第13話 この世界の政治判断【ニコ視点】
国とは。政治とは。
『なにやら分かりにくい複雑なこと』ではない。
『人それぞれなことを皆の投票で決めること』ではない。
『凄い頭の良い人にしか分からないこと』ではない。
断じて。
学校が無かった時代。
文字や計算が無かった時代にも。
人間は居て、国があって、政治が行われていた。
人が集まる時、そこには目的がある。家族が集まる目的は、その安全と子供の成長が目的の家庭が多い。
学校に集まる目的は、知識を蓄えたりコネクションを増やしたり、将来の選択肢を増やし、有利になるため。
国も同じである。規模が大きくなっただけで、『人が集まる』という本質は変わらない。
その目的は、民の生存と発展。
目的が共有された。次に、どうすれば目的が達成されるかを考える。今の状況を把握して、手段を考える。
煮込みスープを作りたい時。今の
『正しい』とは、目的に即していることを言う。
『間違い』とは、目的に反していることを言う。
ここが大事だ。これを分かっていなければ、政治など語る資格は無い。
この国の場合、その目的は『民の生存と発展』。あらゆる政治判断の全ての基準はこれなのだ。この目的に即しているかどうか。これが全てであり、考えるべき唯一だ。
政治が難しいと言われていることがあるとすれば、その『状況把握』に時間が掛かるというだけのことに過ぎない。4〜5人の家族なら誰がどんな状況なのかすぐに分かるから、正しい判断がすぐに分かる。けれど、それが何百何千、何万となれば把握に時間が掛かる。
それだけだ。時間を掛ければ良いだけで、把握さえできてしまえば政治判断など子供でも分かる。何も難しくは無い。
民の暮らしはどうか。医療は。軍事は。外敵は。科学は。税は。人口は。
全て、現状を把握してから『考えること』は始まる。でなければ誤った判断を下すことになる。
誤った判断を下せば。『民の生存』が達成されない。つまり民が死ぬのだ。その責任の所在は?
「『民主制』とは、文字通り『民が国の主』という制度ですね。正直、『国の主』としての教育を受けていない国民が圧倒的多数の今、この国を民主化するのは自滅行為だと思いますが」
「……ええ。その通りね。今の民に全ての王としての仕事を押し付けても、『状況を把握できない』し、『正しく考えられない』し、『判断を誤る』。すると、国はどんどん衰退していく。その責任は、『民』にある。誰にも文句が言えない。これまで文句を言う相手だった政府や王が既に居ないのだもの。ただの、国家崩壊。……人口割合的に、学校に行けるのは少数の、遥かな上流階級のみ。後は『国とは目的を持って集まった人の群れ』ということすら『思い付かない』人達。政治なんて絶対に無理よ。しかも下手に人数が多いから、選挙なんてやるとその場限りの軽い人気取りで、『政治をやる資格の無い者』が票を集めてしまう。そうなるともう、手が付けられない。崩れかけた所を隣国に攻め込まれてジ・エンドね。永遠に奴隷国家となる」
「…………」
私とチルダの会話に、ルミナは余り付いていけてないみたいだった。必死に理解しようと眉を歪めているが、この会話には事前知識が必要だ。
「ルミナ。この国の政治形態は知っている?」
「……知らない。王様?」
「ここはリヒト公国。公国というのは、王様ではなく貴族が治めている国ということ。いくつかの上級貴族が議会を開いて、政治決定をしているのよ。ウチもそのひとつ」
「えっ。ニコ、
「……まあ、似たようなものね。どちらかというと公女って感じかしら。だから幼少期から、そのような教育を受けて育ったのよ。
「お嬢様はいずれ、ヴェルスタン家の家長としてリヒト公国の政治を担われます。今はその為の勉強中なのです」
「そう。私の今の生活の『全て』が、『その為』にある。……目的がはっきりしていると『生きやすい』の。だからあなたにもそれを訊いたのよ」
と言っても、何十年先の話か分からない。父はまだまだ健在だ。私は父の若い頃の子供だから。父はまだ30代前半だし。
だから今私は、それを念頭に置きつつも、私の『生き方』をやっている。知りたいことをそのままにしておかずに、すぐに調べて解決する。
この事件もすぐに。
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