第20話 魔眼を持つ者 後編


 姿無く、声だけが聴こえる。しかも、僕たちをこの場で殺そうとしている。

馬車の中であんなにも優しかった彼女がいったい何故?



「父上、こっ、これはどういう事ですか?」


「どうやら、彼女は私達の命を狙っているらしい」


「そんな……」

「どうして……」


「私にもそれは分からない。だが、私達が生きている事に不都合の者が居ることは間違いない。メディウスいいか、決して父の傍を離れるな!?」


「はい」



 こんな時に、何か役に立つ力が使えれば良いのに。

僕は、ただただ父様に守られるだけの存在。せっかくの僕の誕生日なのに、なんでこんな、母様の知り合いで無かったの? 



 信用できる人達じゃなかったの?



「ショータイムは終わりです」



 彼女の声が聴こえた瞬間、視界に映っていた町の通りは一瞬で無くなると、僕は知らない空間へと吸い込まれていた。



「「ハッピーバースデー」」


「え!?」



 どういう事? 何か眼の前に本屋さんらしき建物も見えるし。



「驚かせてすいません。私はやりたくなかったんですけど……どうしてもとノラン様に頼まれて。空間転移サプライズを敢行しました」


「何時そんな相談をしていたんですか?」


「お前が鑑定している時だよ」


「さっきのは、全て演出だったってこどですか?」


「はい、緊迫した戦闘シーンが有った方が喜ぶと……メ、メディウスさん?」

「ノラン様、だから私は反対なのに、泣かせてしまったじゃないですか」


「済まん、やり過ぎたようだな」


「メディウスさん、お父様を許してあげてくださいね。アナタにカッコイイ所を見せたかっただけなんです」


「そうなんですね。分かりました!? じゃあ、もう泣くふり止めます」


「えっ!? 泣くふりだったんですか?」


「はい。いえ、それも嘘です。さっきはメルさんが悪い人と思ってしまい本当にそれはショックでした。これはその涙です」


「本当にごめんなさいねっ。やり過ぎました。(もし魔眼をお持ちなら、素敵なものをプレゼントしますね)ゴニョゴニョ」


「二人で何の内緒話をしているんだ?」


「「内緒です。ねーー」」


「じゃあ、行きましょうか! ランラララン」


「はい、ランランラン」



 僕とメルさんは仲良くお手々を繋ぎながら、古本屋さんに入った。話を聞いていたよりも、大きな本屋さんだ。此処も十分に大きく感じるって事は、普通の本屋さんって、一体どれだけ大きいのだろうか?


 早速中に入って驚いた。



「父上、凄いです。右を見ても左を見ても本、本、本の山です。此処は別世界なのでしょうか?」


「ははは、メディウス。そうだな、此処はこの世界に有る異世界と言えるかもな」


「異世界と言えば、面白い本が有りますよ」


「面白い本ですか?」


「え〜〜と、前来た時に見て、確かここら辺に有ったはずなのですが……有った有った有りました!? コレです、はいどうぞ」


「何ですかこれは? 何か赤い……」



キ――――――――――――――――――――――ン



 何だこの耳鳴りは!?

 鼓膜が弾けそうだ。



ズキ

ズキズキ

ズキズキズキ

ズキズキズキズキ





頭の中で何か得体の知れない光る何かが……近付いて来る。




 ブオン

 ブオンブオン

 ブォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ




 キキーーーーッ




「うわぁああああああああぁぁぁ」


「どうした!? どうしたメディウス」



 いまのは一体何だったのだろう? 


 見た事も無い光る眼をしたモンスターが現れたかと思ったら、それは断末魔の様な叫び声を上げた、その後衝突した僕は何処かへと投げ出されたていた。



「メディウスさん!? メディウスさん」


「父様、メルさん!?」


「大丈夫か!? メディウス、一体どうしたと言うのだ」


「分かりません。メルさんから渡された本を持った瞬間、何か得体の知れない魔物に襲われた映像が見えました」



 本当に何だったんだろう。急に脳内で見えたあれはとてもリアルだった。まるであの時、本当にぶつかったとさえ感じた。



「ごめんなさい。異世界から来たと言われてる本なのですが、呪いでも有るのでしょうか? 安易に触れるのはよく無かったですね」


「メルさんは大丈夫だったんですか?」


「そうですね、特に・・・・・・私は何も無かったです」


「メディウスだけに起きたと言うのか・・・・・・」



 どうして僕だけに起きたのだろう?


