけが
昨日の、タンク襲撃テロ。人間側の
逆に、
これまで『インジェン』の作品を読んで『政治』を学んだならば。いつでも『民主化できる』と。『その準備はできている』と綴られていた。
都市を、
溶けずに生き残った我々アニマの一族こそが、これから『正しく』文明を導いていく。
そうすべきだと。
強く強く、ページに刻まれていた。
曰く――
【これまでの常識や価値観など、知らなかったたったひとつの事実で引っくり返る】。
「…………」
これは復讐ではないと。
正当な『政治主張』であると。
「………………コ」
今の特権階級を降ろすだけで、人間の貧民には手を出さないと。
扇動、していた。
「…………ニコ!」
「きゃ! わっ。……何!?」
肩を鷲掴みにされて、揺さぶられた。驚いた私は本を滑落として、椅子からずるりと落ちた。
「大丈夫? ずっと……震えてたよ」
ルミナが、大きな漆黒の瞳で心配そうに私の顔を覗いていた。
「…………ええ。大丈夫よ。これは、人間を洗脳する本じゃなかった。
「……わたし、読んで大丈夫そうかな」
「まずは、私から内容を説明させて?」
「分かった。それと」
「?」
「外……なんか騒がしくて」
「えっ」
ちらりと見る。ここは2階。すぐ下に玄関。門が見える。
当局から派遣されてきた警備隊が居るくらいで、特に問題は無さそうだけど。
「ベルニコ」
「お父様?」
父が、ノックも無しに入ってきた。
「貴族街へのゲートに、大勢の
「…………そんな」
「良いか。ここから出るなよ。……
「あっ。ちょっと」
『
父もそれどころではないのだ。すぐに引き返していってしまった。
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