 投げ出された時に感じたあの硬い地べたの感触がまだ手に残っている。黒くてヒンヤリとしてザラザラとしていた。



「念の為、精神回復の魔法を」


「ありがとうございます、メルさん」


「いえ、私がこんな本を手に取らなければ。大体赤くて不気味ですもんね」



 そう彼女が言ったあと、頭の中に謎の四文字の言葉が浮かんだ。



 



「メディウスさん、気分は大丈夫ですか?」


「もし具合が悪ければ、本を見るのは止めて身体を休めた方がいい」


「いえ大丈夫です。本を諦めこのまま帰る何て嫌です。それに魔眼を持っているか、知りたいですし」


「そうか、何処にも異常は無いのだな。なら、お前の誕生日だ。お前の好きな様にしなさい」


「ありがとうございます」



 それから僕は、先ず此処に来る前に買おうと決めていたジャンルの本を見て周り、五冊買う物を決めた。残りの五冊はメルさんが現在探している物を買う予定だ。


 もし、僕が魔眼を持って居たらの話なんだけど。


 暫くすると、メルさんが何十冊も本を抱えて戻ってきた。


 この本屋さんはご丁寧に読書出来るスペースが有り、そこで僕と父様は待っていた。因みに父様も三冊程何か本を選んでいた。



「お待たせしました」


「こっ、こんなに有るんですか」


「はい、有りますよ。魔眼を持って居ない方は圧倒的に多いので、こうやって普通に売られてしまうんです。ではでは、お待ちかねの時間ですね」



 僕は手に取って開いた。その本には植物の絵が描かれていた。不思議な事に様々な植物の絵が描かれているにも関わらず、そこには何の植物で、どういう植物なのか等一切説明が書かれて居なかった。


 一見すると、未完成のまま出版された植物図鑑に見えた。



「どうでしょうか? メディウスさんの瞳には何が映っていらっしゃいますか?」


「植物が見えます」


「どれどれ、私にも見せてみろ。うん、これは植物の絵が描かれた本だ」



 父の言葉で僕は悟った。どうやら僕には魔眼は無いらしい。せっかくメルさんが、たくさん抱えて持ってきた特別の本達も、僕にはただの中身の無いつまらない本としかならない。



「ごめんなさい。せっかく何冊も選んでくれたのに」


「いえ、大丈夫です。ただ持ってきただけですから、大した事無いですよ」


「そんな事あります。これらの本をこの広い本屋の中からわざわざ探して来てくれたんです。見つけるのに何十冊、いえ何百冊と確認されたのでは無いのですか?」



 何処に魔眼の本が置かれてるかなんて、きっと探すのに大変な労力を必要しているに違いない。実際僕の視界に入る本だけでも、優に何百冊も本が棚に置かれたり、無造作に積まれたりと有るのだ。



「メルさん、どうじゃな?」


「あっ、ロンベルさん。先程見せては見たのですが・・・・・・」


「駄目じゃったか」


「はい」


「あのぉ〜〜この方は?」


「ああ、此処の古本屋のオーナーのロンベルさんです!?」


「オーナー!? メルさん、道中で魔眼の事を安易に話しちゃ駄目って言ってませんでしたか?」


「それなら問題ないぞい」



 いや、何が問題無いと言うのだろうか?



「いや、メル殿。息子の言う通りだ。この方は店のオーナーとは言え、息子が魔眼を持っているかについて話すのは問題が有るだろう」


「なんじゃその事か、それなら尚更心配せぬとも良い。わしゃぁ、持ちじゃからのぉ」


「「ぇぇえええええ!?」」

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